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人事労務コラム Column

2022.05.01

法改正情報

2020年6月から2022年10月にかけて順次施行!確定拠出年金制度の改正

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

2020年5月に「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律」が成立したことにより確定拠出年金法の一部が改正され、2020年6月より2022年10月にかけて順次施行されています。この改正によって加入可能要件が拡大されるなど、今後、確定拠出年金制度のさらなる普及が見込まれます。

そこで、今回は確定拠出年金制度の概要と改正のポイントについて、見ていきたいと思います。

1.確定拠出年金とは

確定拠出年金制度は、国民の高齢期における所得の確保にかかる自主的な努力の支援を目的として、2001年10月に確定拠出年金法が施行されたことから開始されました。

確定拠出年金は私的年金制度の一つですが、あらかじめ給付の内容が約束されている確定給付企業年金や厚生年金基金とは異なり、加入者自身が資産を運用し、その運用収益や拠出した掛金の合計額によって将来受け取る額が決まります。近年、事業主が運用リスクを負う確定給付企業年金から企業型確定拠出年金に移行するケースは少なくありませんが、その反面、企業型確定拠出年金は、加入者である従業員本人が運用リスクを負うこととなるため、事業主は加入者に対して投資教育を行うこととされています。

確定拠出年金の主な特徴としては、まず確定拠出年金制度間で持ち運びが可能であることが挙げられます。このため、転職や離職の際に個人の年金資産を引き継ぐことができます(これを「ポータビリティ」という。)。また、掛金拠出時や運用時、給付時において、企業、従業員ともに税制優遇のメリットがあることも特徴の一つとして挙げられます。具体的には、掛金拠出時には事業主掛金を損金算入することができ、加入者掛金も加入者自身の所得控除の対象となります。また、運用時には運用益が非課税となり、老齢給付金の受給時においては、年金として受け取る場合は公的年金等控除の対象となり、一時金として受け取る場合は退職所得控除の対象となります。

2.企業型確定拠出年金(企業型DC)と個人型確定拠出年金(iDeCo)

確定拠出年金には、企業年金の一つである「企業型確定拠出年金(DC)」と、個人年金の一つである「個人型確定拠出年金(iDeCo)」の2種類があります。

企業型DCは、原則として事業主が掛金を拠出し、加入者自身が運用方法を選択して運用の指図を行います。また、規約に定めることで、拠出限度額の枠内かつ事業主の掛金を超えない範囲内で、加入者が掛金を拠出することもできます(これを「マッチング拠出」という。)。一方、個人型(iDeCo)は、掛金の拠出・運用ともに加入者自身が行います。この2つの制度の主な違いは下表のとおりです。

【企業型DCと個人型(iDeCo)の主な違い】

企業型DC 個人型(iDeCo)
実施主体 厚生年金適用事業所の事業主 国民年金基金連合会
加入対象者 実施事業所に使用される厚生年金保険の被保険者 ① 国民年金の第1号被保険者
② 厚生年金保険の被保険者
③ 国民年金の第3号被保険者
掛 金 原則として全額を事業主が拠出
(規約で定めるところにより加入者も拠出可能)
加入者のみが拠出
(iDeCo+を利用する場合は、事業主も拠出可能)

個人型(iDeCo)の加入対象範囲はこれまで何度か拡大されています。2002年の制度開始当初は、国民年金の第1号被保険者および企業年金の対象となっていない企業の従業員に対象が限られていましたが、2017年には第3号被保険者、公務員等共済加入者および企業型DCの加入者(規約で認められている場合に限る)もiDeCoへの加入が可能となるなど、対象範囲が大幅に拡大されました。さらに、2022年10月には、企業型DC加入者がiDeCoへ加入する際の要件が緩和される予定です。

3.中小企業向け制度の拡充

そもそも企業型DCは、確定給付企業年金の実施が難しいといわれる中小企業でも実施しやすい制度ですが、2018年に中小企業向けの制度として、新たに「中小事業主掛金納付制度(iDeCo+)」が創設されました。これにより、企業年金(企業型確定拠出年金、確定給付企業年金、厚生年金基金)を実施していない中小事業の事業主が、iDeCoに加入している従業員の加入者掛金に追加して掛金を拠出することが可能になりました。iDeCo+は、従業員が掛金を運用するという点では企業型DCと同じですが、制度に加入する主体が「事業主」である企業型DCとは異なり、加入者である「従業員」が主体となる制度です。そのため、企業にとっては、比較的手軽に制度を利用でき、また、運営管理手数料等を従業員が負担するため事業主にとっては費用が抑えられるなどのメリットがあります。

また、2018年には、通常の企業型年金制度の設立手続きや業務報告などを簡素化した中小企業向けのシンプルな制度である「簡易企業型年金」もあわせて創設されています。

2020年10月には、この2つの制度を実施するための要件の一つである従業員規模が従来の「100人以下」から「300人以下」となり、対象範囲が拡大されています。

4.加入可能要件および受給開始時期の見直し(2022年4月・5月施行)

