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人事労務コラム Column

2021.07.15

法改正情報

育児・介護休業法の改正ポイント(後編) ~育児休業を取得しやすい雇用環境整備、個別周知・意向確認の義務化等の改正点~

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

前回は、育児・介護休業法の改正事項のうち、男性の育児休業取得促進のために創設された「出生時育児休業」について見てきました。今回はその他の改正ポイントについて見ていきたいと思います。

 

前回コラム: 「育児・介護休業法の改正ポイント(前編) ~男性の育児休業促進のための「出生時育児休業」創設~」

 

1.育児休業取得のために事業主が講ずべき措置

前回の「育児・介護休業法の改正ポイント(前編)」で見たとおり、現状では、男性の育児休業取得率は低い水準にとどまっています。この点について、労働政策審議会雇用環境・均等分科会(以下「労働政策審議会」という。)の資料によれば、男性が育児休業を取得しない理由として「職場が育児休業を取得しづらい雰囲気だった」、「会社からの働きかけがない」等が挙げられる一方、男性の育児休業取得に関する説明会や、上司からの育児休業取得への声掛け等がある会社では育児休業取得の割合が高い傾向にあるとされています。これらのことを背景に、改正法では、女性だけでなく男性も育児休業を申出しやすい職場環境を整備するため事業主に以下のことが義務づけられます。

 

(1)育児休業を取得しやすい雇用環境整備の義務づけ

育児休業を取得しやすい職場環境の整備のため、研修や相談窓口の設置等の措置を講じることが事業主に義務づけられます。

また、指針により、労働者が短期の場合はもとより1ヵ月以上の休業の取得を希望する場合にも、希望する期間の育児休業を取得できるよう事業主が配慮することが求められる見通しです。

 
(2)妊娠・出産の申出をした労働者に対する育児休業制度についての個別周知・育児休業取得の意向確認の義務づけ

労働者から本人または配偶者が妊娠・出産する旨の申出があった場合、事業主はその労働者に対して育児休業の制度等について周知し、育児休業取得の意向を確認するための措置をとることが義務づけられます。周知の方法は今後省令で定められますが、労働政策審議会の建議「男性の育児休業取得促進策等について」によれば、面談での制度説明、書面等による情報提供等の複数の選択肢からいずれかを選ぶこととされています。

また、指針では、育児休業取得の確認について、事業主が育児休業の取得を控えさせるような周知や意向の確認をしないよう求められる見通しです。

 

2.有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和

有期雇用労働者の育児・介護休業取得の要件のうち、「引き続き雇用された期間が1年以上」の要件が廃止され、「1歳6ヵ月までの間に契約が満了することが明らかでない」との要件のみとなります。これにより、改正後は、雇用された期間が1年未満の有期雇用労働者については、原則として、無期雇用労働者と同様に育児・介護休業の適用対象となり、これを対象外とするためには労使の合意が必要になります。

なお、現行法では引き続き雇用された期間が1年未満の者は労使協定の締結により対象から除外することが可能ですが、この点に変更はありません。

 

3.育児休業の分割取得と1歳到達日後の休業開始日の柔軟化

ここでは、育児休業の分割取得と1歳到達日後の休業開始日の柔軟化について解説していきたいと思います。

 
(1)育児休業の分割取得

現在の育児休業制度では、配偶者の出産後8週間以内の期間内に育児休業を取得した場合のみ、再度育児休業を取得することが可能とされています(いわゆる「パパ休暇」。出生時育児休業の創設に伴い廃止予定。)が、改正後は、取得時期や事由にかかわらず育児休業を2回に分割して取得することができます。

なお、出生時育児休業(詳細は「育児・介護休業法の改正ポイント(前編)」参照)と育児休業はそれぞれ2回に分割して取得することが可能です。

 
(2)1歳到達日後の休業開始日の柔軟化

現在は1歳到達日後に育児休業を延長する場合の育児休業開始日は、子が1歳に達した日の翌日、子が1歳6ヵ月に達した日の翌日の時点に限定されており、この時点でしか夫婦が交代することができませんが、法改正により開始日が柔軟化され、休業期間の途中でも夫婦で交代することが可能になります。

改正後の休み方のイメージを図で見ると以下のようになります。

 
【図表 夫婦で育児休業を取得する場合のイメージ】

4.育児休業取得状況の公表の義務づけ

男性の育児休業取得を促進するため、常時雇用される労働者数が1,000人を超える企業を対象に育児休業の取得の状況について公表することが義務づけられます。公表内容は今後省令で定められますが、前掲の労働政策審議会の建議によれば「男性の育児休業取得率」または「育児休業等と育児目的休暇の取得率」と定められる見通しです。

 

5.各改正内容の施行時期

今回の改正内容の施行時期は、以下のとおりです。

・事業主が講ずべき措置
・有期雇用労働者の育児・介護休業取得の要件緩和
2022年4月1日
・出生時育児休業
・育児休業の分割取得
公布日から1年6ヵ月を超えない範囲内で政令で定める日
・育児休業取得状況の公表 2023年4月1日

 

6.おわりに

今回は、育児・介護休業法の法改正ポイントについて見てきました。今後は、本人または配偶者が妊娠・出産する労働者だけでなく、その上司や同僚等、会社全体が育児休業の制度やその取得について理解を示し、職場の環境を整えていくことが急務になります。本改正をきっかけとして、たとえば、育児休業取得についての経営者によるメッセージの発信や管理職を対象とした説明会の実施、業務の引継ぎを円滑に進めるための業務改善等、性別や雇用形態にかかわらず、労働者が育児休業を取得できるよう事業主が積極的に行動することが求められます。

以上

 


 

ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

※本コラムは、2021年7月にPHP研究所ビデオアーカイブズプラス『社員研修VAプラス会員専用サイト・人事労務相談室Q&A』で掲載された内容をリライトしたものです。

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