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人事労務コラム Column

2021.09.01

法改正情報

【2022年10月・2024年10月】短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の段階的拡大(前編)

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

2020年5月に「年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する法律(以下「改正年金法」という。)」が成立し、2022年10月より短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険(以下「被用者保険」という。)の適用が段階的に拡大されることとなりました。

これまで、中小企業について短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大措置が猶予されていましたが、今回の改正により企業規模に応じて2022年10月と2024年10月の二段階で適用範囲が拡大されます。そこで、本稿では、改正の短時間労働者に対する被用者保険の適用拡大のポイントについて見たうえで、適用拡大に伴って想定される実務について見ていきたいと思います。

次回コラム: 「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の段階的拡大(後編)」

 

1.現行制度における短時間労働者にかかる被用者保険の適用要件

1週間の所定労働時間および1ヵ月の所定労働日数が通常の労働者(正社員)と比較して4分の3以上の要件(以下、「4分の3基準」という。)を満たす短時間労働者については、通常の労働者と同様に被用者保険を適用することとされています。これに対して、4分の3基準を満たさない短時間労働者については、次のa)およびb)のいずれの要件も満たす場合に、被用者保険を適用することとされています。

a) 特定適用事業所(※)に雇用されていること
b) 次のいずれも満たしていること
①週の所定労働時間が20時間以上であること
②賃金の月額が8.8万円以上であること
③継続して1年以上使用される見込みがあること
④学生ではないこと
※ 「特定適用事業所」とは、短時間労働者を除く被用者保険の被保険者の数が常時500人を超える事業所をいう。

 

短時間労働者への被用者保険の適用拡大は、2016年10月より被用者保険の被保険者(短時間労働者を除く。)の数が常時500人を超える事業所に限定して適用が開始されています。この場合の被保険者のカウントにあたっては、法人であれば、事業主が同一である(同一の法人番号を有する)すべての適用事業所の被用者保険の被保険者(短時間労働者を除く。)の総数で判断することとされ、個人事業主であれば、個々の適用事業所単位で判断することとされています。

2.改正のポイント

現行制度における適用要件のうち、今回の改正年金法により来年10月から段階的に変更されるのは、特定適用事業所の該当要件である「事業所の規模」と、4分の3基準を満たさない短時間労働者にかかる要件の一つである「勤務期間」の2つです。では、それぞれについて見てみましょう。

 

(1)特定適用事業所の要件

特定適用事業所の適用要件である「事業所の規模」について、2022年10月および2024年10月の2回に分けて段階的に拡大されることとなります。

① 適用拡大の時期と内容

週所定労働時間が20時間以上30時間未満の短時間労働者に対する被用者保険の適用について、現行制度および今後の適用拡大の要件・時期は、図表1のとおりです。

【図表1 社会保険の適用拡大のイメージ】

② 被保険者のカウント方法

上記①の基準に達しているか否かは、適用が拡大される前から被用者保険が適用されている次のa)およびb)の合計人数(短時間労働者を除く被保険者の総数)により判断することとされています(4分の3基準を満たさない短時間労働者c)は含まない)。

a) 正社員およびフルタイム労働者の人数
b) 4分の3基準を満たした短時間労働者
c) b)以外の短時間労働者の人数

 

③ 留意点

特定適用事業所の適用に関し、次の2つの点について留意が必要です。

まず、被保険者(短時間労働者を除く。)の総数が基準に達した場合、その月からただちに特定適用事業所に該当するわけではなく、直近12ヵ月のうち6ヵ月で基準を満たすこととなった場合に適用対象となります。現行制度では、直近11ヵ月のうち5ヵ月基準を満たしたことが確認された時点で、対象の適用事業所に対して「特定適用事業所に該当する可能性がある旨のお知らせ」が年金機構から送付されることとなっています。

次に、被保険者(短時間労働者を除く。)の総数が基準を下回り、特定適用事業所に該当しない事業所についても、労使合意をしたうえで申出の手続きを行うことにより任意特定適用事業所になることができます。ただし、被保険者(短時間労働者を除く。)の総数が基準に達したことにより新たに特定適用事業所に該当することとなり、その後、基準を下回った場合、自動的に特定適用事業所でなくなるわけではありません。特定適用事業所を不該当とするためには、労使合意に基づいて特定適用事業所の不該当の届出を行う必要があります。

(2)短時間労働者等の適用要件

今回の改正により、短時間労働者の適用要件の緩和および2ヵ月を超えて使用されることが見込まれる労働者の被用者保険への早期加入措置が図られることとなりました。

① 適用拡大の時期と内容

現行法では、「勤務期間」について、「継続して1年以上使用されることが見込まれること」とする要件がありますが、2022年10月より、この要件が削除され、通常の労働者と同様(継続して2ヵ月を超えて使用されることが見込まれること)となります。

② 2ヵ月を超えて使用が見込まれる労働者の被用者保険の早期加入措置

現行の厚生年金保険法および健康保険法では、「2ヵ月以内の期間を定めて使用される者」(引き続き使用されるに至った場合を除く。)については適用除外とされていますが、2ヵ月以内の雇用契約であっても、これを反復継続している場合には、「引き続き使用されるに至った場合」として被用者保険の対象とされています。

この場合、当該最初の雇用契約期間は被用者保険の適用対象となっていないことから、雇用の実態に即した被用者保険の適切な適用を図ることを目的に見直しが図られ、今回の改正年金法により、2022年10月から「2ヵ月以内の期間を定めて使用され、当該定めた期間を超えて使用されることが見込まれない者」を適用除外にすることとされました。

③ 留意点

上記②により、雇用契約の期間が2ヵ月以内であっても、実態としてその雇用契約の期間を超えて使用される見込みがあると判断できる場合は、最初の雇用期間を含めて、当初より被用者保険が適用されることとなります。具体的には、次のいずれかに該当する場合、当初より被用者保険が適用されることとなりますので注意が必要です。

a) 就業規則、雇用契約書等において、その契約が「更新される旨」または「更新される場合がある旨」が明示されている場合
b) 同一の事業所において、同様の雇用契約に基づき雇用されている者が更新等により最初の雇用契約の期間を超えて雇用された実績がある場合

 

ただし、a)またはb)のいずれかに該当する場合であっても、労使双方により、当初の雇用契約の期間を超えて雇用しないことにつき合意しているときは、雇用契約の期間を超えることが見込まれないものとして取り扱うこととされています。

ここまで見てきた短時間労働者に対する適用要件の拡大についてまとめると、図表2のようになります。

【図表2 短時間労働者の被用者保険の適用要件と改正時期】

3.おわりに

今回は、適用事業所に雇用される短時間労働者の健康保険・厚生年金保険の適用拡大の時期や概要、現行制度との比較について見てきました。今後、特定適用事業所に該当することとなった場合、短時間労働者が被用者保険の適用要件を満たしているか否かを慎重に確認をすることが求められますので留意が必要です。

次回は、適用拡大が行われることに伴って想定される実務ついて見ていきたいと思います。

以上

次回コラム: 「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の段階的拡大(後編)」

 

ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

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