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人事労務コラム Column

2021.08.23

特集

同一労働同一賃金を巡る最高裁判決①~旧労働契約法20条の解釈と判決における一般的な判断枠組み~

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

2020年10月、正規社員と非正規社員との間における労働条件の格差について、旧労働契約法20条を巡る5事件(大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件、日本郵便(東京、大阪、佐賀)事件)の最高裁判決が相次いで出されました。これらは同一労働同一賃金の実現を目的とする「パートタイム・有期雇用労働法」の企業対応に大きな影響を与えるものです。

今回は、各最高裁判決の概要について見ていく前に、争点となった旧労働契約法20条の解釈と判決における基本的な判断枠組みについて見ていきたいと思います。

1.旧労働契約法20条について

旧労働契約法20条とは、正規社員と非正規社員(短時間・有期・派遣労働者)との間の不合理な労働条件の相違を禁じた同一労働同一賃金の考え方の根拠となる法令です。

【旧労働契約法20条】
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

これによると、その相違は、

①職務の内容(労働者の業務の内容および当該業務に伴う責任の程度)
②当該職務の内容および配置の変更の範囲
③その他の事情

を考慮して、有期契約労働者にとって不合理と認められるものであってはならないと示されています。すなわち、有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件の相違があればただちに不合理とされるものではなく、上記①~③の要素を考慮して「期間の定めがあること」を理由とする不合理な労働条件の相違を禁止するもので、2020年10月に下された最高裁判決では、これらの要素を踏まえて合理性の判断がなされています。

なお、旧労働契約法20条は2020年4月1日(中小企業は2021年4月1日)より、パート・有期雇用労働法8条に移行されているため、本稿では、「旧」労働契約法と表記しています。

2. 所定の3要素の詳細について

前述のとおり、旧労働契約法20条の裁判においては、上記①~③の要素(所定の3要素)を考慮して合理性の判断がなされることとなります。

この所定の3要素の詳細は以下のとおりです。

(1)職務の内容とは

職務の内容とは、業務の内容および当該業務に伴う責任の程度をいい、下記の3点について比較します。

【判断基準】
①職種が同じかどうか
介護事務員、デパート店員など、「厚生労働省編職業分類」の細分類を目安とする
②従事する中核的業務が同じかどうか
中核的業務か否かについては、その労働者に与えられた職務に不可欠な業務か、業務の成果が事業所の業績や評価に対して大きな影響を与える業務か、その労働者の職務全体に占める時間的割合・頻度が大きい業務か、などを総合的に判断する
③責任の程度が同じかどうか
与えられている権限の範囲や業務の成果について求めれられる役割、トラブル発生時や臨時・緊急時に求められる対応の程度などの事項について比較する

(2)職務の内容・配置の変更の範囲とは

職務の内容・配置の変更の範囲とは、人材活用の仕組みや運用などをいい、下記の基準によって判断することとされています。

【判断基準】
①転勤があるかどうか
実際に転勤したかどうかだけではなく、将来にわたって転勤の見込みがあるかどうかについても、就業規則や慣行をもとに判断する
②転勤がある場合に転勤の範囲が同じかどうか
どちらかのみに全国転勤がある、転勤のエリアが異なっているなどの違いがないかを判断する
③職務の内容・配置の変更があるかどうか
人事異動による配置換えや昇進に伴う異動に違いがあるかについて、実績だけではなく将来にわたる見込みを含めて判断する

(3)その他の事情とは

その他の事情は、上記の「職務の内容」および「職務の内容・配置の変更の範囲」に関連する事情に限定されず、職務の成果、能力、経験、合理的な労使の慣行、事業主と労働組合との間の交渉の経緯といった、様々な諸事情が想定されています。また、当該労働者が定年に達した後に継続雇用された者であることについても、その他の事情として考慮される事情にあたりうるとされています。

3. 最高裁判決の一般的な判断枠組み

2020年10月の最高裁判決では、賞与、退職金から諸手当・休暇等まで様々な労働条件について争われましたが、これらの判断にあたっては、前述の所定の3要素のすべてを考慮して判断された場合(賞与、退職金)と、所定の3要素のうち当該労働条件の趣旨・性質に関連した要素のみを考慮した場合(諸手当・休暇等)があります。

なお、各最高裁判決の詳細については、それぞれ以下のコラムをご参考にしてください。

関連コラム: 同一労働同一賃金を巡る最高裁判決②~大阪医科薬科大学事件~

 

関連コラム: 同一労働同一賃金を巡る最高裁判決③~メトロコマース事件~

 

関連コラム: 同一労働同一賃金を巡る最高裁判決④~日本郵便(東京・大阪・佐賀)事件~

 


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