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人事労務コラム Column

2023.07.15

法改正情報

【2024年4月改正】裁量労働制の見直しについてわかりやすく解説(後編) ~ 企画業務型裁量労働制の改正内容 ~

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

労働基準法施行規則(以下「労基則」という。)および関係指針が改正され、2024年4月1日から裁量労働制の導入、運用が大きく変わります。前回は、専門業務型裁量労働制の改正内容について解説しましたが、今回は企画業務型裁量労働制の改正内容について解説していきます。

▽前回コラム
【2024年4月改正】裁量労働制の見直しについてわかりやすく解説(前編)

 

1.企画業務型裁量労働制とは

企画業務型裁量労働制とは、事業の運営に関する事項についての企画、立案、調査および分析の業務であって、業務の性質上、その遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ね、労使委員会で定めた時間労働したものとみなすことができる制度です。

企画業務型裁量労働制は、対象業務を行う本社・本店のほか、事業運営上の重要な決定を行う事業本部等であって、対象業務を行っている事業場に限り適用することが可能とされています。ここでいう対象業務とは、次の4つの要件すべてに該当する業務をいいます。

【対象業務の要件】

事業の運営に関する事項についての業務であること
企画、立案、調査および分析の業務であること
業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある業務であること
業務の遂行の手段および時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務であること

 

企画業務型裁量労働制を導入するにあたっては、対象となる事業場ごとに労使委員会(賃金、労働時間その他労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対して意見を述べることを目的とする委員会)を設置し、同委員会の5分の4以上の多数で、対象業務や対象労働者の範囲、みなし労働時間数等一定の事項について決議するとともに、所轄労働基準監督署長に届け出る必要があります。制度導入後は、6ヵ月以内ごとに1回、所轄労働基準監督署長へ定期報告を行うこととされています。

また、対象労働者に本制度を適用するにあたっては、あらかじめ労働者本人の同意を得る必要があります。

2.改正の主な内容

今回の改正により、企画業務型裁量労働制の導入・適用時に新たに下記の対応が必要となります。

① 同意の撤回に関する手続きの定め・撤回に関する記録の保存等

② 労使委員会に対する賃金・評価制度の説明

③ 労使委員会の運営に関する見直し

a)制度の実施状況の把握と運用改善

b)労使委員会の6ヵ月以内ごとの開催

④ 定期報告の頻度の変更

 

(1)同意の撤回に関する手続きの定め・撤回に関する記録の保存等

現行では、企画業務型裁量労働制の適用にあたって労働者本人の同意を得ることおよび同意に関する労働者ごとの記録を3年間保存することを労使委員会で決議する必要がありますが、一度同意した後の撤回については定めがありません。改正後は、本人が同意した後に撤回する場合の手続きを定めるとともに、撤回に関する記録を3年間保存することについても、労使委員会で決議する必要があります。

(2)労使委員会に対する賃金・評価制度の説明

今回の改正により、使用者が労使委員会に対し、企画業務型裁量労働制の対象労働者に適用される賃金・評価制度について、下記の2つの点を説明することが義務づけられます。

① 制度内容

企画業務型裁量労働制の対象労働者に適用される賃金・評価制度について事前に説明を行うこと、ならびに説明項目等を労使委員会の運営規程に定めるとともに、その定めに沿って使用者が労使委員会に賃金・評価制度について説明することが求められます。

② 制度を変更する場合の変更内容

使用者は、対象労働者に適用される賃金・評価制度を変更する場合、労使委員会に対して賃金・評価制度の変更内容について説明を行うこととされました。説明するタイミングについて、指針(※)では、制度変更前に(事前に行うことが難しい場合は変更後遅滞なく)行うことが適当とされています。なお、制度を変更する場合に説明を行うことについて、労使委員会の決議項目とする必要があります。

※ 労働基準法38条の4第1項の規定により同項1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件確保を図るための指針。以下同じ。

 

(3)労使委員会の運営に関する見直し

労使委員会の要件の一つとして、労使委員会の招集、定足数、議事等について運営規程に定める必要がありますが、今回の改正により、労使委員会の運営方法が見直され、運営規程に記載すべき事項として次の事項が追加されました。

① 制度の趣旨に沿った適正な運用の確保に関する事項
② 労使委員会の開催頻度を6ヵ月以内ごとに1回とすること

 

①について、具体的には制度の実施状況の把握の頻度や方法を定めることとされています(前掲指針)。これは、労使委員会が対象労働者の働き方や処遇が制度の趣旨に沿ったものとなっているかを調査審議したうえで、運用の改善を図ったり決議の内容を見直す必要があること等を踏まえて追加されたものです。

②について、現行では労使委員会の開催頻度に関する法令上の定めはありませんが、改正後は6ヵ月以内ごとに1回とすることについて明確に運営規程に定める必要があることとされました。

(4)定期報告の頻度および報告事項の変更

現行では、使用者は、企画業務型裁量労働制の制度導入後、対象労働者の労働時間の状況および健康・福祉確保措置の実施状況について、制度の「決議が行われた日」から6ヵ月以内ごとに1回、所轄労働基準監督署長に対して報告を行うこととされています。この定期報告の頻度について、改正後は、「決議の有効期間の始期」から起算して、初回は6ヵ月以内に1回、その後は1年以内ごとに1回となります。また、現行の項目に加え、「労働者の同意」および「その撤回の実施状況」が報告事項として追加されます。

3.その他の留意事項

ここまで見てきた改正労基則による改正事項のほか、指針の改正により様々な留意事項が定められましたが、とくに実務に影響する留意事項として、健康福祉確保措置が追加されたことが挙げられます。前編で解説したとおり、指針では、適切な健康福祉確保措置の例示が追加されるとともに、健康福祉確保措置の決定にあたって、以下の1および2からそれぞれ一つ以上の措置を実施することが望ましいこととされました。

【改正後の望ましい健康福祉確保措置】

※下線は今回の改正に伴って指針に追加された措置

① 事業場の対象労働者全員を対象とする措置

勤務間インターバルの確保

深夜労働の回数制限

労働時間の上限措置(一定の労働時間を超えた場合の制度の適用解除)

● 一定日数連続した年次有給休暇取得の促進

② 個々の対象労働者の状況に応じて講ずる措置

一定の労働時間を超える対象労働者への医師の面接指導

● 代償休日または特別休暇等の付与

● 健康診断の実施

● 心とからだの健康問題についての相談窓口設置

● 適切な部署への配置転換

● 産業医等による助言・指導または保健指導を受けさせること

 

4.実務対応

ここからは実務対応について見ていきます。

(1)労使委員会の決議・運営規程の改定

現在、企画業務型裁量労働制を導入している会社が改正後も引き続き同制度を継続する場合には、労使委員会の運営規程に必要な事項を追加するとともに、改正による決議事項を追加した上で決議し、2024年4月1日までに決議届を所轄労働基準監督署に届け出る必要がある点に注意が必要です(下表参照)。

【改正事項の運営規程・決議事項への追加等】

改正事項 運営規程への

追加事項

決議事項への

追加・決議事項

同意の撤回に関する手続きの定め・撤回に関する記録の保存等
労使委員会に対する賃金・評価制度の説明

(制度変更時)

制度の実施状況の把握と運用改善
労使委員会の6ヵ月以内ごとの開催
定期報告の頻度の変更

 

(2)様式の変更

本改正により、以下のとおり、労使委員会の決議の届出および定期報告の様式が変わりますので、注意が必要です。


 

以上

 

 


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▽前回コラム
【2024年4月改正】裁量労働制の見直しについてわかりやすく解説(前編)

 

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