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人事労務コラム Column

2021.09.15

法改正情報

【2022年10月・2024年10月】短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の段階的拡大(後編)

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

前回は、短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険(以下「健保・厚年」という。)の段階的な適用拡大について、現行制度との変更点等を見てきましたが、今回は、それに伴って想定される実務上の留意点等について見ていきたいと思います。

前回コラム: 「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の段階的拡大(前編)」

 

1.短時間労働者の実態の確認

健保・厚年が適用拡大されることによって、事業所に影響が出ることはもちろんですが、新たに適用される短時間労働者にとっても保険料の支払いが必要になるなど、その影響は小さくありません。このため、2022年10月以降、新たに特定適用事業所に該当する可能性のある事業所は、後述する対象者への説明の必要性などを踏まえ、新たに健保・厚年の適用要件を満たす短時間労働者がいるかどうかなどの実態について、事前に確認しておく必要があります。

とくに、短時間労働者の健保・厚年の適用要件の一つである「週の所定労働時間が20時間以上」であるか否かについては、不定期な勤務実態があることにより判断が難しいケースもあります。そこで、このような場合にどのように取り扱えばよいのかについて見ていくことにしましょう。

(1)週の所定労働時間の確認

まずは、就業規則や雇用契約書等に記載されている週の所定労働時間を確認します。この場合の週の所定労働時間とは、「就業規則や雇用契約書等により、その者が通常の週に勤務すべきこととされている時間」をいいます。

(2)雇用契約書等の定めに反して実労働時間が20時間以上となっている場合の取扱い

週の所定労働時間が20時間未満である者が、業務の都合等により恒常的に実際の労働時間が20時間以上となった場合、連続する2ヵ月間において20時間以上となった場合であって、引き続き同様の状態が続いており、または続くことが見込まれる場合は、実際の労働時間が週20時間以上となった月の3ヵ月目の初日に被保険者資格を取得することとされています(厚生労働省「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大Q&A集」)。

(3)週単位で所定労働時間が定められていない場合の取扱い

週単位で所定労働時間が定められていない場合、次のいずれかの方法により算定することとされています(前出「Q&A集」)。

①週の所定労働時間が短期的かつ周期的に変動し、通常の週の所定労働時間が一通りでない場合、それらの平均(加重平均)により算定された時間

②所定労働時間が1ヵ月の単位で定められている場合、当該時間を12分の52で除して得た時間

③夏季休暇等のため、特定の月の所定労働時間が例外的に長くまたは短く定められている場合、当該特定の月以外の通常の月の所定労働時間を12分の52で除して得た時間

④所定労働時間が1年間の単位でしか定められていない場合、当該時間を52で除して得た時間

2.対象者への事前説明

ここでは、対象者との後々のトラブルを防ぐために、事前に説明しておくべき事項について見ていきたいと思います。

まず、短時間労働者にとって、健保・厚年が適用されることにより、将来の老齢年金額が増えたり、障害厚生年金や健康保険の傷病手当金、出産手当金などを受給することができるようになるなどのメリットがあります。

一方、被保険者となることにより保険料の負担が発生するため、手取り収入額が減少するとともに、配偶者の被扶養者として認定されている場合、扶養から外れることとなります。また、配偶者の勤務先によっては、健保の被扶養者がいることを要件として家族手当や扶養手当などが支給されているケースがあり、それらが支給停止となるケースもありますので、留意が必要です。

このほか、短時間労働者の中には、配偶者の扶養の範囲内で働くことを希望する場合がありますので、適用拡大に伴って、労働日数や時間などの条件の見直しを図る必要が出てくることも考えられます。

このように、対象者への影響が小さくないことから、事前に、法改正の内容について社内周知を行ったり、全体説明や個別説明の機会を設けるなど、必要に応じた対応が求められます。

3.短時間労働者にかかる各種手続きにおける留意点

次に、短時間労働者が健保・厚年の被保険者となった場合の手続きについて見ていきます。基本的には、通常の労働者と同様に行うこととなりますが、次の点で通常の労働者と取扱いが異なりますので、留意が必要です。

(1)資格取得、区分変更時の取扱い

短時間労働者の被保険者にかかる資格取得を届け出る場合、届出様式の備考欄の該当項目(短時間労働者の取得)を丸で囲んだ上で提出します。また、被保険者の資格取得後、労働条件の変更等により、通常の労働者から短時間労働者に区分が変更されることとなった場合、または短時間労働者から通常の労働者に区分が変更されることとなった場合、被保険者の区分変更を届け出る必要があります。

(2)標準報酬月額の定時決定・随時改定等の取扱い

標準報酬月額の定時決定(算定基礎届)、随時改定(月額変更届)および産前産後休業・育児休業等終了時改定について、通常は対象月の支払基礎日数が「17日」以上ある月を算定対象としますが、短時間労働者の場合の支払基礎日数は「11日」を基準とします。

4.おわりに

今回は、適用拡大に伴う実務上の留意点等について見てきました。本稿で一部取りあげましたが、適用拡大に対応するためには、厚生労働省が出しているQ&A集などを参考にしながら、制度の詳細を理解し、手続きを正しく行うことが重要です。また、適用対象となる従業員に対して説明する機会を設けるなど、特定適用事業所に該当する前から準備を進めることが肝要です。

※参考:厚生労働省HP「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大Q&A集」

厚生労働省ホームページはこちらhttps://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/jigyosho/tanjikan.files/04.pdf

以上

 

ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

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