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人事労務コラム Column

2021.04.01

法改正情報

押印廃止と電子申請の活用(前編)

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

2020年7月に閣議決定された規制改革実施計画において、新型コロナウイルスの感染拡大防止とデジタルガバメント実現の観点から、行政手続きにおける押印の原則廃止やオンライン化推進の方針が示されました。厚生労働省は、この計画を踏まえ、2020年12月に省令・通達等を公布し、三六協定をはじめとする多くの人事労務に関連する届出等の押印を廃止することとしました。今回は、この押印廃止における実務上の留意点を中心に見ていきたいと思います。

1.労働基準法等にもとづく届出等の押印廃止について

労働基準法および最低賃金法にもとづく届出等について、2020年12月22日に「労働基準法施行規則等の一部を改正する省令」が公布され、2021年4月1日に施行されています。今回の改正により、これまで届出等に求められていた押印または署名が廃止されるとともに、届出等のうち事業場全体の労働者の過半数で組織する労働組合(以下、「過半数労働組合」という。)の名称または労働者の過半数を代表する者(以下、「過半数代表者」という。)の氏名を記載することとされていたものについては、押印・署名の廃止に伴って、協定当事者の適格性を確認するためのチェックボックスが新設されました。改正の対象となる届出等の一例は以下のとおりです。

【図表 押印廃止とされた様式例(労働基準法関連)】
図表 押印廃止とされた様式例(労働基準法関連)

なお、今回の改正により押印が廃止されたのは、あくまでも行政への届出等であり、労使協定の締結や労使委員会等の決議における手続きに直接影響を及ぼすものではない点に注意が必要です。

2.三六協定届における留意事項

前述した協定届等にかかる実務上の留意事項について、三六協定届を例に詳しく見ていきたいと思います。

(1)三六協定届が協定書を兼ねる場合の留意点

使用者は、労働者に対して法定労働時間を超える時間外および休日労働を命じる場合、過半数労働組合(過半数労働組合がない場合においては過半数代表者。)と三六協定を締結し労働基準監督署へ届け出ることとされています。三六協定の締結・届出の具体的な流れは、以下のとおりです。

①過半数代表者と使用者で合意の上、三六協定(協定書)を締結する
②協定書の内容を三六協定届(様式9号等)に記入する
③協定届を労働基準監督署に届け出る
④常時各作業場の見やすい場所への掲示や書面の交付等の方法により労働者に周知する

労使間で締結される①の協定書と労働基準監督署へ届け出る②の協定届は本来別の書面ですが、協定届に過半数代表者が押印等をすることで、協定書を兼ねることができることとされています。今回の改正により、押印廃止とされたのは、②の協定届であり、①の協定書については従来どおり労使双方の合意の上で締結されたことが明らかになるような方法(押印等)による手続きが必要となります。

この場合の労使双方の合意が明らかになるような方法とは、必ずしも押印等に限られるものではなく、たとえば、内閣府が公表している「地方公共団体における押印見直しマニュアル」では、押印の代替手段として、以下の方法が示されています。

〇電子署名や電子認証サービスの活用
〇本人確認書類の写しの受領(マイナンバーカード、運転免許証、印鑑証明書等)
〇メール本文や送受信記録などの保存

今般の行政手続きにおける押印廃止の動向を踏まえると、労使間の合意の確認方法についても、今後、押印等に代わる手段が広がっていくことが十分に考えられます。いずれにしても適正な労使合意手続きをとった上で行政への届出等が行われることが重要となります。この点について、労働政策審議会において、記名のみで届出等が可能になることにより、労使合意のないまま会社側が一方的に届出等を行う可能性を懸念する意見も示されていることから、2021年4月1日以降、労働基準監督署が必要に応じて労使協定の締結状況や協定当事者の適格性等について使用者等に対して聴取する等の確認が行われることとされています。

(2)新設されたチェックボックスへの対応

次に、三六協定届で新設されたチェックボックスについて詳しく見ていきたいと思います。今回の改正に伴い協定締結当事者の適格性を確認するため、以下の2点について確認するチェックボックスが設けられました。

①協定の当事者である労働組合が過半数労働組合である、または協定の当事者である過半数代表者が事業場のすべての労働者の過半数を代表する者であるか
②協過半数代表者と締結した場合に、当該過半数代表者が管理監督者ではなく、かつ選出方法が適正であるか

3.おわりに

今回は、主に労働基準法の届出等についての押印廃止について見てきました。改正施行日(2021年4月1日)以降に行われる届出等については、原則として、厚生労働省が公表している新様式を用いることとされていますが、当分の間は、旧様式に直接チェックボックスの記載を追記するか、またはチェックボックスの記載が転記された別紙を添付することで旧様式を用いることも可能とされています。次回は、その他の人事労務に関する届出等の押印廃止と押印廃止に伴い活用が期待される電子申請について見ていきたいと思います。

以上

 

次回コラム: 「押印廃止と電子申請の活用(後編)」

 

 

ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

※本コラムは、2021年4月にPHP研究所ビデオアーカイブズプラス『社員研修VAプラス会員専用サイト・人事労務相談室Q&A』で掲載された内容をリライトしたものです。

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