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人事労務コラム Column

2024.01.15

法改正情報

わかりやすく解説!年収の壁とは ~年収の壁・支援強化パッケージについて~(後編)

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

前回は、「年収の壁」とは何かについて見たうえで、年収の壁がもたらす影響について解説しました。今回は、年収の壁に対する対応策として政府が公表した「年収の壁・支援強化パッケージ」の概要について見ていきます。

前回コラム:  わかりやすく解説!年収の壁とは~106万円・130万円の壁について~

 

1.年収の壁・支援強化パッケージとは

「年収の壁・支援強化パッケージ」とは、パートタイム労働者が就業調整を行う、いわゆる「年収の壁」に対する政府の当面の対応策です。同パッケージには、パートタイム労働者への手当等に対する助成や健康保険の被扶養者認定の円滑化など、年収の壁を意識せずに働ける環境づくりを後押しするための施策が盛り込まれており、具体的には「106万円の壁※への対応」、「130万円の壁※への対応」、「配偶者手当への対応」の3つがあります。以下、それぞれの対応策について見ていきましょう。

106万円の壁、130万円の壁の詳細は「年収の壁と支援強化パッケージ」(上)参照
 

2.106万円の壁への対応 ~キャリアアップ助成金/社会保険適用時処遇改善コース~

パートタイム労働者の年収が「106万円の壁」を超えると、社会保険の適用に伴う保険料負担が発生し、手取り収入が減少します。この対応策として、パートタイム労働者の収入を減らさないための取組みを行った企業に対して、従業員1人当たり最大50万円を助成する「キャリアアップ助成金(社会保険適用時処遇改善コース)」が新設されました。助成の対象となる従業員は、2023年10月1日から2026年3月31日までの間に新たに社会保険が適用されることとなった者であり、すでに被用者保険を適用している従業員は対象外です。

本助成金には、①手当等支給メニュー、②労働時間延長メニュー、③併用メニューの3つのメニューが設けられています。

(1)手当等支給メニュー

手当等支給メニューは、短時間労働者の社会保険の適用にあわせて手当等を支給する取組みを行った場合に一定額の助成が行われます。

このメニューを利用する場合、取組みの1年目と2年目については、パートタイム労働者の賃金(標準報酬月額・標準賞与額。以下同じ。)の15%以上となる手当等を支給する必要がありますが、この手当等の支給にあたっては、社会保険料の算定基礎に含まれない「社会保険適用促進手当」として最大2年間まで支給することができます。つまり、社会保険適用促進手当を支給すれば、短時間労働者は手取り収入を維持したまま社会保険へ加入することができ、「106万円の壁」を意識せずに働くことが可能となります。ただし、3年目は、社会保険適用促進手当の措置が終了するため、基本給または恒常的な手当の額として賃金の18%以上を追加支給することが必要となります。

なお、助成金の支給申請は6ヵ月ごとに行いますが、2年目の2回目の申請の際は、3年目以降、賃金の18%以上増額する措置を講じていることが雇用契約書等により明確である必要があります。

助成額等の詳細は図表1のとおりです。

【図表1 手当等支給メニュー(賃上げによる基本給の増額・社会保険適用促進手当の支給)】

要件 申請時期 1人当たりの助成金
1年目 ①賃金(標準報酬月額・標準賞与額)の15%以上を追加支給
(社会保険適用促進手当の支給など)
取組みを6カ月継続後2カ月以内 6カ月ごとに10万円×2回
計20万円
(大企業は3/4の額)
2年目 ②賃金(標準報酬月額・標準賞与額)の15%以上を追加支給するとともに、3年目以降、③の取組みを行うこと(社会保険適用促進手当の支給など) 6カ月ごとに10万円×2回
計20万円
(大企業は3/4の額)
3年目 ③賃金(基本給)の18%以上を追加支給
※労働働時間延長との組み合わせも可
(社会保険適用促進手当の支給は不可)
6カ月で10万円
(大企業は3/4の額)
(注)3年目の取組みを前倒して2年目に実施する場合、2年目、3年目の金額(30万円)がまとめて支給される。

 

(2)労働時間延長メニュー(所定労働時間の延長を組み合わせる場合)

