2024.02.15
法改正情報
【2024年4月改正施行!】時間外労働の上限規制 ~自動車運転の業務への適用~
改正労働基準法により2019年から適用されている時間外労働の上限規制の経過措置が終了し、2024年4月から、適用猶予されていた業種・業務にも上限規制が適用されることとされています。
前回は、適用猶予事業・業務のうち「工作物の建設の事業」の時間外労働の上限規制について解説しました。今回は、「自動車運転の業務」における時間外労働の上限規制および同時期に改正される「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)」の主な改正内容について見ていきます。
▽前回コラム
【2024年4月改正施行!】時間外労働の上限規制 ~建設業への適用~
1.自動車運転の業務における時間外労働の上限規制について
自動車運転の業務は、これまで時間外労働の上限規制の適用が猶予されていましたが、猶予期間が終了し、2024年4月より三六協定の上限規制が適用されることとされています。
具体的には、三六協定の締結によって延長できる労働時間数が月45時間、年360時間まで、特別条項付き三六協定を締結した場合には年960時間までとされます。
ただし、時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満かつ2~6ヵ月平均80時間以内とする規制および特別条項付き三六協定を締結した場合における月45時間超の時間外労働の上限回数(年6ヵ月まで)の規制は適用されません(図表1参照)。
【図表1 自動車運転の業務における時間外労働の上限規制】
上限規制 | 2024年3月まで | 2024年4月以降 | |||
---|---|---|---|---|---|
三六協定の上限 | 原則 | 月45時間 | 適用されない | 適用される | |
年360時間 | |||||
特別条項 | 月100時間未満 (休日労働含む) |
適用されない | 月45時間超の時間外労働の上限回数(年6回まで)の規制は適用されない | ||
年720時間 | 年960時間 | ||||
実働の上限 | 月100時間未満 (休日労働含む) |
適用されない | |||
2~6ヵ月平均 80時間以内 (休日労働含む) |
2.三六協定の新様式について
時間外労働の上限規制の適用に伴い、自動車運転の業務にかかる三六協定の様式が変更となります。このため、2024年4月1日以降の日を起算日として三六協定を締結する場合には、新しい書式によって届出をする必要がある点に留意が必要です。
【図表2 三六協定の新様式について】
時期 | 2024年3月まで | 2024年4月以降 | ||
---|---|---|---|---|
様式 | 第9号の4 (適用猶予業務共通) |
一般条項を 締結する場合 |
第9号の3の4 | |
特別条項を 締結する場合 |
第9号の3の5 |
3.改善基準告示の概要と改正の背景について
自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)とは、長時間労働の実態が見られる自動車運転者の労働時間等の改善のための基準を定めることにより、労働条件の向上を図ることを目的として、トラック、バス、タクシー等の自動車運転者の拘束時間や休息期間等についての基準を定めたものです。ここでいう「拘束時間」とは、労働時間と休憩時間(仮眠時間を含む。)の合計時間、すなわち、始業時刻から終業時刻までの間、使用者に拘束されるすべての時間をいい、「休息期間」とは、勤務と次の勤務の間の時間で、睡眠時間を含む労働者の生活時間として、使用者の拘束を受けない期間をいいます。(図表3参照)。
運輸・郵便業においては、過労死等のうち脳・心臓疾患の労災支給決定件数が全業種で最も多い業種であるなど、依然として長時間・過重労働が課題となるなか、2024年4月から自動車運転の業務にも時間外労働の上限規制が適用されることとなったことから、自動車運転者の健康確保等の観点から改善基準告示の見直しも同時期に行われることとなりました。
【図表3 拘束時間と休息期間】
4.改善基準告示の改正のポイント
では、改善基準告示の改正内容のポイントについて見ていきます。今回の改正の内容は多岐にわたりますが、とくに重要な改正点として、トラック運転者、タクシー運転者、バス運転者のそれぞれについて、①拘束時間が引き下げられ、②休息期間が拡大されたことが挙げられます。拘束時間と休息期間の改正前後の時間数をまとめると図表4のとおりです。
【図表4 改善基準告示の主な改正のポイント】
改善基準告示 | 2024年3月まで | 2024年4月以降 | ||
---|---|---|---|---|
拘束時間
の上限 |
1年 | トラック運転手 | 3516時間 | 原則3,300時間
最大3,400時間※2 |
タクシー運転手※1 | なし | なし | ||
バス運転手 | 原則3380時間
最大3484時間※2 |
原則3,300時間
最大3,400時間※2 |
||
1ヵ月 | トラック運転手 | 原則293時間
最大320時間※2 |
原則284時間
最大310時間※2 |
|
タクシー運転手※1 | 299時間 | 288時間 | ||
バス運転手 | 原則281時間
最大309時間※2 |
原則281時間
最大294時間※2 |
||
1日 | トラック運転手 | 13時間(上限16時間、
15時間超は週2回まで) |
13時間(上限15時間、
14時間超は週2回までが目安) |
|
タクシー運転手※1 | 13時間(上限16時間) | 13時間(上限15時間、
14時間超は週3回までが目安) |
||
バス運転手 | 13時間(上限16時間、
15時間超は週2回まで) |
13時間(上限15時間、
14時間超は週3回までが目安) |
||
1日の休息期間 | 全運転者共通※1 | 継続8時間 | 継続11時間を基本とし、
9時間を下回らない |
※1 タクシーの隔日勤務者は、拘束時間および休息期間が異なります。
※2 労使協定を締結した場合の拘束時間の上限を表しています。
5.おわりに
今回見てきたように、2024年4月以降、自動車運転の業務は、時間外労働の上限規制が適用されるとともに、改善基準告示による拘束時間や休息期間の基準を遵守する必要があるため、まずは時間外労働の実態等を把握したうえで、早めに三六協定の準備や改善基準告示の改正対応を進めていくことが肝要です。次回は、医師の時間外労働の上限規制について見ていきます。
以上
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ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)