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2026.01.15

特集

【判例解説!】職種限定社員の配転に関する注目の裁判例 ~滋賀県社会福祉協議会事件(最高裁判決を踏まえた高裁のやり直し裁判)~

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

前回に引き続き、今回も注目の裁判例について解説していきます。今回とり上げるのは、職種限定合意がある労働者に対して行われた配転命令の違法性が争点となった「滋賀県社会福祉協議会事件」です。本事件は最高裁まで争われましたが、最高裁において配転命令を適法とした原判決を破棄して高裁で審理をし直すよう差し戻していたところ、2025年1月に差戻審の判決が下されました。以下、事件の概要と裁判の経過およびそれぞれの判断の内容について見ていきます。

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【判例解説】事業場外みなし労働時間制に関する注目の裁判例~協同組合グローブ事件(最高裁判決を踏まえた高裁のやり直し裁判)~

 

1.事件の概要

本事件は、福祉用具センターで技術職として雇用されていた労働者Xの業務が廃止されたことを受けて使用者であるY法人が行った配転命令(以下、「本件配転命令」という。)の違法性が争われた事案です。Xは、職種および業務内容の変更を伴う本件配転命令が労使間の職種限定合意に反するとして、Y法人に対して債務不履行または不法行為に基づく損害賠償を請求しました。

裁判で確定した事実関係の概要は以下のとおりです。

県立の社会福祉センターの一部である福祉用具センターでは、福祉用具について、その展示・普及、利用者からの相談に基づく改造・製作、技術開発等の業務を行うものとされていた。
福祉用具センターが開設されてから、2003年3月まではY法人とは別の財団法人が、同年4月以降はY法人が、指定管理者等として上記業務を行っていた。
Xは2001年3月、福祉用具センターにおける福祉用具の改造・製作、技術開発にかかる技術職として上記財団法人に雇用され、それ以降同職種で勤務していた。
福祉用具センターでは、2013年頃から改造・製作の依頼件数の減少が顕著であった。
Y法人はXに対し、本人の同意を得ることなく、2019年4月1日付で総務課施設管理担当への配置転換を命じた。

 

2.配転命令権について

裁判の判断を見る前に、本事件の争点となった「配転命令権」について見ていきます。

配転とは、従業員の配置の変更であって、職務内容または勤務場所が長期間にわたって変更されるものをいい、同一勤務地内の所属部署や職種等の変更である「配置転換」と、勤務地の変更を伴う「転勤」があります(菅野・山川「労働法」13版)。

本件配転命令の違法性の判断においては、まず使用者の配転命令権を否定する根拠として、労使間に職種限定合意が存在したかどうかが問題となりました。

また、過去の裁判例においては、職種限定合意の存在が認められても、当該職種を廃止せざるを得ないなどの場合には、労働者の個別同意がなくても配転命令が有効となる可能性も指摘されており、本件配転命令についてもその場合に該当するかどうかが注目されていました。

 

3.一審・二審の判断

一審は、XとY法人の間にはXの職種を技術者に限るとの書面による合意はなかったものの、以下の理由から黙示の職種限定合意があったと判断しました。

Xが技術系の資格を数多く有し、中でも溶接ができることを見込まれて勧誘を受け、機械技術者の募集に応じて採用されていた。
福祉用具の改造・製作、技術開発を行う技術者としての勤務を18年間にわたって続けていた。
Y法人が福祉用具の改造・製作業務を外部委託化することは想定されておらず、かつ、Xは18年の間、溶接のできる唯一の技術者であった。

 

そのうえで、以下の点を踏まえれば、本件配転命令をもって使用者の権利濫用ということはできず、本件配転命令は適法であると判断しました。

既存の福祉用具を改造する需要が年間数件までに激減していることからすれば、その程度の改造需要のために月収35万円のXを専属として配置することには経営上の合理性はないとY法人が判断するのはやむを得ない。
Y法人は本件配転命令の頃には福祉用具の改造・製作をやめることに決めていたものと認めるのが相当である。
本件配転命令当時、福祉用具センターにおいては総務課が欠員状態となっており、総務担当者を補填する必要があった。
福祉用具の改造・製作をやめたことに伴うXの解雇という事態を回避するために、Xを総務課の施設管理担当に配転することには、業務上の必要性がある。
総務課の施設管理担当の業務内容は、特別な技能や経験を必要とするものではなく、Xの負荷も大きくないということができる。
本件配転命令には、Y法人による不当な動機や目的があると認めるに足りる証拠はない。

 

そして続く二審も、本件配転命令は「解雇もあり得る状況のもと、これを回避するためにされたものであるといえる」などとし、配転命令を適法とした一審の結論を支持しました。

 

4.最高裁の判断

最高裁職種限定合意が存在したことを事実として取り扱いましたが、その結論は一審・二審とは異なるものでした。最高裁は、労使間に職種限定合意がある場合には、労働者の個別的同意なく配置転換を命ずる権限は使用者にないという原則的な見解を示したうえで、二審はその前提を誤って本件配転命令を適法と判断したものであると指摘しました。そのうえで、二審の判断には明らかな法令違反があるとして二審の判決を破棄し、本件配転命令について不法行為を構成すると認めるに足りる事情の有無や、Y法人の雇用契約上の債務内容および不履行の有無等についてさらに審理を尽くさせるべく、高裁へ差し戻し、審理をやり直すよう命じました。

 

5.差戻審(大阪高裁)の判断

最高裁の判決を受けて、差戻審では、職種限定合意に反して行われた本件配転命令は違法と判断しました。また、Xは技術職を続けたい旨を面談で伝えるなど職種限定合意の存在をうかがわせる対応をしており、Y法人としては容易にその合意の存在を認識できたにもかかわらず、Y法人が本件配転命令を行ったことについて過失が認められるとし、本件配転命令は不法行為を構成するとの判決を下しました。そして、Y法人がXに対して事前に上記技術職を廃止する旨の説明をしたり、他の職種へ変更することの同意を得るための働きかけをするなど違法な配転命令を回避するために信義則上尽くすべき手続きもとっていないこと、これによりXが相当程度の精神的苦痛を受けたことその他一切の事情を総合考慮し、Y法人に慰謝料80万円の支払いを命じました。

 

6.おわりに

今回は、職種限定合意に反する配転命令の違法性について争った「滋賀県社会福祉協議会事件」について解説しました。本事件では、労使間に職種限定合意がある場合、使用者には労働者の同意なく配置転換を命ずる権限はないという最高裁の判断が示されました。この判断自体は新しいものではありませんが、これまで職種限定合意があっても雇用継続の目的であれば同意のない配転命令を有効とする裁判例も見られ、職種限定合意と雇用継続のための配転のいずれが優先されるのかが曖昧だったところ、最高裁が職種限定合意を重要視する判断を示したことが注目されました。

なお、職種限定合意のある労働者から配転の同意が得られない場合、最終的に解雇も一つの選択肢となり得ますが、この場合であっても、整理解雇の4要素に照らし、解雇回避努力が十分になされたか否かが問われるものと考えられます。

以上


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