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人事労務コラム Column

2017.12.01

法改正情報

求人募集ルールの変更と実務上の留意点

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

今回は、2017年1月から改正予定の職業安定法における求人募集ルールの変更点と実務上の留意点について見ていきたいと思います。

1.求人募集ルール変更の背景と変更明示義務

ハローワークや職業紹介事業者を通して求人票を掲載する場合、業務内容や賃金、労働時間その他の労働条件を明示することとされていますが、実際に求人者と求職者の間で労働契約を締結する際に、求人票より低い賃金を提示されたとか、正規社員ではなく非正規社員での条件を提示された、あるいは求人票とは違う勤務地を提示されたなど、求人票と実際の労働条件が異なることによりトラブルに発展するケースが多発しており、2016年度にハローワークに寄せられた苦情等の申出件数は全国で年間10,000件近くに上っています。

このため、職業安定法や指針等が改正され、求人者は、ハローワークや職業紹介事業者から紹介された求職者と労働契約を締結しようとする場合で、これらの者に対して求人票で明示された労働条件を変更、特定、削除、追加する場合には、相手方に対して、変更する労働条件の内容を書面等で明示しなければならないこととされました。

2.変更明示が必要な4つのケース

では、変更明示が必要な場合について、4つのケースに分けて見ていきたいと思います。
まず1つ目は、当初の明示と異なる内容の労働条件を提示するケースです。具体的には、当初の求人で基本給30万円と明示していたところ28万円に変更した場合や、勤務地を東京と明示していたところ神奈川に変更した場合、あるいは業務内容を総務人事の業務と明示していたところ経理の業務に変更した場合などがこれに当たります。

2つ目は、当初の明示の範囲内で特定された労働条件を提示するケースです。具体的には、当初の求人で基本給25万円から30万円までと明示していたところ28万円を提示した場合や、勤務地を関東と明示していたところ神奈川に特定した場合などがこれに当たります。

3つ目は、当初明示していた労働条件を削除するケースです。具体的には、当初の求人で基本給25万円、営業手当3万円と明示していたところ、営業手当を支給せず基本給25万円のみとした場合がこれに当たります。

4つ目は、当初明示していなかった労働条件を新たに提示するケースです。具体的には、当初の求人で基本給25万円と明示していたところ、基本給25万円のほかに営業手当3万円を新たに提示した場合がこれに当たります。

3.変更した労働条件の明示方法

変更明示は、求職者が変更内容を適切に理解できるような方法で行う必要がありますが、指針ではこの点について、次の2つの明示方法を挙げています。まず1つ目は、当初の明示と変更内容等を対照することができる書面を交付する方法です。2つ目は、労働条件通知書や雇用契約書において、変更内容等に下線を引いたり着色したりする方法または変更内容等を注記する方法です。指針では、前者の方法によることが望ましいとしつつ、後者の方法などにより適正に明示することも可能としています。また、当初の明示の一部を削除する場合には、削除される前の内容もあわせて記載することとされています。

4.変更明示の時期およびその後の対応

変更明示は、求職者が変更内容を認識した上で、労働契約を締結するかどうか考える時間が確保されるよう、労働条件等が確定した後、可能な限り速やかに行うこととされており、変更明示を受けた求職者から変更した理由について質問された場合には、適切に説明を行うことが必要とされています。

また、当初明示した労働条件の変更を行った場合には、継続して募集中の求人票や募集要項等についても修正が必要となる場合がありますので、その内容を検証した上で、必要に応じて修正等を行う必要があります。

5.変更明示に係る実務上の留意点

ここまで変更明示の内容について見てきましたが、指針では、当初明示した労働条件は、そのまま労働契約の内容となることが期待されているものであり、基本的には、当初明示した労働条件を安易に変更、削除、追加してはならないとされており、学校卒業見込者等については特に配慮が必要であることから、変更を行うことは不適切とされている点に留意が必要です。

実際の募集・採用の場面では、高度な専門職社員として月例給与45万円で募集していたところ、知識・経験の浅い若年者から応募があったような場合に、将来性を考慮して給与月額25万円にて採用するケースや、勤務地東京で3名の求人をかけていたところ、すでに定員の3名に達したものの、募集人材像に合致した応募者が他にもいたため東京以外での勤務を打診するなどのケースも考えられますが、指針では、これらの条件変更のすべてを規制する趣旨ではなく、あくまで求職者の期待権を安易に損なうこととならないよう、また求職者が変更内容を十分に理解できるよう丁寧に説明することを求めているわけです。

なお、現在、虚偽の求人を行った職業紹介事業者等について、6ヵ月以内の懲役または30万円以下の罰金が課されることとされていますが、2018年1月よりハローワークや職業紹介事業者を通して求人を行った一般企業についても、同様の罰則が適用されることとされており、また、厚生労働大臣による指導や助言、勧告、改善命令等についても対象に含まれることとされていますので、留意が必要です。

ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原 伸吾(特定社会保険労務士)

※本コラムは、「日経トップリーダー」経営者クラブ『トップの情報CD』(2017年12月号、日経BP発行)での出講内容を一部編集したものです。

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