労働時間延長メニューは、短時間労働者の所定労働時間を延長し、社会保険を適用させる場合に一定の金額が助成されます。この場合、延長する時間が1時間以上4時間未満のときは、あわせて基本給についても増額する必要があります。なお、社会保険適用促進手当の支給を行ったとしても本助成金における「基本給の増額」とは認められません。

助成額等の詳細は、図表2のとおりです。

【図表2 労働時間延長メニュー】

週の所定労働時間の延長 賃金(基本給)の増額 申請時期 1人当たりの助成金
4時間以上 取組みを6カ月継続後2カ月以内 6カ月で30万円
(大企業は3/4の額)
3時間以上4時間未満 5%以上
2時間以上3時間未満 10%以上
1時間以上2時間未満 15%以上

 

(3)併用メニュー(賃上げや手当等の支給と労働時間の延長を組み合わせた場合)

併用メニューは、1年目に手当等支給メニューの取組み(賃金の15%以上を追加支給)を行い、2年目に労働時間延長メニューの取組みを行った場合に、一定の金額が助成されます。

助成額等の詳細は図表3のとおりです。

【図表3 併用メニュー】

要件 申請時期 1人当たりの助成金
1年目 賃金(標準報酬月額・標準賞与額)の15%以上を追加支給
(社会保険適用促進手当の支給など)
取組みを6カ月継続後2カ月以内 6カ月ごとに10万円×2回
計20万円
(大企業は3/4の額)
2年目 上記の取組みを行った上で、以下のいずれかの取組みを行うこと

週の所定労働時間の延長 週の所定労働時間の延長
4時間以上
3時間以上4時間未満 5%以上
2時間以上3時間未満 10%以上
1時間以上2時間未満 15%以上
6カ月で30万円
(大企業は3/4の額)

なお、本助成金を受けようとする場合、原則として取組みを開始する前にキャリアアップ計画書を管轄の労働局に提出することが必要です。

3.130万円の壁への対応 ~事業主の証明による被扶養者認定の円滑化~

パートタイム労働者の年収が「130万円の壁」を越えた場合、配偶者が加入する健康保険等の被用者保険の扶養から外れることとなり、勤務先の厚生年金・健康保険に加入するか、国民年金(第1号被保険者)・国民健康保険に加入することにより保険料の負担が生じます。この130万円の壁への対応策として、パートタイム労働者が繁忙期に労働時間を延長するなどして収入が一時的に130万円を超えることがあっても、勤務先の事業主がそのことを証明した場合には、引き続き配偶者の被扶養者として認定されることが可能となりました。ただし、あくまで「一時的な事情」として認定を行うことから、同一の者については原則として連続2回までが上限とされています。

4.配偶者手当への対応 ~企業の配偶者手当の見直しの促進~

収入要件のある配偶者手当に関しては、106万円・130万円の壁と同様に、手当の支給対象から外れることを避けるため、就業調整が行われる一因となっています。この対応策として、企業で配偶者手当の見直しが進むよう、分かりやすい資料の公表や各地域でセミナーを開催することとされています。これに関連して、すでにホームページ等で、①『配偶者手当を見直して若い人材の確保や能力開発に取り組みませんか?』や②『「配偶者手当」の在り方の検討に向けて』などのリーフレットが公表されています。

①の資料には配偶者手当の見直しについて「賃金制度・人事制度の見直し検討に着手」「従業員のニーズを踏まえた案の策定」「見直し案の決定」「決定後の新制度の丁寧な説明」の4つのステップがフローチャートで示されており、②の資料には見直しにあたっての留意点や見直しが実施・検討された事例等が掲載されています。配偶者手当の見直しを検討する場合、参考にするとよいでしょう。

5.最後に

今回見た年収の壁への対応策は、現行制度の見直しまでの時限的な措置であり、政府は引き続き抜本的な見直しによる環境づくりを目指すとしています。

本制度は、短時間労働者のキャリアアップを目指す企業にとって、年収の壁を意識することなく働ける環境を整えるための費用の助成等が受けられるものであるため、活用を検討するとよいでしょう。また、制度の適用にあたっては、パートタイム労働者に対して壁を越えても不利益なく働けることなどをよく説明することが求められます。

以上

 


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