2024.05.15
法改正情報
【2024年(令和6年)11月施行!】フリーランス保護法~ フリーランスの就業環境の整備と罰則の適用等の対応について ~
前回は、フリーランス保護法(フリーランス・事業者間取引適正化等法(※1))の概要およびフリーランス・発注事業者間の取引の適正化に関する内容について見ましたが、今回は、フリーランス(※2)の就業環境の整備に関する事項と法律に違反した事業者に対する罰則の適用等の対応について見ていきたいと思います。
※1 正式名称は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」
※2 本稿では、フリーランス保護法における特定受託事業者を「フリーランス」、特定業務委託事業者を「発注事業者」という。
▽前回コラム
【2024年(令和6年)11月施行予定!】フリーランス保護法 ~ フリーランス・発注事業者間の取引の適正化について ~
目次
1.フリーランスの就業環境の整備に関する事項
フリーランスの就業環境を整備するため、フリーランス保護法では、発注事業者に対して一定の事項が義務づけられます。下記にて詳細を見ていきましょう。
(1)募集情報の的確な表示
発注事業者が広告等によりフリーランスの募集情報を提供するときは、以下の事項が義務づけられます。
② 正確かつ最新の内容に保つこと
①、②に違反する具体例として、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律Q&A」(以下「Q&A」という。)では、「意図的に実際の報酬額よりも高い額を表示すること」や、「報酬額の表示があくまで一例であるにもかかわらず、その旨を記載せず、当該報酬が確約されているかのように表示すること」、「既に募集を終了しているにもかかわらず、削除せず表示し続けること」などが挙げられています。
なお、当事者の合意に基づき、広告等に掲載した募集情報から実際に契約する際の取引条件を変更する場合などは、①、②に違反するものではないとされています。
(2) 育児介護等と業務の両立に対する配慮
フリーランスが育児介護等(妊娠・出産を含む。)と両立しながら業務を継続できる環境を整備するため、発注事業者は、フリーランスの申出に応じて、その状況に応じた必要な配慮をしなければならないこととされます。この場合、配慮義務の対象となるのは、「政令で定める期間(※3)」以上の業務委託(更新により政令で定める期間以上行うこととなるものを含む。以下「継続的業務委託」という。)を行う場合とされ、それ以外の業務委託については努力義務とされます。
前掲Q&Aでは、この規定による「必要な配慮」の具体的として、①フリーランスが妊婦健診を受診するための時間を確保できるようにしたり、就業時間を短縮すること、②育児や介護等と両立可能な就業日・時間としたり、オンラインで業務を行うことができるようにすることなどが挙げられています。
なお、「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)説明資料」(以下「説明資料」という。)では、「必要な配慮」について、発注事業者が取引を行うすべてのフリーランスの育児介護等の事由をあらかじめ把握することまで求めるものではないこと、また、フリーランスの申出に応じて、発注事業者が申出の内容を検討し、可能な範囲で対応を講じることを求めるものであり、申出の内容を必ず実現しなければならないわけではないことが示されています。
※3 2024年4月12日から5月11日まで実施されたパブリックコメントの「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律施行令(案)」では6ヵ月とされている。
(3)ハラスメント対策にかかる体制整備
各種ハラスメントによりフリーランスの就業環境が悪化することがないよう、発注事業者に対し、ハラスメント行為に関する相談対応のための体制整備その他の必要な措置を講じることが義務づけられます。また、フリーランスがハラスメントに関する相談を行ったこと等を理由として不利益な取扱いをすることが禁止されます。
Q&Aでは、必要な措置として想定されている内容について、以下の事項が挙げられています。
② ハラスメントを受けた者からの相談に適切に対応するために必要な体制を整備すること(例:相談担当者を定める、外部機関に相談対応を委託するなど)
③ ハラスメントが発生した場合の事後の迅速かつ適切な対応を行うこと
(例:事案の事実関係の把握、被害者に対する配慮措置など)
なお、これらの措置は、発注事業者に対して、労働関係法令に基づいて講じることが義務づけられている従業員のハラスメント対策と同様ですので、労働関係法令に基づいて整備した社内体制やツールをフリーランスの相談等の体制整備に活用することも考えられます。
(4)中途解除等の事前予告
発注事業者が継続的業務委託にかかる契約を中途解除したり、更新しない場合には、以下の事項が義務づけられます。
② 予告の日から契約満了までの間に、フリーランスから契約の中途解除や不更新の理由の開示を請求された場合には開示すること。
①について、予告の対象となるのは継続的業務委託ですが、契約当初は継続的業務委託に該当しなくても、契約の更新により予告の対象となる場合があるので注意が必要です(図表)。
【図表】事前予告が必要となる契約の例
なお、災害等やむを得ない事由により予告することが困難な場合など、厚生労働省令で定める場合は、30日前までの予告は不要とされています。また、②について、理由を開示することにより第三者の利益を害するおそれがある場合など、厚生労働省令で定める場合は、理由の開示は不要となります。
2.違反した事業者への罰則の適用等の対応
ここまでフリーランス保護法における発注事業者の義務について見てきましたが、それらをまとめると、以下のとおりです。
・報酬期日の設定と期日までの支払義務
・受領拒否・減額等の行為の禁止
・募集情報の的確表示義務
・育児介護等と業務の両立に対する配慮義務
・ハラスメント対策に係る体制整備義務
・中途解約等の事前予告義務など
これらについての違反行為を受けたフリーランスは、2020年から設置されている「フリーランス・トラブル110番」を経由するなどして、公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省(以下「法所管省庁」という。)に今後設置される窓口に申告ができます。
行政機関は、申告があった場合、違反した発注事業者に対して、その内容に応じて、①報告徴収・立入検査、②指導・助言、③勧告、④勧告に従わない場合の命令・公表等の対応をとることとされています。
発注事業者は、この窓口に申告をしたフリーランスに対して、申告したことを理由として不利益な取扱いをすることはできません。
なお、虚偽報告や検査拒否、命令違反等に対しては罰則が適用され、50万円以下の罰金が科せられる可能性がありますので注意が必要です。
3.おわりに
前回と今回の2回にわたり、フリーランス保護法の概要について見てきました。働き方の多様性が進展していく中で、今後、フリーランスとして働く人が増えていくことが予想されますので、法施行に備えて、フリーランス保護法の内容を理解し、発注事業者とフリーランスがトラブルなく事業を進めることができるよう、環境を整えていくことが重要になるといえるでしょう。
以上
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ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)