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人事労務コラム Column

2022.04.01

法改正情報

【2022年1月施行】傷病手当金の支給期間の取扱いの変更に関する実務上のポイント

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

2022年1月1日より改正健康保険法が施行され、傷病手当金の支給期間の取扱いについて変更が行われました。支給期間について、改正前は「支給開始日から起算して1年6ヵ月を超えない期間」とされていましたが、改正後は「支給開始日から通算して1年6ヵ月間」に変更されました。本改正の実務上の取扱いについて、厚生労働省から2021年11月10日(2021年12月27日追加版)に「傷病手当金及び任意継続被保険者制度の見直しに関するQ&A」(以下「Q&A」という。)が出されています。そこで今回は、改正点の概要を確認したうえで、Q&Aの内容をもとに実務上の留意事項について見ていきたいと思います。

次回コラム: 【2022年1月施行】任意継続被保険者制度の取扱いの変更に関する実務上のポイント

 

1.傷病手当金の支給期間の改正点の概要

前述したとおり、改正前の傷病手当金の支給期間は、「支給開始日から起算して1年6ヵ月を超えない期間」が最長とされていました。しかし、治療の必要から就労と療養を繰り返すような場合、支給開始から1年6ヵ月が経過すると支給が終了してしまい、それ以降に休業しても傷病手当金を受給できないという問題がありました。

改正により、支給期間が「支給開始日から通算して1年6ヵ月間」とされ、療養に伴う休業期間を通算して支給申請できるようになったため、1年6ヵ月を超えて休業しても傷病手当金が支給されるようになりました(下図参照)。この場合の期間を通算する定めを「通算規定」といいます。

2.実務上の留意事項

では、上記1.の改正により、具体的な支給日数のカウント方法や施行日の前後にわたって支給を受けている場合の取扱いなど、実務上、とくに影響があると思われる事項についてQ&Aをもとに見ていきましょう。

(1)「支給が開始された日から通算して1年6ヵ月」とは何日間か。また、支給満了日はいつか。(Q&A 問1・問2を要約)

支給開始日から通算して1年6ヵ月間とは、具体的に日数をどのように計算するのでしょうか。また、支給満了日はいつになるのでしょうか。Q&Aの回答では、次のように示されています。

初回の申請から3日間の待期期間を経て、支給を始める4日目より、暦に従って1年6ヵ月間の計算を行い、傷病手当金の支給期間を確定する。
当該支給期間は、傷病手当金の支給単位で減少し、途中に傷病手当金が支給されない期間(無支給期間)がある場合には、当該無支給期間の日数分について支給期間は減少しない

 

たとえば、初回申請を2022年3月1日から行った場合、待期期間3日間の経過後である3月4日から傷病手当金が支給開始となりますが、支給日数については、この支給開始日である2022年3月4日から1年6ヵ月(18ヵ月)後に対応する2023年9月3日までの期間の日数をカウントし、確定させることになります。この場合の支給日数は「549日」です。このように1年6ヵ月間といっても支給開始日によって1年6ヵ月間の中に含まれる暦の日数が異なるため、支給開始日がいつかにより支給日数に差異が生じることになります。

なお、傷病手当金の支給を受けた日数分だけ、支給日数が減少し、残りの日数が0日になった日が支給満了日となります。

(2)施行日時点で傷病手当金をすでに受給中の場合の取扱いはどうなるのか。(Q&A 問10を要約)

施行日(2022年1月1日)時点で傷病手当金をすでに受給している場合の取扱いはどのようになるのでしょうか。Q&Aの回答では、次のように示されています。

改正後の規定は、施行日の前日において支給を始めた日から起算して1年6ヵ月を経過していない傷病手当金について適用し、施行日前に改正前の規定による支給期間が満了した傷病手当金については、なお従前の例によることとされている。
したがって、2020年7月2日以後に支給を始めた傷病手当金については、施行日の前日(2021年12月31日)において支給を始めた日から起算して1年6ヵ月を経過していないため、改正後の規定が適用され、支給期間が通算される。

