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人事労務コラム Column

2026.06.01

法改正情報

【2026年4月努力義務化】高年齢者の労働災害防止措置を分かりやすく解説!

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

2026年4月1日に改正労働安全衛生法が施行され、高年齢者の労働災害の防止を図るため、高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善や作業管理等の必要な措置を講ずることが事業者の努力義務として定められました。

改正法では、事業者が講ずべき措置に関して適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表することとされていますが、この改正法の成立を受けて、2026年2月に「高年齢者の労働災害防止のための指針」(令和8年2月10日 同指針公示第1号)が公表され、事業者が講ずべき措置の具体的な内容が明らかになりました。

指針の内容は、従来、厚生労働省より公表されていた「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)」の内容から大きな変更はありませんが、今回の法改正により法的根拠を持つ「指針」に格上げされるとともに、従来のガイドラインは2026年3月31日をもって廃止されました。

そこで、今回は、事業者に努力義務として求められる措置について、指針の内容に基づいてポイントを解説していきます。

 

1.事業者が講ずべき措置の全体像

指針では、事業者が講ずべき措置として、以下の事項が示されています。

(1)安全衛生管理体制の確立等
(2)職場環境の改善
(3)高年齢者の健康や体力の状況の把握
(4)高年齢者の健康や体力の状況に応じた対応
(5)安全衛生教育

 

2.措置の内容

それでは、1.(1)~(5)の措置について、それぞれ具体的な内容を見ていきましょう。

(1)安全衛生管理体制の確立等

安全衛生管理体制の確立等にかかる措置として、次の2項目が挙げられています。

① 安全衛生管理体制の確立
② 危険源の特定等のリスクアセスメントの実施

 

① 安全衛生管理体制の確立

安全衛生管理体制の確立にかかる措置について、経営トップが高年齢者労働災害防止対策に関する事項を盛り込んだ安全衛生方針を表明することおよびその実施体制を明確化することや、安全委員会や衛生委員会等において高年齢者労働災害防止対策に関する事項の調査審議を行うこと(委員会等を設けていない場合は、労使双方で話し合う機会を設けること)などが示されています。

 

② 危険源の特定等のリスクアセスメントの実施

危険源の特定等のリスクアセスメントとは、高年齢者の身体機能の低下等による労働災害の発生リスクに関して、災害事例やヒヤリハット事例から危険源の洗出しを行い、当該リスクの高さを考慮して高年齢者労働災害防止対策の優先順位を検討することをいいます。

リスクアセスメントの実施にあたっては、「危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(平成18年3月10日同指針公示第1号)に基づく手法で取り組むよう努めることとされています。また、リスクアセスメントの結果を踏まえて優先順位を検討し、以下の(2)~(5)の措置を参考に優先順位の高いものから取り組む事項を決定することとされています。
 

(2)職場環境の改善

職場環境の改善にかかる措置として、次の2項目が挙げられています。

① 身体機能の低下を補う設備・装置の導入
② 高年齢者の特性を考慮した作業管理

 

① 身体機能の低下を補う設備・装置の導入

身体機能が低下した高年齢者であっても安全に働き続けることができるよう、事業場の施設、設備、装置等の改善を検討し、必要な対策を講じることとされています。具体的な例としては、作業場所の照度の確保や手すりの設置、聞き取りやすい中低音域の警報音の採用、熱中症等を防ぐための涼しい休憩場所の整備、人力取扱重量を抑制することなどが挙げられています。

 

② 高年齢者の特性を考慮した作業管理

筋力、バランス能力、敏捷性、全身持久力、感覚機能および認知機能の低下等の高年齢者の特性を考慮して、作業内容等の見直しを検討し実施することとされています。具体的な例としては、勤務形態や勤務時間を工夫し、就労しやすくすること(短時間勤務制度や交替制勤務等)、腰部に過度な負担がかかる作業について、重量物の小口化や取扱回数の減少等の改善を図ること、身体的な負担の大きな作業について、定期的な休憩の導入や作業休止時間の運用を図ること、脱水症状防止のため意識的な水分補給を推奨することなどが挙げられています。

 

(3)高年齢者の健康や体力の状況の把握

高年齢者の健康や体力の状況の把握にかかる措置として、次の3つの項目が挙げられています。

① 健康状況の把握
① 体力の状況の把握
① 健康や体力の状況に関する情報の取扱い

 

① 健康状況の把握

労働安全衛生法で定める雇入時および定期健康診断を確実に実施するほか、結果を通知するにあたっては、産業保健スタッフから健康診断項目ごとの結果の意味を丁寧に説明するなど、高年齢者が自らの健康状況を把握できるような取組みを実施することが望ましいとされています。

 

② 体力の状況の把握

高年齢者の体力に合った作業に従事させるとともに、高年齢者自らが身体機能の維持向上に取り組めるよう、高年齢者を対象とした体力チェックを継続的に行うことが望ましいとされています。また、身体機能の低下は高年齢者に限られるものではないことから、事業場の実情に応じて、青年、壮年期から体力チェックを実施することが望ましいとされています。

