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人事労務コラム Column

2022.03.01

法改正情報

2022年4月1日施行直前! 改正育児・介護休業法への対応

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

2021年6月、改正育児・介護休業法(以下「改正法」という。)が公布されました。この改正法にはいくつもの育児休業等の取得促進策が盛り込まれましたが、いよいよ2022年4月1日より段階的(2022年4月1日、同年10月1日、2023年4月1日の3段階)に施行されます。今回は、間近に迫った4月1日施行の改正について見ていきましょう。
 

【改正育児・介護休業法(2022年4月1日施行分)】

2022年4月1日に施行される改正事項は、次の3つです。

改正事項 改正前 改正後
1.育児休業制度の個別周知・取得意向確認措置の実施 努力義務 義務化
2.雇用環境の整備(研修の実施、相談窓口の設置等) 規定なし 義務化
3.有期雇用労働者の育児(介護)休業の取得要件の緩和 有期雇用労働者の取得要件
①引き続き雇用された期間が1年以上であること
②養育する子が1歳6ヵ月に達する日まで(介護休業の場合は「介護休業開始予定日から起算して93日を経過する日から6ヵ月を経過する日まで」)に、労働契約が終了することが明らかでないこと
左記①の要件が廃止

各企業は、これらの改正事項について改正法施行までに対応方針を決めておくとともに、決定した内容を適切に実施できるよう各種書面や社内体制等の整備を進める必要があります。それでは、この3つの改正事項について、詳しく見ていきましょう。

 

1.育児休業制度の個別周知・意向確認措置の実施

労働者本人または配偶者の妊娠・出産等について、労働者から申出があったときは、当該労働者に対して、事業主は育児休業の制度等に関する次の事項について個別に周知(以下「個別周知」という。)するとともに、育児休業取得の意向を確認(以下「意向確認」という。)することが義務づけられました。

【個別に周知する事項】
・育児休業に関する制度
・育児休業申出の申出先
・雇用保険の育児休業給付に関すること
・労働者が育児休業期間について負担すべき社会保険料の取扱い

 

(1)個別周知・意向確認を行う必要がある者

個別周知・意向確認は、原則として、妊娠・出産等の申出をしたすべての労働者に対して行う必要があります。そのため、妊娠・出産等の申出の際に「育休を取得するつもりはない」、「個別周知は不要」との意思を示した労働者に対しても実施することが必要です。

また、労使協定により育児休業の取得対象者から除外している勤続1年未満の労働者や週所定労働日数が2日以下の労働者から妊娠・出産等の申出があった場合には、申出時点では個別周知のみ行えばよく、意向確認まで行う必要はありません。

(2)個別周知・意向確認の方法

個別周知・意向確認の方法は、原則として、面談(オンライン面談も可能)または書面交付で行うこととされていますが、労働者が希望した場合は、FAXまたは電子メールなどで行うことも可能です。

なお、意向確認について、面談時には労働者の取得意向がはっきりしないケースも考えられますが、このような場合には、明確な取得の意向を把握することまでは求められておらず、意向確認のための働きかけを行えばよいこととされています。

(3)実施時期

個別周知・意向確認の実施時期は、通達では、労働者が希望の日から円滑に休業を取得できるよう、申出が出産予定日の1ヵ月半以上前に行われた場合は、1ヵ月前までに実施することが必要とされています。また、それ以降に申出が行われた場合でもできる限り早い時期に措置を行うべきとして、実施時期の目安を示しています。これらをまとめると、次のとおりです。

妊娠・出産の申出時期 個別周知・取得意向確認の時期
出産予定日の1ヵ月半以上前の場合 出産予定日の1ヵ月前まで
出産予定日の1ヵ月半前以降で出産予定日の1ヵ月前までの間の場合 2週間以内でできる限り早い時期(目安)
出産予定日の1ヵ月前から2週間前までの間の場合 1週間以内でできる限り早い時期(目安)
出産予定日の2週間前以降、子の出生後の場合 できる限りすみやかに(目安)

(4)個別周知のための文書の作成

個別周知を書面交付の方法にて行う場合には、周知用の文書が必要になります。また、面談その他の場合であっても対象者に対して育児休業等の制度を正確に伝えるために、書面交付と同様に周知用の文書を作成するとよいでしょう。

なお、周知用の文書および取得意向確認の書面は、厚生労働省のホームページに例が挙げられていますので、参照してください。

【周知用の文書および取得意向確認の書面の例】

厚生労働省ホームページはこちら
 

2.雇用環境の整備(研修の実施、相談窓口の設置等)

育児休業を取得しやすい雇用環境を整備するため、研修の実施や相談窓口の設置などの措置を講じることが義務づけられました。以下の措置のうち、少なくとも1つ以上の措置(可能な限り、複数の措置を行うことが望ましい)を講じることが必要です。

(1)育児休業に関する研修の実施
(2)育児休業に関する相談体制の整備など(相談窓口の設置)
(3)雇用する労働者に対する育児休業取得事例の収集・提供
(4)雇用する労働者に対する育児休業制度と育児休業取得促進に関する方針の周知
(1)育児休業に関する研修の実施

研修は、すべての労働者を対象とすることが望ましいとされていますが、少なくとも管理職に対して実施することが求められます。

(2)育児休業に関する相談体制の整備など(相談窓口の設置)

相談体制の整備とは、窓口を設置したり、相談対応者を置いたりして、これを周知することです。相談体制の整備にあたっては、窓口を形式的に設けるだけでなく、実質的な対応ができる窓口が設けられていることが必要とされています。

(3)雇用する労働者に対する育児休業取得事例の収集・提供

育児休業取得事例の収集・提供とは、自社の育児休業の取得事例を収集し、当該事例の掲載された書類を配付したり、イントラネットへの掲載などを行い、労働者が閲覧できるようにすることです。提供する事例については、特定の性別や職種、雇用形態などに偏ることのないよう、可能な限り様々な労働者の事例を収集・提供することにより、特定の者の育児休業の申出を控えさせることに繋がらないように配慮することが必要です。

(4)雇用する労働者に対する育児休業制度と育児休業取得促進に関する方針の周知

育児休業制度と育児休業取得促進に関する方針の周知とは、自社の育児休業等の制度の内容および育児休業の取得の促進に関する事業主の方針を記載したものを事業所内に掲示したり、社内イントラネットへ掲載することです。

3.有期雇用労働者の育児(介護)休業の取得要件の緩和

改正前は、有期雇用労働者が育児(介護)休業を取得するためには、①引き続き雇用された期間が1年以上であることと、②養育する子が1歳6ヵ月に達する日(介護休業の場合は「介護休業開始予定日から起算して93日を経過する日から6ヵ月を経過する日」)までに労働契約が終了することが明らかでないこと、の2つの要件がありましたが、4月1日以降は①の要件が廃止され、有期雇用労働者の育児(介護)休業の取得要件が②の要件のみとなりました。

一方で、従来から労使協定を締結した場合に、引き続き雇用された期間が1年未満の者を育児(介護)休業の対象から除外することが可能とされているため、有期雇用労働者についてもこの労使協定の定めを適用することで、改正後も雇用期間が1年未満の有期雇用労働者を育児(介護)休業の対象から除外することが可能です。

なお、雇用期間が1年未満の有期雇用労働者を労使協定の定めに基づいて育児(介護)休業の適用除外とするためには、あらためて労使協定の締結が必要とされていますので注意が必要です。

以上


 

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