2017.04.01
特集
時間単位年休の有効活用とその留意点
今回は、「時間単位年休」の有効活用とその留意点について見ていきたいと思います。
ここ数年、人材不足の影響から募集をかけてもなかなか人が集まらないという話をよく耳にしますが、今後、労働力人口の減少に伴って、新規学卒者をはじめ、人材の確保はますます厳しさを増していくことが見込まれています。また、育児や介護、疾病などと仕事の両立が求められる労働者が増加する中で、優秀な人材を確保し戦力化していくためには、社員の多様性を認めながら活躍できる職場を提供していくことが求められています。
こうした中で、従業員をいかに確保し定着させるかは、企業にとって非常に重要な問題であり、働きやすい職場環境を整えていくことは、今や大企業だけでなく中小企業経営者にとっても避けることのできない課題となっているのです。
働きやすい職場環境づくりの取組みとして、長時間労働の是正やフレックスタイム制・時差出勤などの労働時間制度の整備、休暇の取得促進など、さまざまな施策が考えられますが、「時間単位年休」は、その有効な取組みの一つです。
目次
1.時間単位年休の趣旨
年次有給休暇は、一定期間勤続した労働者に対して、心身の疲労を回復し、ゆとりある生活を保障するために付与される休暇で、従来まで原則として1日単位で付与することとされていましたが、2000年以降、年休取得率は50%を割るなどその取得促進が課題となっており、また、時間単位で取得したいという要望も踏まえ、労働基準法の改正により、2010年4月から時間単位年休の付与が認められることとなりました。
時間単位年休は、使用者と労働者で労使協定を締結した場合に、時間を単位として年休を与えることができるものですが、労働基準法では、まとまった日数の休暇を与えるという年休本来の趣旨を考慮して、時間単位年休の付与について最大で年5日までとされています。
2.時間単位年休に係る労使協定で定めるべき事項
時間単位年休を付与するためには、労使協定の締結が必要となりますが、この労使協定は労働基準監督署へ届け出る必要はありません。
では、労使協定で定めるべき4つの事項について見ていきたいと思います。
(1)対象労働者の範囲
まず一つ目は「対象労働者の範囲」ですが、事業運営上、時間単位年休になじまない労働者、たとえば工場の生産ラインなどのように一斉に作業を行うことが必要とされる業務に従事する労働者については、対象から除外することが認められています。
一方、年休は取得目的を理由として制限することはできません。したがって、時間単位年休の対象を育児や介護を行う者に限定することは、この取得目的を理由とする制限に該当する可能性がありますので、避けるべきものと解されます。
(2)時間単位年休の日数を定める
2つ目は「時間単位年休の付与日数」ですが、法律では5日以内に限るとされていますので、5日以内であれば2日でも3日でも構いません。
なお、前年度の繰越し分に1日未満の端数が生じた場合、翌年度に時間単位年休として付与することができる日数は、繰越し分を含めて5日が限度となりますので留意が必要です。
(3)時間単位年休の1日の時間数
3つ目は「時間単位年休の1日の時間数」ですが、1日分の年休は、所定労働時間をもとに時間単位に置き換えて計算します。この場合、所定労働時間が7時間30分などのように1時間未満の端数がある事業場では、その端数時間を1時間単位に切り上げて8時間として計算しなければなりません。
また、時間単位年休5日の時間数の考え方についても、1日の所定労働時間が7時間30分の事業場では、まず7時間30分を1時間単位に切り上げて1日8時間と置き換えてから計算した40時間が時間単位年休の付与時間数となります。
(4)1時間以外の時間を単位とする場合の時間数
4つ目は「1時間以外の時間を単位とする場合の時間数」ですが、時間単位年休はあらかじめ労使協定に定めておけば、2時間や3時間といったように1時間以外の時間を単位として与えることも可能です。
3.時間単位年休に関する留意事項
では次に、時間単位年休の付与に関する留意事項について見ていきたいと思います。
(1)時間単位年休と時季変更権
使用者には、事業の正常な運営を保持するために必要があるときは、労働者が請求した時季を変更させる権利、いわゆる時季変更権がありますが、時間単位年休についても、使用者の時季変更権の対象となります。したがって、時間単位年休の取得の請求が行われた場合に、これを他の時間帯に変更させることができますが、変更後の時間帯を指定したり、別の日を指定することはできません。この場合、労働者は、新たに他の時間帯や別の日に、時間単位年休を取得するための指定をすることとなります。また、労働者が時間単位での取得を請求したにもかかわらず日単位に変更したり、日単位での取得を請求した場合に時間単位に変更することは、時季変更にあたらず認められませんので、留意が必要です。
さらに、時季変更権行使にあたっての事業の正常な運営を妨げるか否かの判断は、個別具体的、客観的に行われるべきものとされており、たとえば、あらかじめ労使協定で始業時刻から1時間は時間単位年休を取得できないと定めたり、所定労働時間の途中に時間単位年休を取得することを制限すること、さらには、1日において取得することができる時間数を制限することなどは認められません。
なお、遅刻した従業員が事後に時間単位年休を請求してきた場合に、これを認めてしまうと職場規律が乱れてしまうことが懸念されますが、このような場合には、やむを得ない事情がない限り時間単位年休について事後申請を認めないなどの取り決めをしておくこととよいでしょう。
(2)労使協定の定めにより5日の範囲内
つぎに、時間単位年休を付与するにあたっては、先ほども見たように、労使協定の締結が必要であり、また最大でも時間単位年休の付与時間数は5日分までとされていますが、実際には労使協定を締結せずに時間単位年休を付与したり、5日を超える日数分の時間単位年休を付与するなどのケースも見られるところです。この点について、厚生労働省から示されているQ&Aでは、法律上の年休を取得したものとして扱われず、法定の年休日数の残数は変わらないとされていますので、留意が必要です。
なお、半日単位年休については、本来の取得方法による休暇取得の阻害とならない範囲で適切に運用される限り、問題ないこととされています。
ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原 伸吾(特定社会保険労務士)
※本コラムは、「日経トップリーダー」経営者クラブ『トップの情報CD』(2017年4月号、日経BP発行)での出講内容を一部編集したものです。