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人事労務コラム Column

2018.08.01

特集

労働者派遣“2018年問題”への対応実務

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

2015年9月30日に労働者派遣法が改正されてから間もなく3年が経ちますが、この改正により、従来まで派遣期間の制限がなかった専門業務を含め、すべての業務の派遣期間の上限が3年までに制限されることとなりました。このため、2015年9月30日以降に締結または更新された派遣契約について、早ければ2018年の9月30日以降、原則として同じ部署で派遣を受け入れ続けることができなくなります。この問題は、一般に労働者派遣の“2018年問題”などと言われます。

1.派遣期間の制限

2015年9月30日の改正派遣法が施行される前までは、研究開発やソフトウェア開発、通訳、秘書などの専門性の高い業務、いわゆる専門26業務への労働者派遣には派遣期間の制限がなく、それ以外の営業や製造などの一般業務については、派遣期間の上限が原則1年、延長した場合でも3年までとされていました。

しかし、2015年の法改正では、業務の区別による派遣期間の違いをなくし、派遣先の事業所単位の期間制限と、派遣労働者個人単位の期間制限の2つの期間制限が設けられました。では、この2つの期間制限についてもう少し詳しく見てみましょう。

(1)事業所単位の期間制限

まず、事業所単位の期間制限についてですが、同一の派遣先事業所における派遣受入期間の上限は、業務内容にかかわらず原則として3年までとされています。ただし、1ヵ月前までに、過半数労働組合または過半数代表者から意見聴取をすれば、さらに3年間延長することができ、その後も3年ごとに意見聴取を行えば、同一事業所の同一業務に派遣労働者を受け入れることができます。

(2)個人単位の期間制限

次に、個人単位の期間制限についてですが、同じ派遣労働者を派遣先事業所の同一の組織単位で受け入れることができる期間は、原則として3年が上限とされており、同一事業所の同一の部署に同じ派遣労働者を3年を超えて受け入れることはできません。ただし、同じ派遣労働者でも別の組織単位の業務であれば、引き続き派遣労働者として受け入れることが可能です。

この場合の「組織単位」について、課やグループなどの業務としての類似性や関連性がある組織とされていますが、小規模事業所で課やグループなどの明確な組織が存在しない場合であっても、事業所の長の下に複数の担当がおり、その担当それぞれが課やグループに準じた組織機能を有している場合には、その担当ごとに別の組織単位として認められる場合もあります。

なお、派遣元事業主が無期雇用の派遣労働者を派遣する場合や60 歳以上の派遣労働者を派遣する場合など一定の場合には、派遣期間の制限がかかりません。また、派遣の受入期間のカウントにあっては、いわゆるクーリング期間が設けられており、直前に受け入れていた派遣との間の期間が3ヵ月を超える場合には、新たな派遣として扱われます。

2.違法派遣に対する労働契約申込みみなし制度

さて、2015年10月1日には、違法派遣に対する労働契約申込みみなし制度が施行されていますが、これまで見てきた事業所単位および個人単位の期間制限のいずれかに抵触した場合、このみなし制度の対象となりますので、注意が必要です。

(1)みなし申込みとは

この「労働契約申込みみなし制度」とは、派遣先が違法派遣を行った場合に、その意思にかかわらず派遣先事業主が派遣労働者に対して直接雇用する旨の労働契約の申込みを行ったものとみなされ、労働者が了承すれば労働契約が成立するという制度です。

違法派遣の具体的なものとしては、無許可の派遣会社からの派遣労働者の受入れや偽装請負などのほか、過半数代表者から意見聴取をせずに事業所単位の期間制限を超える派遣の受入れを行っていた場合や個人単位の期間制限を超えて同一の組織単位で同一の派遣労働者の受入れを行っていた場合なども該当することとされています。ただし、派遣先が善意無過失の場合には、この制度は適用されません。

なお、派遣先は違法派遣が行われた時点から1年間は、このみなし申込みを撤回することができません。

(2)みなし申込みによる労働契約が成立したときの措置

みなし申込みに対して、派遣労働者が承諾し、派遣先事業主との間で労働契約が成立したときは、申込みをしたとみなされた時点の派遣元における労働条件を引き継ぐことになります。この場合、派遣元は派遣先に対して派遣労働者の労働条件を速やかに通知することとされています。

(3)罰則

みなし申込みについて派遣労働者が了承したにもかかわらず、派遣先事業主がその派遣労働者を就労させない場合には、厚生労働大臣は、必要な助言、指導または勧告をすることができることとされており、それでも従わない場合には、企業名を公表できることとされています。

現在、派遣労働者を受け入れている企業においては、この派遣期間の制限を念頭に、今後の対応方針について検討しておくことが求められます。

ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

※本コラムは、「日経トップリーダー」経営者クラブ『トップの情報CD』(2018年8月号、日経BP発行)での出講内容を一部編集したものです。

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