2024.01.01
法改正情報
わかりやすく解説!年収の壁とは~106万円・130万円の壁について~(前編)
2023年9月27日、政府より「年収の壁への当面の対応策」が発表されました。政府は、人手不足への対応が急務となる中、労働力の確保を図るため、パートやアルバイトとして働く人(以下「パートタイム労働者」という。)が「年収の壁」を意識せずに働けるように、2023年10月より当面の対応として「年収の壁・支援強化パッケージ」を実施しています。
本コラムでは、「年収の壁」とその対応策である「年収の壁・支援強化パッケージ」について、2回にわたって解説します。
次回コラム: わかりやすく解説!年収の壁とは~年収の壁・支援強化パッケージについて~(後編)
1.年収の壁とはなにか
年収の壁には、「社会保険」「税金」「配偶者手当」に関する壁があるといわれています。具体的には、パートタイム労働者が一定の収入を超えると、社会保険への加入に伴う保険料負担が発生したり、所得税法上の配偶者控除等の対象から外れたり、配偶者が勤務する会社から支給されていた配偶者手当が支給停止されるなどによって手取り収入が減ることとなります。このため、年末に近くなると、配偶者の扶養から外れないように、働く日や時間を少なくする就業調整(働き控え)をする人は少なくありません。これがいわゆる「年収の壁」と呼ばれるものです。
今回、政府から発表されたのは、このうちの社会保険にかかる年収の壁への対応策であり、具体的には次の2つです。
① 106万円の壁
「106万円の壁」とは、社会保険(健康保険および厚生年金保険)の適用にかかる収入要件です。従業員数100人(注)超の会社において、週の所定労働時間が20時間以上かつ月収が8.8万円(年収約106万円)以上となる場合、社会保険が適用され、保険料の負担により手取り収入が減少することとなります。
(注)従業員数は厚生年金保険の被保険者数でカウントされます。また、2024年10月以降は会社の規模「50人」以上に範囲が拡大されます。なお、会社の規模が100人以下であっても労使合意に基づき任意特定適用事業所としている場合は、社会保険の加入が必要となります。
② 130万円の壁
「130 万円の壁」とは、配偶者が加入する健康保険等の被用者保険の被扶養者の収入要件です。年収が130万円を超える場合、この被扶養者の要件から外れ、自ら国民健康保険や健康保険等の医療保険に加入するとともに、国民年金の第1号被保険者となります。このため、それまで負担していなかった保険料負担が発生し手取り収入が減少することになります。
2.年収の壁による影響
上記で見たように、年収の壁を超えてしまうと社会保険の加入等により手取り収入の減少につながります。減少した手取り収入を回復させるためには、一定程度まで収入総額を増やす必要があります。また、壁を超えた際の影響は被扶養者本人にとどまらず、配偶者の税金・配偶者手当にも影響します。
【図表1 収入と年収の壁の関係】
3.「年収の壁・支援強化パッケージ」創設の背景
厚生労働省の調査(令和3年パートタイム・有期雇用労働者総合実態調査)によれば、配偶者がいる女性のパートタイム労働者のうち、約2割が就業調整をしていると回答しており、その理由として「一定額(130万円)を超えると配偶者の健康保険、厚生年金保険の被扶養者からはずれ、自分で加入しなければならなくなるから」と回答した割合が57.3%、「一定の労働時間を超えると雇用保険、健康保険、厚生年金保険の保険料を払わなければならないから」と回答した割合が21.4%となっています。
近年、政府は賃金引上げの取組みに注力していますが、「年収の壁」により、パートタイム労働者の時給が上がるほど働ける時間が短くなってしまうため、調査に見るように、就業調整の結果、多くのパートタイム労働者を雇う企業では人手不足がより深刻な問題となっていました。
そこで、政府は「こども未来戦略方針(2023年6月13日閣議決定)」において、いわゆる106 万円・130 万円の壁を意識せずに働くことが可能となるよう、短時間労働者への被用者保険の適用拡大、最低賃金の引上げに引き続き取り組むとともに、人手不足への対応が急務となる中で、壁を意識せずに働く時間を延ばすことのできる環境づくりを後押しするため、当面の対応として、支援強化パッケージを決定・実行し、さらに、制度の見直しに取り組むこととして、年収の壁への当面の対応策を発表しました。
4.終わりに
今回は年収の壁の概要とその影響について見てきました。次回は、年収の壁への対応策「年収の壁・支援強化パッケージ」の具体的な内容について解説します。
以上
ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)