2025.06.15
法改正情報
【2025年5月成立】改正労働安全衛生法等の概要 ~全事業場規模におけるストレスチェックの義務化~
前回は、労働安全衛生規則の改正により義務化された職場の熱中症対策の概要をとり上げましたが、今回は、本年の国会で成立し、5月14日に公布された「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」の概要について解説していきます。
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【2025年6月施行】改正労働安全衛生規則の概要 ~ 職場の熱中症対策が義務化されました ~
目次
1.改正の全体像
「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」の改正事項は、多岐にわたります。改正の全体像をまとめると、以下のとおりです。
【労働安全衛生法等の改正の概要】
改正事項 | 施行日 |
---|---|
(1)個人事業者等に対する安全衛生対策の推進 |
2026年4月1日
(改正事項の一部は公布日、2027年1月1日、2027年4月1日)
|
(2)職場のメンタルヘルス対策の推進 |
公布日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日
|
(3)化学物質による健康障害防止対策等の推進 |
改正事項により、
2026年4月1日、2027年10月1日、
公布日から起算して5年を超えない範囲内において政令で定める日
|
(4)機械等による労働災害防止の促進等 |
改正事項により、
2026年1月1日、2026年4月1日
|
(5)高齢者の労働災害防止の推進 |
2026年4月1日
|
2.改正の概要
では、1.の(1)~(5)のそれぞれの改正の概要について見ていきましょう。
(1)個人事業者等に対する安全衛生対策の推進
これまで労働安全衛生法は「労働者」を保護の対象としていましたが、今回は、個人事業者(※)等も労働災害防止対策のための措置の対象とする改正がなされました。
※個人事業者とは、「事業を行う者で労働者を使用しないもの」をいう。
① 注文者等が講ずべき措置
個人事業者等を含む混在作業において、注文者等が行う労働安全衛生にかかる措置の対象者は、これまで「労働者」のみでしたが、改正により、個人事業者を含む「作業従事者」とされます。対象となる措置は多岐にわたりますが、たとえば、以下のような措置について、対象者が「労働者」等から個人事業者等を含む「作業従事者」等に変更されています。
・ | 特定元方事業者等が統括安全衛生責任者を選任しなければならない場合等 |
・ | 建設業等の仕事において、爆発、火災等が生じた場合の救護に関する必要な措置 |
・ | 土砂等が崩壊するおそれのある場所等における危険防止のための技術上の指導その他の必要な措置 |
など |
また、仕事を自ら行う事業者で作業場所を管理する者(作業場所管理事業者)が特定の作業を行うときは、労働災害防止のために作業間の連絡および調整を行うこと等の措置を講じなければならないことが新たに定められました。
② 個人事業者等が講ずべき措置
今回の改正では、事業者だけではなく、個人事業者等が自ら講ずべき措置についても定められました。改正法では省令で定める人数以下の労働者を使用する事業者または個人事業者(法人である場合はその代表者または役員)を「作業従事役員等」として、一定の機械等について規格または安全装置を具備していない機械の使用を禁止するほか、定期に自主検査を行いその結果を記録しておくことなど、事業者と同様の義務が定められたほか、特定の危険または有害な業務に就くときは、安全または衛生のための特別教育を受けることが義務づけられます。
(2)職場のメンタルヘルス対策の推進
職場のストレスチェック(労働安全衛生法66条の10)の実施について、現行は政令で定める規模未満の事業場(常時使用する労働者数が50人未満の事業場)は努力義務とされていますが、今回の改正では、この規定が削除され、すべての事業場にストレスチェックの実施が義務化されます。
(3)化学物質による健康障害防止対策等の推進
労働者に危険もしくは健康障害を生ずるおそれのある化学物質(通知対象物)を譲渡し、または提供する者は、文書の交付等により相手方に通知する義務(労働安全衛生法57条の2)がありますが、今回の改正では、この通知義務に罰則が設けられるとともに、通知事項に変更を行う必要が生じた場合の変更事項の通知について、努力義務から義務に変更されます。
また、通知対象物の成分名が営業秘密である場合に、一定の有害性の低い物質に限り、代替化学名等の通知を認めることとされました。その他、作業環境測定法の改正がなされています。
(4)機械等による労働災害の促進等
ボイラー、クレーン等にかかる製造許可の一部(設計審査)や製造時等検査について、民間の登録機関が実施できる範囲が拡大されます。また、登録機関や検査業者の適正な業務実施のため、不正への対処や欠格要件を強化するとともに、検査基準への遵守義務が課されます。
(5)高齢者の労働災害防止の推進
高年齢者の労働災害防止を図るため、高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善、作業の管理その他の必要な措置を講ずることが努力義務とされます。詳細については、今後指針で示される予定です。
3.おわりに
今回は、本年の国会で成立した労働安全衛生法等の改正について見てきました。改正法では多くの事項が改正されますが、施行日は2026年4月1日を中心に改正事項ごとに定められ、ストレスチェックの義務化など施行日が決まっていないものもあります。また、今後、省令や指針で実務的な内容が示されるものと思われますので、今後の動向に留意が必要です。
以上
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