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人事労務コラム Column

Q.社員が無断欠勤し、もう1ヵ月以上連絡が取れません。家族に聞いても行方が分からず、手の打ちようがありませんので、解雇しようと思っています。このような場合、法的に何か問題になることはあるのでしょうか。適切な方法があれば教えて下さい。

A.近年、社会が複雑になるにつれて、社員の所在が突然分からなくなる、いわゆる「蒸発」や「行方不明」が増えています。そこで、このような場合に、会社としてどのように対処したらよいかについて考えてみましょう。

 

(1)失踪宣告

一般に、本人の所在が分からなくなって一定期間が経過すると、利害関係人が家庭裁判所に申し出て、「失踪宣告」がなされることになります。これは、「不在者の生死が7年間明らかではない時は家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる」とした民法第30条第1項の定めに基づくものです。ここで、「不在者」とは、「従来の住所又は居所を去った者」(同法第25条第1項)のことをいいますが、この規定によってその生死が分からなくなって7年(ただし、海難事故などの場合には1年)経過したときは、利害関係人が家庭裁判所に請求することにより、「失踪宣告」をすることができるわけです。そして、「失踪宣告」がなされた場合、「失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時」に「死亡したものとみなす」(同法第31条)との定めに基づいて、「死亡」したものとみなされます。

したがって、労働者が行方不明になった場合で、7年間その生死が分からなかった場合には、利害関係人である会社もその時点で家庭裁判所に失踪宣告の請求をし、死亡による退職として取り扱うことができますが、7年もの間、当該労働者の籍を残しておくことは、現実的ではありません。

(2)解雇する方法

では、解雇することはできるのでしょうか。

労働基準法は、労働者を解雇する場合には、少なくとも30日前に解雇予告をするか、または30日分以上の解雇予告手当を支払うことを義務づけていますが、労働者の責めに帰すべき事由によって解雇する場合で、労働基準監督署長の解雇予告除外認定を受けたときは、即時解雇することができることとしています(同法第20条第1項)。そして、行政解釈では、解雇予告除外認定基準の一つとして、労働者が「原則として二週間以上正当な理由なく無断欠勤し、出勤の督促に応じない」ときを挙げ、これに該当したときは、「労働者の責に帰すべき事由」に当たる(昭23.11.11 基発1637号、昭31.3.11基発111号)ものとしています。

したがって、労働者の行方が分からず、2週間以上無断欠勤した場合には即時解雇をすることができるかに見えます。しかしながら、行方不明者については、出勤の督促ができませんので、除外認定を受けることができないだけでなく、簡単には解雇することもできません。なぜなら、解雇の意思表示が相手方に到達しなければ解雇の効力は生じないからです(民法第97条)。つまり、労働者の行方が分からず、出勤の督促もできないような場合には、解雇予告除外認定を受けることはもちろん、解雇予告をして解雇することもできないことになります。

このような場合、どうしても解雇したいのであれば、公示送達の方法をとるしかありません。

公示送達は、相手方の最後の住所地を管轄する簡易裁判所に申し立て、裁判所の掲示場に掲示し、かつ、掲示したことを官報および新聞紙に少なくとも1回掲載することによって行います。この場合、最後に官報もしくは新聞に掲載された日から2週間を経過したときに、相手方にその意思表示が到達したものとみなされ、解雇予告が成立します(民法第97条の2)。

(3)「黙示の意思表示」による依願退職とする方法

以上のように、行方不明者を公示送達の方法によって解雇するためには、時間と手間を要しますので、実際にはこうした手続きがとられることはあまりありません。

そこで、ご質問のように、無断欠勤が続き、会社に何も連絡がない場合には、会社への連絡を絶って姿を消したということが、本人の「黙示」の退職の意思表示とみなすこと、すなわち、本人の「黙示」の労働契約解約の申入れの意思表示とみることができないかという疑問が生じます。意思表示は一定の方式をそなえた明示の意思表示によらなければ効力を生じないというものではなく、「黙示」による意思表示も同一の効力を持つとされているからです。

この点について、行政解釈には、炭鉱で働いていた労働者の無断退山が「明らかに労働者の解約の申入れの意思表示であると認められるべき限り」、退山後2週間を経過した後、「籍を除」くこととしても差し支えないものとしたものがあります(昭23.3.31基発513号)。つまり、明確な退職の意思表示をせず行方不明になってしまったときに、退職の意思表示があったものとして、依願退職として処理することができるというわけです。

ただし、そのためには、無断欠勤に至った経緯やその後の状況などを客観的かつ総合的に判断したうえで、当該労働者から労働契約の解約申入れの「黙示」の意思表示があったものとみなされる場合に限られますので、家族や関係者からの情報をもとに、適切に判断しなければなりません。そして、その労働者の過去の勤務状況、行方不明となったときの状況、その後の連絡の有無、連絡がとれなくなってからの期間等、諸般の事情を考慮して、誰がみても、その労働者が自分から会社を辞めるつもりでいなくなったのだということが明らかであれば、依願退職として取り扱っても差し支えないものと思われます。

ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

※本コラムは、2001年に日本生産性本部(当時「社会経済生産性本部」)のウェブサイト『人事労務相談室』で掲載した内容を一部リライトしたものです。

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