トップマネジメントから人事・労務の実務まで安心してお任せください!

人事労務コラム Column

2026.07.15

法改正情報

【2026年3月公表】職場における熱中症防止ガイドラインの概要

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

職場における熱中症による労働災害は近年増加傾向にあり、一層の対策の強化が求められています。とくに死亡災害については、死亡災害全体に占める割合が墜落・転落等の他の災害よりも高く、その原因の多くが初期対応の遅れによることから、熱中症の重篤化による死亡災害を防止するための対策として、2025年6月1日に改正労働安全衛生規則が施行され、熱中症悪化防止のための体制を整備することが事業主に義務づけられました(改正安全衛生規則の概要については、「労働安全衛生規則および労働安全衛生法等の改正法案の概要(上)」参照)。

また、本年3月18日には、「職場における熱中症防止対策のための検討会」において、「職場における熱中症防止のためのガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)が策定されました。今回は、新たに策定されたガイドラインの内容について見ていきます。

1.ガイドラインの目的

今回策定されたガイドラインでは、熱中症リスクに応じて行うことが望ましい具体的な方法が示されており、事業者がその業種・業態に応じて適切に選択して取り組むよう促すことにより、職場における熱中症防止を図ることを目的としています。

また、熱中症のおそれのあるすべての作業が適用対象とされており、事業者および作業従事者に加え、注文者や作業場所管理事業者、さらには労働者と異なる場所で就業する労働者以外の作業従事者についても、ガイドラインの内容を参考に熱中症防止対策を検討・実施することが望ましいとされています。

2.ガイドラインで示された実施事項の概要

ガイドラインでは、事業者は、図表①の「①熱中症リスクの評価」に基づき、熱中症によるリスクを把握・評価したうえで、適切な対策を同②のⅰ)~ⅵ)の措置から選択して実施することが考えられるとされています(図表①参照)。

【図表① ガイドラインで示された実施事項】

熱中症リスクの評価
ⅰ) 有害性の要因の特定
ⅱ) 湿球黒球温度の値(WBGT値)の把握
ⅲ) 熱中症リスクの評価・検討
熱中症リスクに応じた措置
ⅰ) 労働衛生管理体制の確立
ⅱ) 作業環境管理
ⅲ) 作業管理
ⅳ) 健康管理
ⅴ) 労働衛生教育
ⅵ) 異常時の措置

 

3.熱中症リスクの評価

それでは、最初に熱中症リスクの評価から詳しく見ていきましょう。ガイドラインでは、事業者が熱中症リスクの把握・評価を行う方法として、以下(1)~(3)が示されています。

(1) 有害性要因の特定

熱中症リスクを評価するために、まず事業場において熱中症のリスクとなり得る暑熱に関する要因があるかを特定する必要があります。ガイドラインでは、暑熱に関する要因として、以下の事項が挙げられています(図表②参照)。

【図表② 暑熱に関する要因】

高温・多湿な作業環境
連続作業
通気性や透湿性の低い衣服や防護具
身体作業負荷の大きい作業

 

(2) 湿球黒球温度の値(WBGT値)の把握

熱中症リスクを評価するために最も基本となる手法は、WBGTの把握です。WBGTは、暑熱環境による熱ストレスを評価するための暑さ指数であり、作業場所にWBGT指数計を設置する等により、WBGT値を測定することが望まれます。ガイドラインでは、日本産業規格JIS Z 8504またはJIS B 7922に適合したWBGT指数計による随時把握が基本とされています。

(3) 熱中症リスクの評価・検討

事業者は、(2)で把握したWBGT値をもとに、作業内容や作業場所の状況に応じて、連続作業時間、服装、作業の身体負荷を勘案して熱中症リスクが大きいかどうかを見積ることが求められます。熱中症リスクの見積りにあたっては、身体作業強度や作業中の着衣等に応じた「WBGT基準値」がガイドライン内に示されており、その基準値を超えている場合や超えるおそれのある場合には、冷房等によりWBGT値の低減をはじめとした熱中症予防対策を実施するよう努めなければならないこととされています。

熱中症リスク低減のための措置を検討する際は、後述4.(2)の「作業環境管理」および4.(3)の「作業管理」の内容を参考にしながら、事業場の実情に応じて対策を検討することとされています。

なお、暑さや水分不足に対する感覚機能や身体調節機能の低下がみられる高年齢作業従事者や、疾病または障がいを持つ作業従事者については、とくに留意することとされています。

4.熱中症リスクに応じた措置

熱中症リスクに応じた措置として、ガイドラインでは、以下の(1)~(6)が示されています。

(1) 労働衛生管理体制の確立等

職場における熱中症防止対策については、衛生委員会等を活用し、労働者の理解と協力を得つつ労使で話し合い、その内容を労働者に対して周知することが重要とされています。具体的には、以下の措置が示されています(図表③参照)。