 

③ 健康や体力の状況に関する情報の取扱い

健康情報等を取り扱う際は、「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」(平成 30 年9月7日同指針公示第1号)を踏まえた対応が必要であることに留意することとされています。
また、体力の状況の把握にあたっては、個々の労働者に対する不利益な取扱いを防ぐため、労働者本人の同意の取得方法や労働者の体力の状況に関する情報の取扱い方法等の手続きについて、安全・衛生委員会等の場を活用して定める必要があることとされています。

 

(4)高年齢者の健康や体力の状況に応じた対応

高年齢者の健康や体力の状況に応じた対応に関する措置として、次の3つの項目が挙げられています。

① 個々の高年齢者の健康や体力の状況を踏まえた措置
② 高年齢者の状況に応じた業務の提供
③ 心身両面にわたる健康保持増進措置

 

① 個々の高年齢者の健康や体力の状況を踏まえた措置

脳・心臓疾患が起こる確率は加齢にしたがって徐々に増加することを踏まえ、高年齢者の基礎疾患の罹患状況により労働時間の短縮や深夜業の回数の減少、作業の転換等の措置を講ずることとされています。また、就業上の措置を講じるにあたっては、以下の点に留意することとされています。

健康診断や体力チェック等の結果、高年齢者の労働時間や作業内容を見直す必要がある場合は、
産業医等の意見を聴いて実施すること
・業務の軽減等の就業上の措置を実施する場合は、高年齢者との十分な話合いを通じて了解が
得られるよう努めること

 

② 高年齢者の状況に応じた業務の提供

高年齢者に適切な就労の場を提供するため、事業者は職場環境の改善を進めるとともに、職場における一定の働き方のルールを構築するよう努めることとされています。
また、健康や体力の状況は加齢にしたがって個人差が拡大するため、個々の健康や体力の状況に応じて、安全と健康の観点から適合する業務内容が高年齢者とマッチングするよう努め、継続した業務の提供に配慮することとされています。なお、何らかの疾病を抱えながら働き続けることを希望する高年齢者の治療と就業の両立については、「治療と就業の両立支援指針(令和8年厚生労働省告示第28号)」に基づき取り組むよう努めることとされています。

 

③ 心身両面にわたる健康保持増進措置

(3)②で把握した高年齢者の体力の状況を踏まえて、身体機能等の維持向上のための取組みを実施することが望ましいこととされています。
また、あわせて事業場として組織的に労働者の心身両面にわたる健康保持増進に取り組むよう努めることとされています。具体的には、次のような取組みが挙げられています。

・「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」(昭和63年9月1日同指針公示第1号)および
「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平成18年3月31日同指針公示第3号)に基づき、
事業場における健康保持増進対策の推進体制の確立を図ること
・健康診断の結果等に基づき、必要に応じて運動指導や栄養指導、保健指導、メンタルヘルスケアを実施すること

 

(5)安全衛生教育

安全衛生教育に関する措置として、次の2つの項目が挙げられています。

① 高年齢者に対する教育
② 管理監督者等に対する教育

 

① 高年齢者に対する教育

高年齢者に対して労働安全衛生法で定める雇入れ時等の安全衛生教育、一定の危険有害業務において必要となる技能講習や特別教育を確実に行うことが求められています。
高年齢者を対象とした教育では、写真や図、映像等の文字以外の情報も活用し、十分な時間をかけるなど理解を得やすくするようにすることや、再就職等により経験のない業務等に従事する場合には、とくに丁寧な教育訓練を行うこととされています。また、安全衛生教育を計画的に行い、その定着を図ることが望ましいとされています。

 

② 管理監督者等に対する教育

事業場内で教育を行う者や管理監督者、高年齢者とともに働く各年代の労働者に対しても、高年齢者の特性と高年齢者に対する安全衛生対策についての教育を行うことが望ましいとされています。

 

3.チェックリスト等のツール

これまで見てきたとおり、事業者が取り組むべき措置にはリスクアセスメントや体力チェック等が含まれていますが、従来のガイドラインでは、これらの実施に利用できるツール等が掲載されていました。今回の改正でガイドラインから指針に格上げされたことに伴い、ツール等は2つの通達(令8.2.10基発0210第1、令8.2.25基安安発0225第2)により示されています。通達に示されているツールには、以下のようなものがあります。

高年齢労働者の安全と健康確保のためのチェックリスト(リスクアセスメント)
転倒等リスク評価セルフチェック票(体力チェック)

 

高年齢者の労働災害防止に取り組むにあたっては、必要に応じてこれらのツールを活用するとよいでしょう。

 

4.おわりに

今回は指針の内容から、努力義務として事業者が講ずべき措置の具体的な内容について見てきました。高年齢者の労働災害防止のため、まずは、自社の設備の状況や業務遂行の方法などについてあらためて点検し、必要に応じて指針に沿った改善を進めていくことが肝要です。

以上

 


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