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人事労務コラム Column

2019.02.01

法改正情報

働き方改革関連法施行! 年休時季指定の義務化への実務対応

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

2018年6月に「働き方改革関連法」が成立しました。この働き方改革関連法は、労働基準法やパートタイム労働法、労働者派遣法など8つの改正法の総称で、主な内容としては、「長時間労働の是正」、「多様で柔軟な働き方の実現」、「同一労働同一賃金の実現」の3つの柱からなっています。

これらの改正法は、2019年の4月から業種や規模などに応じて順次施行されますが、今回は、すべての企業で2019年4月から一斉に適用される「年次有給休暇の時季指定義務化」の概要と実務上の対応について解説します。

1.時季指定義務化の背景

労働基準法では、雇入れの日から起算して6ヵ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、毎年一定の年休を与えることとされています。

しかし、わが国の年休取得率は毎年5割前後で、世界的に見ても非常に低い水準となっており喫緊の課題となっています。そこで、改正法では、年10日以上の年休が付与される労働者に対して、年休を付与した日から1年以内の期間に、使用者が時季を指定して5日の年休を取得させることが義務付けられることとなりました。

2.時季指定の日数の考え方と年休管理簿

時季指定の対象となる日数は年5日とされており、従業員が自発的に取得した日数については、この5日から差し引くことができることとされています。また、使用者が年休の時季指定をするにあたっては、あらかじめ労働者の意見を聴取し、その意見を尊重するように努めなければならないとされています。

なお、改正法では、使用者が年休を与えたときは、その時季、日数および基準日を労働者ごとに明らかにした書面、すなわち年休管理簿を作成し、3年間保存しなければなりません。

3.時季指定義務の特例

年休は法律上、入社後6ヵ月を経過した日に与えることとされていますが、入社と同時に10日以上の年休を与えるケースもあろうかと思います。このような場合、法定の基準日ではなく、年休を実際に付与した入社日から1年以内に5日の年休を指定しなければならない点に留意が必要です。

また、法定の基準日に付与すべき日数のうち一部を前倒しで付与するような場合、たとえば、4月1日に入社した者について、入社日に年休を5日付与し、法定の基準日である10月1日に残りの5日を付与する場合には、10月1日からの1年間に5日の時季指定義務が発生します。ただし、残りの5日を付与する10月1日よりも前に従業員自ら年休を取得した日数がある場合には、その日数を5日から差し引くことが認められています。

4.年休5日取得徹底のための施策

年休5日の取得を徹底するためには、まずこれまでの年休取得状況を把握するとともに、部署や業務、個人ごとに何がネックになっているのかを分析したうえで、その原因を解消するための措置を講じることから始めます。このほか、年休の計画的付与や基準日の統一なども有効な施策と言えます。ここでは、年休の計画的付与と基準日の統一について簡単に見てみたいと思います。

(1)年休の計画的付与

まず、年休の計画的付与ですが、これは、付与された年休のうち5日を超える日数について、労使協定であらかじめ付与時季を定めることにより、計画的に年休取得日を割り振る制度です。労働者から年休の時季指定を受けることなく、あらかじめ会社の年間カレンダーに基づいて具体的な取得日を決定できることから、一定日数の年休を確実に取得させられるというメリットがあります。特に、業務の都合等を理由に年休の取得が進まない従業員に対して、年休を強制的に取得させることができるという点で有効な制度といえます。

計画的付与の方法には、事業場全体を休業とする一斉付与方式、班やグループごとの交代制付与方式、そして、個人別付与方式の3つの方式が考えられます。ただし、計画的付与を実施するにあたっては、いくつか留意すべき点があります。

まず、労使協定によっていったん指定された計画的付与日は、業務等の都合で変更することが認められないという点です。すなわち、計画的付与を採用する場合には、労働者および使用者の都合で日程を変更することができませんので、確実に休みを取得できる日に設定する必要があります。

また、新入社員など、5日を超える年休を持たない者の扱いについて事前に方針を決めておく必要があります。具体的には、事業場全体を休業日とする一斉付与方式を採用する場合、一定数の年休を持たない者に対して、計画付与日に別途有給の特別休暇を与えたり、事業主都合による休業として平均賃金の6割に相当する休業手当を支払うなどの措置を講ずることが求められます。

(2)基準日の統一

次に、基準日の統一についてですが、年休を法定どおり入社から6ヵ月経過日に付与している場合、入社日によって各人の基準日が異なり、5日取得させるために誰にあと何日取得させるべきかを管理するのが非常に煩雑になるため、入社日にかかわらず、4月1日や1月1日など、全従業員について一律に基準日を統一する方法です。

5.留意すべきポイント

以上、年休の時季指定義務化について見てきました。改正法の施行日は2019年4月1日とされていますが、経過措置として、年休の基準日が4月1日より後に到来する場合、たとえば2019年10月1日に基準日が到来する従業員については、10月1日からの1年間に5日の時季指定義務が生じることとなります。

また、基準日が統一されていない場合には、入社した日によって基準日がバラバラになるため、従業員ごとの取得期限やそれまでの取得日数を定期的に確認するとともに、年の途中で、5日の年休を取得できていない従業員を洗い出して取得を推奨するなど、きめ細かな対応が必要になります。

ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

※本コラムは、「日経トップリーダー」経営者クラブ『トップの情報CD』(2019年2月号、日経BP発行)での出講内容を一部編集したものです。

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