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人事労務コラム Column

2024.06.15

特集

【在宅勤務の新通達を解説!】テレワークの推進について  ~割増賃金の算定における在宅勤務手当の取扱い~

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

2024年4月5日に、「割増賃金の算定におけるいわゆる在宅勤務手当の取扱いについて」(令6.4.5基発0405第6、以下「通達」という。)が発出されました。これは、政府の規制改革実施計画(2023.6.16閣議決定)に基づくもので、在宅勤務手当が実費弁償と整理され、割増賃金の算定基礎となる賃金への算入を要しない場合の取扱いを定めたものです。

今回は、在宅勤務手当が実費弁償と整理される場合の取扱いについて、新たに発出された通達の内容をもとに見ていきます。

▽前回コラム
【テレワークの実務ポイントを解説!】テレワークの推進について ~テレワークガイドラインのポイント~

 

1.割増賃金の算定基礎となる賃金

労働基準法では、労働者に時間外・休日・深夜労働を行わせたときは、法定で定める率以上の割増賃金を支払わなければならないこととされています(同法37条)。割増賃金の算定基礎となる賃金は、「通常の労働時間または労働日の賃金」であり、基本給のほか手当なども含まれます。

ただし、同条5項および労働基準法施行規則21条に定めるものは、割増賃金の算定基礎となる賃金に算入しないこととされています。具体的には、次の①から⑦がこれに該当します。

【割増賃金の算定基礎に算入しない賃金】

家族手当
通勤手当
別居手当
子女教育手当
住宅手当
臨時に支払われた賃金
1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金

 

いわゆる「在宅勤務手当」が割増賃金の算定基礎となるかについてですが、通達では、一般的には上記①から⑦の賃金には該当しないと考えられるため、割増賃金の算定基礎となる賃金に算入されることとなるとする一方で、「事業経営のために必要な実費を弁償するもの」(以下、「実費弁償」という。)として支給されていると整理される場合は、そもそも「賃金」に該当しないため、割増賃金の算定基礎となる賃金への算入は要しないとされています。

2 在宅勤務手当が実費弁償とされる要件

在宅勤務手当が実費弁償と整理されるためには、労働者が実際に負担した費用のうち業務のために使用した金額が特定され、その金額を精算するものであることを明らかにしなければなりません。

このため、以下の2点をいずれも満たす必要があります。

就業規則等で実費弁償分の計算方法が明示されること
実費弁償分の計算方法が在宅勤務の実態(勤務時間等)を踏まえた合理的・客観的な計算方法であること

 

たとえば、労働者が在宅勤務手当として受け取った金額を在宅勤務に必要な費用として使用しなかった場合であっても返還する必要がないもの(企業が労働者に対して毎月定額を渡切りで支給するもの)等は、実費弁償に該当しないため、割増賃金の算定基礎に算入する必要があります。

3 実費弁償の計算方法

では、実費弁償と整理される在宅勤務手当の計算方法について見ていきます。在宅勤務手当として支払われるもののうち、実費弁償となり得るものとして以下のようなものが考えられます。

事務用品等(パソコン等)の購入費用
通信費(電話料金、インターネット接続にかかる通信料)
電気料金
レンタルオフィスの利用料金 など

 

通達では、これらが実費弁償とされるための「在宅勤務手当の実態(勤務時間等)を踏まえた合理的・客観的な計算方法」としては、次の3つの方法が考えられるとされています。

(1) 国税庁「在宅勤務手当に係る費用負担等に関するFAQ(源泉所得税関係)」で示されている計算方法

国税庁のFAQでは、在宅勤務に通常必要な費用について、その費用の実費相当額を精算する方法により企業が支給する一定の金銭については課税する必要がないとされており、非課税として扱うことができる計算方法についてQ&Aにより示されています。在宅勤務手当を計算する際に、このFAQと同様の計算をすることで、実費弁償と整理することができます。

具体的な計算方法について見ると、上記①の事務用品等(パソコン等)の購入費用については、労働者が立替払いまたは会社が仮払いし、その購入費用を領収証等に基づき精算した場合は、非課税として扱って差し支えないこととされています。ただし、会社が労働者に事務用品等を支給した場合(所有権が労働者に移転した場合)、課税が必要となるので注意が必要です。

上記②、③の通信費および電気料金については、家事部分を含めて労働者が負担した費用のうち、業務のために使用した部分を合理的に計算した金額を精算した場合は、非課税(実費弁償)に該当するとされています。「業務に使用した部分」の合理的とされる計算方法は下表のとおりです。

 

【通信費および電気料金の「業務のために使用した部分」の計算方法】

上記④のレンタルオフィスの利用料金については、従業員が在宅勤務に通常必要な費用としてレンタルオフィス代を立替払いし、かつ業務のために利用したものとして領収書等を企業に提出してその代金が精算されているものについては、課税する必要はないとされています。

(2) (1)の一部を簡略化した計算方法

2つ目の方法は、電話料金、インターネット接続にかかる通信料および電気料金について、過去複数月の実績をもとに、(1)の一部を簡略化し計算する方法です。

具体的には以下の表のとおりです。

【(1)の一部を簡略化した計算方法】

在宅勤務手当の内容 簡略化した計算方法
電話料金 労働者ごとに、直近の過去複数月(※)の各料金の金額および暦日数・在宅勤務日数を用いて、業務のために使用した1ヵ月あたりの各料金の額を(1)の例により計算した金額
インターネット接続にかかる通信料
電気料金
※複数月については、たとえば3ヵ月程度とすることが考えられる。

 

この方法で計算を行うと、在宅勤務手当の金額を毎月改定する必要はなく、一定期間同一の金額を実費弁償として支払うことができます。この場合の「一定期間」について、通達によれば「最大1年程度」とし、一定期間経過後にあらためて同様の計算方法で金額を改定することが考えられるとしていますが、電気料金等は季節による変動も想定されることから、労働者が実際に負担した費用と乖離が生じないよう適切な時期に改定することが望ましいとされています。

(3) 実費の一部を補足するものとして支給する額の単価をあらかじめ定める方法

3つ目の方法は、在宅勤務手当を実費の一部を補足するものとして、1日あたりの単価をあらかじめ定める方法です。通達では、実費の一部を在宅勤務手当として支給することは、それが実費の額を上回らない限り、「実費弁償になると考えられる」ため、実費の額を上回らないよう1日あたりの単価をあらかじめ合理的・客観的に定めたうえで、当該単価に在宅勤務をした日数を乗じた額を在宅勤務手当として支払うことで実費弁償として扱うことが可能とされています。

具体的には、以下のような手順が考えられるとされています。

会社内の一定数の労働者について、(1)の例により1ヵ月あたりの金額を算出する
①により得られた額を労働者が1ヵ月間に在宅勤務をした日数で除し、1日あたりの単価を計算する
一定数の労働者についてそれぞれ得られた1日あたりの単価のうち、最も額が低いものを、会社における1日当たりの単価として定める

 

なお、①の「一定数」については、単価を合理的・客観的に定めたと説明できる程度の人数を確保することが望ましいとされています。

4.おわりに

在宅勤務手当を実費弁償として取り扱う場合、今回明確になった計算方法等を用いて手当額を計算する必要があります。

なお、「在宅勤務手当」として支払われていても、今回の通達に照らして実費弁償に該当しないと判断されるものについては、割増賃金の算定基礎となる賃金への算入が必要となるので注意を要します。

以上

 


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