2022年5月1日より、企業型DCおよびiDeCoに加入できる年齢上限の引き上げが行われました。まず、企業型DCについて、これまでは厚生年金被保険者のうち65歳未満の者(60歳以降は規約に定めがあり、かつ、60歳前と同一事業所で継続して使用される者に限る。)が加入可能とされていましたが、今回の改正により加入可能な年齢が「70歳未満」に引き上げられたほか、「60歳前と同一事業所で継続して使用される者」の要件が削除され、60歳以降それまでとは別の事業所に使用される者も加入できることとされました。また、iDeCoについても、これまでの60歳未満とする年齢要件が撤廃され、国民年金被保険者であれば年齢に関係なく加入可能となりました。これにより、60歳以上65歳未満の厚生年金被保険者や国民年金の任意加入被保険者等が新たにiDeCoに加入できるようになりました。

さらに、今回の確定拠出年金制度の改正を含む年金制度改正法(2020年6月5日公布)において、公的年金の繰下げ受給可能年齢が75歳まで引き上げられたことに伴い、前述の企業型DCおよびiDeCoの加入可能年齢の引き上げと併せて、2022年4月1日より老齢給付金を受給開始する時期の選択肢が拡大されました。これまでは、企業型DCおよびiDeCoはともに60歳から70歳までの間で受給開始時期を選択することとされていましたが、改正により、上限が70歳から75歳に引き上げられました。

5.企業型DC加入者のiDeCo加入要件緩和(2022年10月施行)

前述したとおり、iDeCoに加入できる対象者の範囲は少しずつ拡大されてきましたが、現行では、企業型DC加入者のうちiDeCoに加入できるのは、規約に定めがあり、かつ、事業主掛金の上限額を月額5万5,000円から3万5,000円(確定給付型等の他制度にも加入している場合は2万7,500円から1万5,500円)に引き下げた企業の従業員に限られています。そのため、事業主掛金が低く拠出可能な枠に十分な残余がある場合でも、規約の定めや事業主掛金の上限額の引き下げがない限りiDeCoに加入することができない等、実際にはほとんど制度が活用されていませんでした。

そこで、企業型DCとiDeCoの掛金との合算管理のしくみが構築され、2022年10月より、規約の定めや事業主掛金の上限の引き下げがなくても、全体の拠出限度額(企業型DCのみに加入する場合は月額5万5,000円、企業型DCと確定給付型等の他制度にも加入する場合は2万7,500円)から各月の事業主掛金を控除した残余の範囲内であればiDeCo(月額2万円以内)に加入できるようになります(図表参照)。

ただし、今回の要件緩和は、企業型DCの事業主掛金とiDeCoの掛金について、各月の拠出限度額の範囲内での各月拠出に限ることとされており、年単位拠出を選択する場合には、当該企業型DCの加入者はiDeCoに加入することができない点に留意が必要です。また、企業型DCにおいてマッチング拠出を選択している企業型DC加入者についてもiDeCoに加入することができませんので、ご留意ください。なお、マッチング拠出を導入している企業の企業型DC加入者については、マッチング拠出とするかiDeCoに加入するかを加入者ごとに選択できるようになります。

【図表】企業型DC加入者がiDeCoに加入する際の拠出限度額(企業型DCのみ加入の場合)

 

6.その他の改正

この他にも2022年には、中小企業を含め、より多くの企業や従業員が確定拠出年金制度を活用できるよう、さまざまな見直しが行われます。ここでは、そのうちの脱退一時金とポータビリティの改善について見ていきましょう。

(1)脱退一時金の改善(2022年5月1日施行)

これまで企業型DCの脱退一時金を受給するためには、運用における加入者個人の持分に相当する額である個人別管理資産の額が1万5,000円以内という資産要件を満たす必要がありましたが、今回の改正で、この要件が撤廃されました。これにより、個人別管理資産額が1万5,000円を超える場合でもiDeCoの脱退一時金の受給要件を満たしていれば、企業型DCから直接、脱退一時金を受給できるようになりました。

一方、iDeCoの脱退一時金は、これまで国民年金の保険料免除者である者しか受給することができませんでしたが、この要件が撤廃され、新たに「iDeCoに加入できない者」という要件が追加されました。具体的な例としては、外国籍の者は帰国するにあたって、国民年金被保険者に該当しなくなるため、iDeCoに加入できない者となり、今回の改正により脱退一時金が受給できるようになりました。

(2)ポータビリティの改善(2022年5月1日施行)

確定拠出年金について、転職や退職の際、制度間で持ち運びが可能であることは前述したとおりですが、このポータビリティについても、今回の改正でさらに拡充されました。具体的には、「終了した確定給付企業年金からiDeCoへの移管」および「加入者の退職等に伴う企業型DCから通算企業年金への移換」が新たに可能となりました。

なお、通算企業年金とは、企業年金を脱退した場合等にそれまで蓄えられた年金原資を企業年金連合会が運用する年金ですが、今後、事業主は、従業員が企業型DCの資格を喪失した場合、通算企業年金への移換が可能であることを説明する必要がある点に留意が必要です。

7.おわりに

確定拠出年金は、中小企業の事業主やそこで働く労働者にとって利用しやすい制度であり、福利厚生の一つとしても推奨される制度であるため、まだ活用されていない企業においては、今回の改正を機に検討することも一考です。今回の改正により、確定拠出年金は加入可能対象者や受給対象者、受給開始時期の選択肢等が拡大し、さらに利用しやすい制度へと改善されています。すでに制度を利用されている企業では、規約の見直しなどについて検討が必要となる可能性があります。

制度の概要や改正のポイントを正しく理解し、退職金制度や福利厚生制度など、あらためて見直しをする契機にしてはいかがでしょうか。

以上

 

ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

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