2023.07.01
法改正情報
【2024年4月改正】裁量労働制の見直しについてわかりやすく解説(前編) ~ 専門業務型裁量労働制の改正内容 ~
労働基準法施行規則(以下「労基則」という。)および指針等が改正され、2024年4月1日より裁量労働制の見直しが行われます。この改正により、裁量労働制の導入・継続につき新たな手続きが必要になるなど、実務にも大きな影響が生じることが見込まれます。
裁量労働制には「専門業務型」と「企画業務型」がありますが、本改正ではいずれの制度も見直しが行われます。そこで今回は、裁量労働制のうち専門業務型裁量労働制の見直しについて解説していきます。
※本コラムは2024年4月以降の法令等に基づく内容です。
2024年3月までの法令等に基づく内容はこちら:裁量労働制① 裁量労働制の概要
本コラムの後編はこちら:【2024年4月改正】裁量労働制の見直しについてわかりやすく解説(後編)
1.専門業務型裁量労働制とは
専門業務型裁量労働制とは、業務の性質上、業務遂行の手段・方法・時間配分等を大幅に労働者に委ねる必要があるため、これらの決定等に関し、使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして法令等で定める対象業務に就かせた場合に、労使協定で定めた時間労働したものとみなす制度です。
専門業務型裁量労働制を導入するにあたっては、就業規則において、労使協定の締結により裁量労働を命じることがあること等について定めるとともに、導入する事業場ごとに、対象業務やみなし労働時間数、健康・福祉を確保するための措置、苦情処理に関する措置等について労使協定を締結し、所轄労働基準監督署長に届け出る必要があります。
2.改正の内容
改正労基則による専門業務型裁量労働制の改正事項は以下のとおりとされています。なお、施行日はいずれも2024年4月1日です。
① | 対象業務の追加 | ||
② | 労使協定事項の追加 | ||
③ | 記録の保存の明確化 |
以下、それぞれの内容について詳しく見ていきます。
(1)対象業務の追加
現行は、専門業務型裁量労働制の対象業務として19業務が定められていますが、改正後は、「銀行又は証券会社における顧客の合併及び買収に関する調査又は分析及びこれに基づく合併及び買収に関する考案及び助言の業務」(いわゆるM&Aの業務)が追加され、20業務となります。改正後の対象業務は以下のとおりです。
<対象業務> ※下線が追加された業務
1 | 新商品、新技術の研究開発の業務 | ||
2 | 情報システムの分析、設計の業務 | ||
3 | 新聞、出版、放送における取材、編集の業務 | ||
4 | 衣服、工業製品、広告等の新たなデザイン考案の業務 | ||
5 | プロデューサー、ディレクターの業務 | ||
6 | コピーライターの業務 | ||
7 | システムコンサルタントの業務 | ||
8 | インテリアコーディネーターの業務 | ||
9 | ゲーム用ソフトウェアの創作の業務 | ||
10 | 証券アナリストの業務 | ||
11 | 金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発の業務 | ||
12 | 大学における教授の研究の業務 | ||
13 | 銀行または証券会社における顧客の合併および買収に関する調査または分析およびこれに基づく合併および買収に関する考案および助言の業務 | ||
14 | 公認会計士の業務 | ||
15 | 弁護士の業務 | ||
16 | 建築士(一級建築士、二級建築士および木造建築士)の業務 | ||
17 | 不動産鑑定士の業務 | ||
18 | 弁理士の業務 | ||
19 | 税理士の業務 | ||
20 | 中小企業診断士の業務 |
(2)労使協定事項の追加
専門業務型裁量労働制の導入にあたり締結する労使協定事項について、以下の事項が追加されます。
① | 労働者本人の同意を得ること | ||
② | 労働者が同意をしなかった場合の不利益取扱いの禁止 | ||
③ | 同意の撤回の手続き | ||
④ | 各労働者の同意および同意の撤回に関する記録の保存 |
①について、現行は、労働者本人の同意は必要とされていませんが、改正後は、制度の適用にあたって本人の同意が必要となります。
②、③について、今回の改正で本人同意が必要になることに伴い、制度適用に同意しない場合に不利益取扱いをしないこと、ならびに、同意後に撤回する場合の手続きの内容について定めることとされました。
④について、記録として保存する事項として、健康・福祉確保措置や苦情処理に関する事項のほか、同意および同意の撤回に関する記録が追加されます。
改正後はこれらの事項を協定に定めるとともに、協定に定めた内容に沿って制度を運用する必要があります。
(3)記録の保存の明確化
労基則では、①労働時間の状況、②健康・福祉確保措置として講じた措置、③苦情処理に関する措置として講じた措置について労働者ごとに記録し、3年間保存することを労使協定に定めることとされていますが、改正により、②、③の措置の実施状況についても記録が必要となります。
また、(2)で見たとおり、制度適用の同意および同意の撤回の記録についても保存することが必要となります。
3.望ましい措置(健康福祉確保措置の追加)
専門業務型裁量労働制の健康福祉確保措置は、企画業務型裁量労働制における健康福祉確保措置の内容と同等のものとすることが望ましい(平15.10.22 基発1022001号)とされていますが、今回の改正では、企画業務型裁量労働制の指針(注)についても改正が行われており、健康福祉確保措置の決定にあたって、以下の1および2からそれぞれ一つ以上の措置を実施することが労働者の健康福祉確保のため望ましいとされました。このため、専門業務型裁量労働制においても、今回の改正を機に健康福祉確保措置について検討することが望まれます。
※下線は今回の改正に伴い指針に追加された措置
1. | 事業場の対象労働者全員を対象とする措置 | ||
● 勤務間インターバルの確保 | |||
● 深夜労働の回数制限 | |||
● 労働時間の上限措置(一定の労働時間を超えた場合の制度の適用解除) | |||
● 一定日数連続した年次有給休暇取得の促進 | |||
2. | 個々の対象労働者の状況に応じて講ずる措置 | ||
● 一定の労働時間を超える対象労働者への医師の面接指導 | |||
● 代償休日または特別休暇等の付与 | |||
● 健康診断の実施 | |||
● 心とからだの健康問題についての相談窓口設置 | |||
● 適切な部署への配置転換 | |||
● 産業医等による助言・指導または保健指導を受けさせること |
(注)労働基準法第38条の4第1項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件確保を図るための指針
4.実務対応
ここまで見てきたように、改正後は、専門業務型裁量労働制度を適用するにあたって本人の同意を得るとともに、協定事項の追加が必要となるため、現在、裁量労働制を導入している企業については、2024年4月1日の改正労基則施行までに本人同意および労使協定の再締結・届出が必要となります。企業実務においては、同意を得る時期や方法、同意の撤回に関する手続きの方法の検討のほか、撤回により専門業務型裁量労働制が適用されなくなった際の処遇や業務内容等について、早めに検討しておくことが肝要です。
なお、本改正により、下記のとおり労使協定(様式第13号(第24条の2の2第4項関係))の様式が変更されますので、注意が必要です。
次回は、企画業務型裁量労働制の改正内容と実務対応について解説していきます。
以上
▽次回コラム
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所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)