 

施行日の前日(2021年12月31日)において、改正前の傷病手当金の支給期間が満了(1年6ヵ月を経過)していた場合、途中で就労等により受給していない期間があったとしても、改正後の通算規定は適用されないということです。すなわち、支給開始日が2020年7月1日以前にある場合には、すべての期間について改正前の規定が適用されるため、通算規定による傷病手当金は受給できないわけです。

一方、施行日の前日において1年6ヵ月を経過していないもの(支給開始日が2020年7月2日以降のもの)は、施行日前の期間についても通算規定が適用されることになります。たとえば、支給開始日が2020年7月2日の場合、支給日数は2022年1月1日までの期間で549日であり、2022年1月1日時点ですでに300日分の傷病手当金を受給している場合でも、まだ249日分の支給日数が残っているため、施行日後も引き続き支給を受けることができます。

(3)改正後に適用される資格喪失後の継続給付の取扱いはどうなるのか。(Q&A 問11)

次に、退職後の継続給付として受けられる傷病手当金の取扱いがどうなるのかについて見てみます。Q&Aの回答では、次のように示されています。

資格喪失後の傷病手当金の継続給付については、健保法104 条において、「継続して」受けるものとされているため、従来どおり、被保険者として受けることができるはずであった期間において、継続して同一の保険者から給付を受けることができる。
ただし、一時的に労務可能となった場合には、治癒しているか否かを問わず、同一の疾病等により再び労務不能となっても傷病手当金の支給は行わない。

 

傷病手当金の継続給付を受けられるかどうかの基準については、従来どおり変更ありません。被保険者期間中の傷病手当金との違いは、資格喪失後の継続給付を受給中に労務可能となった場合、その時点で受給が終了し、その後、再び労務不能となったとしても、通算規定は適用されないという点にあります。

(4)傷病手当金の請求権の消滅時効の取扱いはどうなるのか。また、消滅時効と支給期間の通算とはどのような取扱いになるか。(2021年12月27日追加版Q&A 問9・問10を要約)

最後に、傷病手当金の請求権の消滅時効と通算規定との関係をどのように考えるのかについて見てみます。Q&Aの回答では、次のように示されています。

傷病手当金は労務不能であった日ごとに請求権が発生し、当該請求権に基づき支給されるものであることから、当該請求権の消滅時効については、労務不能であった日ごとにその翌日から起算して2年間となる。
消滅時効により傷病手当金が支給されない場合には、支給期間は減少しない。
なお、消滅時効により傷病手当金が一度も支給されていない場合については、 実際に傷病手当金の支給が開始された日を「支給を始めた日」とし、当該日において支給期間を決定することとなる。

 

傷病手当金を受ける権利は、受けることができるようになった日の翌日から起算して2年で時効を迎えます(消滅時効)。起算日は、「労務不能であった日ごとにその翌日」であり、支給期間満了日から2年後にまとめて時効になるわけではなく、日ごとに起算する点に注意が必要です。

この時効の考え方は、改正前後で変更ありませんが、改正前は支給期間が支給開始から1年6ヵ月の期間に限られていたため、時効を迎えると支給日数がおのずと減少することがありましたが、改正後はQ&Aで示されているとおり、「消滅時効により傷病手当金が支給されない場合には、支給期間は減少しない」とされていることから、時効を迎えたとしても支給日数はそのまま残ります。

3.おわりに

今回は、厚生労働省のQ&Aをもとに、傷病手当金の支給期間の改正に関する実務上の取扱いについて見てきました。この改正は、治療と仕事の両立支援の観点から行われたものですので、今後、各企業において対象者が出てきた場合には、本コラムで解説した内容等を踏まえ、適切にアドバイスできるようにしておくとよいでしょう。

以上

 


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