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人事労務コラム Column

2018.02.01

特集

在宅勤務制度(テレワーク)導入の留意点

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

2019年4月より「働き方改革関連法」が順次施行されていますが、今回は、企業に働き方改革への取組みが求められる中で注目を集める在宅勤務の導入の留意点について見ていきたいと思います。

1.在宅勤務とは

在宅勤務とは、ICT(情報通信技術)を活用した場所にとらわれない働き方である「テレワーク」の一つで、労働者が、労働時間の全部または一部について、自宅で情報通信機器(PC等)を用いて行う勤務形態のことです。時間や空間の制約にとらわれることなく働くことができるため、子育て、家族の介護、病気やけがの療養など様々な事情を抱える人でも、それぞれが持っている能力を有効に発揮することが可能な就労形態といえます。

テレワークには、自宅において業務に従事する「在宅勤務」のほか、所属部署があるメインのオフィスではなく郊外の住宅地に近接した地域にある小規模なオフィスなどで業務に従事する「サテライトオフィス勤務」、さらには外勤中にノートパソコンや携帯電話などを利用して、オフィスとの連絡や情報のやり取りをしつつ業務に従事する「モバイル勤務」などがありますが、今回は、自宅でのテレワーク、すなわち在宅勤務を導入する際の留意点について見ていきたいと思います。

2.在宅勤務制度導入上の留意点

ここでは、在宅勤務制度を導入するうえでの5つの留意点について見ていきたいと思います。

(1)制度設計

在宅勤務の下では柔軟な働き方が可能であり、仕事と生活の調和が図りやすく、多様な人材の確保や引き留めが可能となるほか、生産性の向上や、通勤時間の節約、オフィスコスト・交通費等の節約、従業員の意識改革、さらには、災害や感染症の大流行などが発生した際に自宅で働いてもらうことによって事業の継続が可能になるなど、「事業継続計画」いわゆるBCP対策としても非常に有効な施策といえます。

しかし、その一方で、勤務時間と日常生活の時間が混在しやすく、労働時間管理を通常の従業員と同様に行うことが難しく、業務の進捗管理や人事評価が難しい、また情報セキュリティの確保が難しいなどのデメリットもあるため、導入するにあたっては事前に想定される課題を整理し、導入目的を明らかにしたうえ基本方針を策定することが重要です。

また、対象者を育児や介護、病気の治療など特定の理由に限定するのか従業員全般にするのか、頻度を週1日や2日までとするのか、あるいは日数の上限を設けないのかなどについても検討しなければなりません。

(2)規程の整備

制度の内容について就業規則や在宅勤務規程などで明確にすることが必要となります。また、在宅勤務者用の労働時間制度を設ける場合には、労働時間に関する規定についても定めておかなければなりません。

(3)在宅勤務者の安全配慮および健康管理

使用者は、通常の従業員と同様に、在宅勤務者に対しても安全配慮義務を負っています。このため、在宅勤務者についても、労働時間を把握し、業務量を調整するなどして長時間労働とならないようにすることが求められます。また、健康管理の面では、定期健康診断やストレスチェックなども実施しなければなりません。

特に、在宅勤務のみで働くような場合、日常的に顔を合わせる機会がほとんどなく、メールなどのやり取りだけになりがちなため、業務の進捗確認や健康状態の把握を兼ねて、定期的に面談の場を設けてコミュニケーションを図ることが大切です。

(4)在宅勤務者の業務災害

在宅勤務者についても労災が適用されるため、業務が原因でけがをした場合、そのけがに業務遂行性と業務起因性が認められれば、業務災害として労災給付の対象となります。

在宅勤務は、就業場所が自宅というプライベートな空間であり、業務上の災害と私的行為による災害を明確に区分することは容易ではないため、万が一の災害に備えて、災害状況の把握や事実確認を確実に行うためのルールを取り決めておくことが重要です。

(5)労働時間管理

在宅勤務についても、原則として通常の労働時間の定めが適用されますが、所定の要件を満たす場合には、1ヵ月単位や1年単位の変形労働時間制、フレックスタイム制、裁量労働制などを活用することが可能です。

なお、労働時間の管理において、使用者は、労働者の始業・終業時刻を把握する義務があります。オフィス以外で仕事を行うテレワークの場合でも、この始業・終業時刻の把握は必要です。勤怠の把握方法としては、テレワーク開始時と終了時にメールや電話で上司や関係者に連絡を入れる方法、出退勤時間の記録をスマートフォンやパソコン等で行えるようなツールを導入する方法などがあります。しかし、自宅で業務を行う在宅勤務等の場合、家事の都合などで一時的に離席するような時間(中抜け時間)をどう取り扱うかが問題となります。これについては、「情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン」(以下「ガイドライン」という。)において、テレワークに際して生じやすい事象として、次の3つのケースを挙げています。

①いわゆる中抜け時間

②通勤や出張中の移動時間中のテレワーク

③勤務時間の一部でテレワークを行う際の移動時間について

①については自由利用が保障されていれば休憩時間として扱うことができます。また、中抜け時間の前後について、労働者のニーズに応じて始業、終業時刻の繰上げ・繰下げをすることや、中抜けの時間を時間単位年休として取り扱うことなども考えられます。②の時間については、使用者の指示または黙示の指揮命令下で行われるものは労働時間に該当します。③は使用者の指示なく労働者の都合により移動し、その間の自由利用が保障されているときは、その間休憩時間として取り扱うことができますが、使用者が具体的な業務のために至急の出社を求めるなど、労働者に対して就業場所間の移動を命じた上、その間の自由利用が保障されていない場合の時間は労働時間と考えられます。テレワーク導入にあたっては、上記のような時間の取扱いや申告方法などのルールをあらかじめ決めておく必要があります。

(5)労働時間の把握が難しい場合

一方、在宅勤務を含むテレワークは、就業場所がプライベートな自宅や外出先であり、会社の目が届かないことから労働時間の算定が難しいため、次の2つの要件を満たす場合には、事業場外みなし労働時間制を適用することも可能とされています。

①パソコンが使用者の指示で常時通信可能な状態におくこととされていないこと
②随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと

この場合、業務目標や期限などの基本的事項を指示したり、その変更を指示することは「具体的な指示」にはあたらないこととされています。

さらに、在宅勤務のもとで深夜労働や休日労働を行った場合にも、割増賃金を支払わなければならないことは言うまでもありませんが、従業員が深夜・休日労働を行う際に、事前許可・事後報告をしなければならない旨を就業規則等に定めている場合に、事前に申告がない、あるいは事前に申告があったものの会社の許可を得ておらず、かつ、事後報告がないような場合で、使用者から強制されたり義務づけられたりした事実がなく、深夜・休日に働かざるを得ないような状況になく、さらには深夜・休日労働が客観的に推測できず、使用者がそれを知らないなど一定の要件に該当する場合には、労働基準法上の労働時間に該当しないこととされています。

3.おわりに

以上、在宅勤務制度について見てきましたが、近年、人材不足が深刻になる中、子育てや介護などの事情を抱える人材に会社の一員として長く働いてもらうためには、多様な働き方を提供することが求められていると言えます。この機会に一度、在宅勤務による働き方について検討してみてはいかがでしょうか。

なお、中小企業向けに、厚生労働省や自治体で、テレワークの導入費用の一部を助成する事業もありますので、在宅勤務制度の導入を検討される場合には、助成金についても確認されるとよいでしょう。

ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

※本コラムは、「日経トップリーダー」経営者クラブ『トップの情報CD』(2018年2月号、日経BP発行)での出講内容を一部編集したものです。

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