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人事労務コラム Column

2019.08.01

法改正情報

改正労働安全衛生法のポイント

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

2019年4月1日より、働き方改革関連法の1つである改正労働安全衛生法が施行されました。そこで、今回は改正法のポイントのうち、労働時間の状況の把握や長時間労働者に対する医師による面接指導等の強化、さらには労働者の健康情報の取扱いなどの概要について見ていきたいと思います。

1.労働時間の状況の把握

改正法では、長時間労働やメンタルヘルス不調などにより、健康リスクが高い状況にある労働者に対して医師による面接指導が適切に実施されるよう、労働者の労働時間の状況を把握するとともに、把握した記録を3年間保存することが事業者に義務付けられています。この場合の「労働時間の状況」とは、労働者の健康確保措置を適切に実施する観点から、労働者がいかなる時間帯にどの程度の時間、労務を提供し得る状態にあったかをいい、タイムカードによる記録やパソコンなどの使用時間の記録、管理監督者などを含む事業者の現認など、客観的な方法により労働日ごとの出退勤時刻や入退室時刻の記録等を把握しなければならないとされています。

ただし、労働時間の状況を客観的に把握する手段がないなどやむを得ない場合には、自己申告による把握も認められます。また、自己申告による場合には、対象労働者に対して適正に自己申告を行うよう説明するとともに、申告により把握した労働時間が実際の労働時間の状況と合致しているか否かについて、必要に応じて実態調査を実施し、所要の労働時間の状況の補正をするなど、必要な措置を講じなければならないとされています。

なお、労働時間の状況の把握は、労働者の健康確保措置を適切に実施するためのものであることから、高度プロフェッショナル制度の対象労働者を除くすべての労働者、すなわち事業場外労働みなし労働時間制の適用者や裁量労働制の適用者、管理監督者などについても対象となる点に留意が必要です。

2.医師による面接指導の対象となる労働者

次に、医師による面接指導について見ていきたいと思います。これまで、時間外・休日労働時間が1ヵ月あたり100時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる者について、本人が申出をした場合には、医師による面接指導を実施しなければならないとされていましたが、法改正により対象となる時間外・休日労働時間数が「100時間」から「80時間」に変更されました。

なお、研究開発業務に従事する労働者については、時間外・休日労働時間数の要件が1ヵ月あたり100時間を超えた場合とされており、かつ、労働者の申出の有無にかかわらず面接指導を行わなければならない点に留意が必要です。

3.労働者への労働時間に関する情報の通知

また、事業者は、疲労の蓄積が認められる労働者の面接指導の申出を促すため、時間外・休日労働時間の算定を行ったときは、その超えた時間が1ヵ月あたり80時間を超えた労働者本人に対して、速やかに書面や電子メール等により超えた時間に関する情報を通知しなければならないとされています。通知を行う際には、労働時間に関する情報のほか、面接指導の実施方法や実施時期などの案内についても併せて行うことが望ましいとされています。

なお、給与明細に時間外・休日労働時間数が記載されている場合には、これをもって労働時間に関する情報の通知としても差し支えありません。

4.労働者の健康情報の取扱い

労働安全衛生法では、労働者の健康情報を適正に取り扱うために必要な措置を講ずることを事業者に義務付けています。そして、同法の指針では、各種情報を取り扱う目的、方法、権限などについて健康情報等に関する取扱規程に定めをするとともに、労働者に周知することを求めています。

では、ここからは指針の主なポイントについて見てみましょう。

(1)健康情報等を取り扱う目的および取扱方法

まず、1つ目のポイントですが、指針では、労働者が健康情報等の取扱いによって不利益を受けることなく、安心して健康相談等を受けることができるよう、健康情報等を取り扱う目的および取扱方法を規程に定めるとともに労働者に明示することとされています。

(2)健康情報等を取り扱う者およびその権限ならびに取り扱う健康情報等の範囲

2つ目のポイントは、健康情報等を取り扱う者とその権限ならびに取り扱う健康情報等の範囲についてですが、これらの事項についてあらかじめ規程で具体的に定めておかなければならないとされています。

健康情報等を取り扱う担当者には、産業医や衛生管理者、人事部長、人事部門の事務担当者などが考えられますが、各担当者が取り扱うことができる健康情報等の範囲について、衛生委員会等において検討し、取扱規程に定めることとされています。

(3)健康情報等を取り扱う目的等の通知方法および本人の同意取得

3つ目のポイントは、健康情報等を取り扱う目的等の通知方法および本人の同意取得についてです。事業者は、健康情報等を収集するにあたっては、あらかじめその目的を公表しておくか、情報を取得した際に、速やかに労働者本人に通知し、または公表しなければなりません。

また、健康情報等を取得する場合には、法令に基づく場合などを除き、その利用目的や取扱方法などについて労働者に周知した上で本人の同意を得る必要があります。なお、労働者本人から適正に直接取得する場合は、本人がその情報を提供したことをもって、同意があったものとすることができます。

(4)健康情報等の適正管理の方法

4つ目のポイントは健康情報等の適正管理の方法についてです。個人データの利用目的の達成に必要な範囲内において、情報を正確かつ最新の内容に保つよう努めなければならないこととされています。また、個人データの漏えい・滅失・改ざん等の防止のため、個人情報に関して十分な知識を有する者を情報管理担当者として選任するなど、情報漏えいの防止をはじめとした健康情報等の安全管理措置を講じることが求められます。

(5)健康情報等の開示、訂正等の方法

5つ目は健康情報等の開示、訂正等の方法についてですが、事業者は、原則として、労働者から保有個人データに関する情報の開示請求を受けた場合は、労働者本人の不利益が発生する場合などを除き、その情報を開示することが求められます。また、保有個人データの訂正、追加、削除、使用停止の請求があった場合で、その請求が適正であると認められるときも、これらの措置を講じなければなりません。

(6)その他

最後に、事業者は、健康情報等の取扱いに関して、労働者からの苦情に適切かつ迅速に対処するよう努めなければならないこととされています。また、取扱規程は就業規則やその他の社内規程等により定めるとともに、その内容を労働者へ広く周知し、適正に運用されるようにする必要があります。

5.さいごに

以上、改正労働安全衛生法の主なポイントについて見てきました。近年、従業員の健康管理の問題は見過ごすことのできない重要な問題となっています。この機会に、あらためて社内の取り決めや運用ルールを再点検してみてはいかがでしょうか。

ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原 伸吾(特定社会保険労務士)

※本コラムは、「日経トップリーダー」経営者クラブ『トップの情報CD』(2019年8月号、日経BP発行)での出講内容を一部編集したものです。

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