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人事労務コラム Column

2025.11.01

法改正情報

【スキマバイト雇用の留意点!】スポットワークの労務管理について

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

近年、雇用を仲介する事業者が提供するアプリ(以下「雇用仲介アプリ」という。)を通して短時間・単発で就労を行う、いわゆる「スポットワーク」を利用する労働者が増えています。一方で、スポットワークの利用による賃金不払い等の相談が全国の都道府県労働局や労働基準監督署に寄せられるなど、労務上のトラブルも生じています。

これを受けて、厚生労働省から、スポットワークの留意事項をまとめた通達が2025年7月4日付で発出されました(令7.7.4基発0704第3号、職発0704第2号、雇均発0704第1号)。また、本通達に関しリーフレット『「スポットワーク」の労務管理』も公表されています。今回は、通達の内容を中心に、スポットワークを利用する場合の留意点について解説します。

 

1.スポットワークとは

今回の通達において、対象となる「スポットワーク」は、以下の(1)および(2)を満たすものとされています。

(1) 短時間・単発の就労を内容とする労働契約の下で働くこと
(2) 雇用仲介を行う事業者が提供するサービス(雇用仲介アプリ)を利用すること

 

2.労働契約の成立時期について

労働契約法6条において、「 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、 労働者及び使用者が合意することによって成立する」と定められています。

スポットワークの場合、雇用仲介アプリを用いて事業主が掲載した求人に労働者が応募し、採用面接等を経ることなく、短時間にその求人と応募がマッチングすることが一般的になっています。この点について通達では、「面接等を経ることなく先着順で就労が決定する求人では、別途特段の合意がなければ、事業主が掲載した求人に労働者が応募した時点で労使双方の合意があったものとして労働契約が成立するものと一般的には考えられる」との見解が示されています。このため、スポットワークでは、労働者が応募した時点から、書面での労働条件明示の交付など、労働基準法等に則した取扱いが必要となります。

 

3.休業手当について

労働基準法26条において、「使用者の責に帰すべき事由による休業」の場合、休業期間中に平均賃金の60%以上の休業手当を労働者に支払うことが義務づけられています。

通達では、スポットワークにおいても労働契約成立後に事業主の都合で丸1日の休業または仕事の早上がりをさせることになった場合には、同条の「使用者の責に帰すべき事由による休業」となることから、労働者に対し所定支払日までに休業手当を支払う必要があるとされています。

 

4.賃金および労働時間について

スポットワークの労働契約において、当初予定していなかった時間であっても、使用者の指揮命令下に置かれた時間と評価できる場合は、その時間に対しても賃金の支払いが必要となります。

通達では、労働者から予定していた労働時間と異なる実際の労働時間による修正の承認申請(残業の申請等)がなされた場合は、予定された労働時間に基づき勤務した賃金は遅滞なく支払うとともに、労働契約における予定の労働時間と異なる時間については、速やかに確認のうえ労働時間を確定させる必要があるとされています。

 

5.スポットワーク協会の対応について

スポットワークにおける労務管理については、前掲通達のほか、一般社団法人スポットワーク協会(以下「協会」という。)に対して通達が発出され、雇用仲介アプリを利用する使用者および労働者へのリーフレットの周知や、同アプリを利用する使用者に対して労働関係法令の遵守のための適切な支援を行うことについて、協力依頼がなされました。

これを受けて協会は、文書およびリーフレットで「スポットワークサービスにおける適切な労務管理へ向けた考え方」を公表しました。内容のポイントをまとめると、以下の図表のとおりです。

【図表 「スポットワークサービスにおける適切な労務管理へ向けた考え方」のポイント】

項目 内容
契約の成立時期 働き手が求人への応募を完了した時点で「解約権留保付労働契約」が成立する
契約成立後の解約 労働者:原則として理由を問わず解約可能
使用者:原則不可だが、解約可能事由(※)に該当する場合に解約可能(休業手当の支払い不要)

 ※「解約可能事由」とは、天災事変等の不可抗力が生じた場合、長期療養や逮捕・勾留等により就労日に出勤できないことが明らかな場合、または就労に必要な資格証明がない場合、募集条件で明示されている条件(勤務態度、経験、持ち物、身だしなみ等)を満たさないことを使用者が確認した場合 などをいう。
 

6.おわりに

スポットワークは短時間・単発の就労ではあるものの、上記で見たとおり、原則として通常の労働者と同様に労働関係法令が適用されます。スポットワークを利用する際は、今回の通達やリーフレットを把握のうえ、労務管理を適正に行うことが求められます。

以上


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