【図表③ 労働衛生管理体制の確立等における措置(概要)】

各種管理者等の選任と役割
事業者は、衛生管理者等を中心に、ガイドラインに掲げる熱中症防止対策(作業に応じたWBGT基準値の決定、WBGT値の低減対策等)について検討させること
作業手順・作業計画の策定
夏季の暑熱環境下における作業に対する作業手順・作業計画を策定すること
報告体制の整備および手順等の作成ならびに周知
熱中症を生ずるおそれのある作業(※)を行わせるときは、労働安全衛生規則612条の2に基づき、以下の措置を講じること
熱中症の自覚症状がある作業従事者や、熱中症が生じた疑いがある作業従事者を発見した場合の報告体制の整備および関係者への周知
あらかじめ作業場ごとに、熱中症の症状の悪化を防止するために必要な措置の内容、実施手順および緊急連絡先の設定ならびに作業従事者への周知
※ 熱中症を生ずるおそれのある作業とは、WBGT値が28度以上または気温が31度以上の場所において、継続して1時間以上または1日4時間を超えて行われることが見込まれる作業

 

(2) 作業環境管理

作業環境管理については、以下の措置が挙げられています(図表④参照)。

【図表④ 作業環境管理における措置(概要)】

WBGT値の低減・発熱体との間に遮へい物の設置、簡易な屋根等の設置を行うこと
休憩場所の整備等・休憩の設備はできる限り作業従事者がすみやかに利用できる場所に設置すること

 

(3) 作業管理

作業管理については、以下の措置が挙げられています(図表⑤参照)。

【図表⑤ 作業管理における措置(概要)】

作業時間の短縮等
作業の休止時間や休憩時間を確保すること
暑熱順化
計画的に暑熱順化期間を設けること
プレクーリング
作業開始前にあらかじめ深部体温を下げ、作業中の体温上昇を抑制させること
水分および塩分の摂取
水分および塩分の作業前後の摂取と作業中の定期的な摂取を指導すること
服装による身体冷却
透湿性・通気性の良い服や身体を冷却する機能を持つ服を着用させること
作業中の巡視
高温多湿作業場所での作業中は巡視を頻繁に行い、声をかける等をして作業従事者の健康状態を確認すること
業種・作業別の対応例
(建設現場をはじめとする屋外作業の場合の対応例)
太陽の位置を考慮して日陰となる場所で作業を行うこと
早朝から作業を行い、早帰りとするなどにより直射日光下での作業時間を短縮すること

 

(4) 健康管理

熱中症の発症者については、当日または前日に比較的軽微な体調不良がみられ、それが暑熱ばく露と重なることで急激に重傷化する例が少なくありません。そのため、事業者による健康診断結果に基づく対応だけでなく、作業開始前に当日の体調に普段と異なる点がないか等を確認することや、作業従事者自身が日常的に健康管理を行うことが重要です。具体的には、以下の措置が示されています(図表⑥参照)。

【図表⑥ 健康管理における措置(概要)】

健康診断結果に基づく対応
安全衛生法66条の4および66条の5に基づき、異常所見があると診断された場合には、医師等の意見を勘案して、必要に応じて就業場所の変更等の適切な措置を講ずること
日常の健康管理等
高温多湿作業場所で作業を行う作業従事者については、睡眠不足、前日等の飲酒、朝食に未摂取、体調不良等が熱中症の発症に影響を与えるおそれがあることに留意して日常の健康管理について指導を行い、必要に応じて健康相談を行うこと
作業従事者の健康状態および暑熱順化の状況等の確認
当日の作業開始前に、睡眠不足等がないかを声がけする等の健康状態の確認を行うこと

 

(5) 労働衛生教育

職場における熱中症防止対策を的確に行うためには、対策に関わる熱中症予防管理者、職長等の現場指揮者および作業従事者など、それぞれの立場に応じた労働衛生教育を行うことが望まれます。また、教育にあたっては、簡単な教材でも繰り返し参照できるようにすることが望ましいとされており、厚生労働省が運営するポータルサイトに掲載されている教材を活用することも考えられます。

(6) 異常時の措置

熱中症を疑わせる症状が現れた場合、周囲の作業従事者等は、熱中症が疑われる作業従事者を一旦作業から離し、涼しい場所で身体を冷やし、水分および塩分を補給させるなどの救急措置を講じることが求められます。また、症状に応じて救急隊の要請等を行う必要がありますが、救急隊の到着を待つ間、熱中症が疑われる作業従事者を一人きりにすることなく、他の作業従事者が見守ることが重要です。熱中症を疑わせる症状としては、ふらつき、発汗、けいれん、めまい、頭痛等が挙げられており、2.②-ⅴ)の労働衛生教育を通じて作業従事者に周知することが求められています。

5.おわりに

近年、夏季に記録的な猛暑が続いており、職場における熱中症のリスクは一層高まっています。企業実務においては、熱中症防止ガイドラインを参考に、自社の熱中症防止対策の内容をあらためて点検し、必要に応じて見直しを行っていくことが肝要です。

以上


 《詳しくはこちら(業務案内)》


 

▽労働安全衛生法の関連コラムをチェックする▽
2015.10.1 ストレスチェック制度の概要と実務対応
2025.6.1 【2025年6月施行】職場の熱中症対策が義務化されました
2025.6.15 【2025年5月成立】ストレスチェックの義務化対象企業の拡大 ~改正労働安全衛生法等の概要~
2026.6.1 【2026年4月努力義務化】高年齢者の労働災害防止措置を分かりやすく解説!

Contact お問い合わせ

人事・労務のご相談なら
ヒューマンテック経営研究所へ

> お問い合わせはこちら