2024.10.01
法改正情報
【2024年12月施行!】確定拠出年金の拠出限度額の見直し(前編) ~ 確定拠出年金と確定給付企業年金の概要について ~
確定拠出年金法施行令の改正により、2024年12月から確定拠出年金の掛金拠出限度額が見直されます。私的年金制度である確定拠出年金は、確定給付企業年金とともに、これまでも加入要件を緩和する改正が行われ、その普及が図られてきました。
そこで、今回はまず確定拠出年金と確定給付企業年金の制度概要について解説を行い、次回、2024年12月より見直される確定拠出年金の拠出限度額にかかる改正のポイントについて見ていきたいと思います。
▽次回コラム
【2024年12月施行!】確定拠出年金の拠出限度額の見直し(後編) ~ iDeCoに関する影響など 改正のポイントについて ~
1.確定拠出年金の概要
確定拠出年金とは、高齢期における所得の確保にかかる自主的な努力の支援を目的として、確定拠出年金法に基づいて創設された年金制度です。本制度は、拠出された掛金が加入者ごとに区分され、掛金とその運用収益の合計額をもとに年金給付額が決定されるしくみで、掛金の運用は、提示された運用商品の中から加入者自身が自己の責任で選択して行うのが特徴です。本制度は、あらかじめ拠出額が決定している「拠出建て」に分類され、Defined Contributionの頭文字をとって「DC」と称されます。確定拠出年金には、以下に見るとおり、「企業型」と「個人型」の2つがあります。
(1)企業型
企業型(以下、「企業型DC」という。)は、厚生年金保険被保険者を対象として、労使が合意した規約に基づいて事業主が実施する制度です。掛金は原則として事業主が拠出しますが、拠出限度額の枠内で、かつ、事業主が拠出する掛金額を超えない範囲で加入者自身が拠出(マッチング拠出)することも可能とされています。
(2)個人型
個人型(個人型DC。以下、「iDeCo(個人型DC)」という。)は、国民年金基金連合会が個人型年金規約に基づいて実施するもので、国民年金被保険者(65歳未満の厚生年金被保険者を含む。)が個人単位で加入し、原則として加入者自身が掛金を拠出する制度です。
制度創設当初は、自営業者や学生などの国民年金第1号被保険者と企業年金制度のない会社に勤める国民年金第2号被保険者のみ加入対象とされていましたが、2017年1月に制度が拡大され、企業年金加入者、公務員等共済加入者ならびに国民年金第3号被保険者も加入できるようになりました。
なお、個人型には、企業年金を実施していない中小企業事業主がiDeCoに加入する従業員の掛金に上乗せして掛金を拠出する中小事業主掛金納付制度(iDeCoプラス)もあります。
2.確定給付企業年金の概要
「拠出建て」に分類される確定拠出年金に対して、確定給付企業年金は「給付建て」に分類され、Defined Benefitの頭文字をとって「DB」と称されます。給付建ては、加入期間に基づいてあらかじめ給付の算定方法が決まっており、適格退職年金や厚生年金基金制度を承継した制度として、確定給付企業年金法の制定により創設されました。確定給付企業年金の掛金は原則として事業主が拠出し、年金資産の運用は事業主または企業年金基金(以下「事業主等」という。)が行います。確定給付年金は、以下に見るとおり、「基金型」と「規約型」の2つに分類されます。
(1)基金型
別の法人格を有する企業年金基金が実施主体となり、年金資産の運用、給付を行う運営方式です。
(2)規約型
厚生年金保険の適用事業所である事業主が実施主体となり、労使が合意した規約に基づいて、企業と信託会社・生命保険会社等が契約を結び、年金資産の運用、給付を行う運営方式です。
3.確定拠出年金と確定給付企業年金の違い
ここまで確定拠出年金と確定給付年金の概要を見てきましたが、ここからは2つの制度の違いについて見ていきましょう。
確定拠出年金は、1.で見たとおり、拠出額をあらかじめ定めて運用を行う年金制度です。掛金は、企業型DCの場合には事業主が拠出し、iDeCo(個人型DC)の場合には加入者本人が拠出しますが、いずれも運用指図は加入者が行い、掛金と運用収益との合計額をもとに年金給付額が決定されるため、年金額は各加入者の運用実績によって変動します。このため、運用リスクは加入者自身が負うこととなります。
一方、確定給付企業年金は、2.で見たとおり、加入期間などに基づいてあらかじめ給付額の算定方法が確定している年金制度です。掛金拠出および運用は事業主等が行いますが、給付額の算定方法が確定しているため、運用状況の悪化などによって資産の積立不足が発生した場合には、事業主が掛金を追加拠出して不足額の埋め合わせを行わなければなりません。このため、運用状況に応じて定期的に掛金の見直しが必要となります。このように、確定給付企業年金では運用リスクは事業主等が負うこととなります。確定拠出年金と確定給付企業年金の制度を比較すると、図表のとおりです。
【図表 確定拠出年金と確定給付年金の比較】
確定拠出年金(DC) | 確定給付企業年金(DB) | ||
---|---|---|---|
企業型DC | 個人型DC (iDeCo) |
||
掛金 | 掛金は事業主が負担し、加入者も事業主掛金を超えない範囲で拠出可能 ※拠出限度額あり |
掛金は加入者が負担し、iDeCo+に加入した中小事業主も拠出可能 ※拠出限度額あり |
掛金は事業主が負担し、加入者も事業主掛金を超えない範囲で拠出可能 ※拠出限度額なし(ただし、加入者掛金の非課税枠は年間4万円まで) |
運用 | 加入者自身が自己の責任において運用指図を行う (運用リスクは加入者が負う) |
事業主等が運用を行う (運用リスクは事業主等が負う) |
|
給付 | 年金額は運用実績により変動する | 事業主等が将来の年金額を保証する | |
対象者 | 厚生年金保険被保険者 | 国民年金被保険者 | 厚生年金保険被保険者 |
4.おわりに
今回は、確定拠出年金および確定給付企業年金の制度概要を見てきました。本年12月施行予定の改正内容を理解するためには、個人型DC(iDeCo)を含め、各制度の全体像と概要について理解しておくことが肝要です。
次回は、確定拠出年金制度の改正内容のポイントについて見ていきます。
以上
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ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)