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人事労務コラム Column

2021.10.04

人事労務Q&A

同一労働同一賃金への実務対応Q&A ~私傷病欠勤・病気休暇中の待遇の相違に関する不合理性の判断~

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

2020年10月に正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な労働条件の相違を禁じた旧労働契約法20条を巡る最高裁判決が下されましたが、私傷病欠勤・病気休暇中の待遇の相違に関する不合理性の判断にあたり、事件によって異なる判断が下されて注目されました。これらは、今後の同一労働同一賃金への企業の対応に大きな影響を与えるものと考えられます。

そこで今回は、病気休職中の待遇にかかる企業の実務対応について、Q&A形式で見ていきたいと思います。

Q.2020年10月に下された最高裁判決では、病気休職中の賃金の扱いに関する相違が不合理か否かについて、2つの事件で異なる判断が下されたと聞きました。
弊社では、病気休職中の賃金について、正社員には勤続年数に応じて給与を何割か補償することとしていますが、契約社員やパートタイマー、アルバイトには休職制度を設けておらず、欠勤する場合にも無給としています。この相違は、同一労働同一賃金の観点から問題ないでしょうか。

A.ご質問の最高裁の判決には、正社員と有期契約社員に関する私傷病欠勤中の賃金の扱いについて争われた大阪医科薬科大学事件と、病気休暇が有給か無給かについて争われた日本郵便(東京)事件の2つがありますが、その相違についてはそれぞれ結論が分かれています(前者は不合理とはいえないと判断、後者は不合理と判断)。これらは背景にあるさまざまな事情を考慮したうえで下された結果であり、今回の判決をもって正社員と有期契約社員との間の病気休職等にかかる労働条件の相違が問題ないとされたわけではありません。このため、病気休職中の労働条件について正社員と有期契約社員との間に相違を設ける場合には、その相違の合理性が説明できるよう、待遇差について整理しておくことが重要です。

では、最高裁判決による判断のポイントを見たうえで企業の実務対応について、詳しく見ていくことにしましょう。

1.大阪医科薬科大学事件の概要

まず、私傷病欠勤中の賃金の扱いについて争われた大阪医科薬科大学事件(2020.10.13最高裁第三小法廷判決)では、研究室の秘書として働いていたフルタイムのアルバイト職員(有期契約)と教室事務員である正職員(無期契約)との間の労働条件の相違が旧労働契約法20条に違反するとして争われ、2020年10月13日に判決が言い渡されました。

正職員とアルバイト職員の私傷病欠勤中の賃金にかかる労働条件の相違は以下のとおりです。

◆ 正職員が私傷病で欠勤した場合
正職員休職規程により、
・6ヵ月間は給与の全額が支給され、
・6ヵ月経過後は休職給として標準給与の2割が支給される。
◆ アルバイト職員が私傷病で欠勤した場合
・欠勤中の補償や休職制度は存在しない。

最高裁判決では、私傷病欠勤中の賃金補償は、正職員の長期にわたる継続就労を期待しその生活保障を図るとともに、その雇用を維持し確保することが目的であるものとされました。そして、正職員とアルバイト職員の間での職務の内容、職務の内容および配置の変更範囲に一定の相違が認められ、またアルバイト職員から正職員への試験による登用制度が設けられていたという特殊事情を考慮した上で、アルバイト職員は、契約が更新される場合はあるものの、長期雇用を前提とした勤務を予定しているものとはいい難く、雇用を維持し確保することを前提とした私傷病欠勤中の賃金補償を適用させることは妥当とはいえないとされました。また、欠勤期間を含む在籍期間も3年余りにとどまるなど、その勤続期間が相当の長期間に及んでいたとはいい難いことが考慮され、私傷病欠勤中の賃金補償についての相違があることは、不合理とまではいえないと判断されました。

2.日本郵便(東京)事件の概要

つぎに、病気休暇中の賃金の扱いについて争われた日本郵便(東京)事件(2020.10.15最高裁第三小法廷判決)では、郵便の集配などに携わる時給制契約社員ら14名が、正社員(無期契約)に支給されている手当および特別休暇等が契約社員に支給されないことが旧労働契約法20条に違反するとして争われ、2020年10月15日に最高裁判決が言い渡されました。

◆ 正社員の病気休暇中の労働条件
・勤続年数10年以上:180日間の有給の病気休暇
・勤続年数10年未満:少なくとも90日間の有給の病気休暇
◆ 時給制契約社員の病気休暇中の労働条件
・1年に10日間の範囲で無給の休暇

最高裁判決では、有給の病気休暇は、前述の大阪医科薬科大学事件と同様に、正社員の長期にわたる継続就労を期待しその生活保障を図るとともに、その雇用を維持し確保することが目的であるものとされ、このように継続的な勤務が見込まれる労働者に有給の病気休暇を与えることは、使用者の経営判断として尊重し得るとされました。ただし、この目的に照らせば、時給制契約社員についても相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、制度趣旨をあてはめることが妥当であるとされました。このため、正社員と契約社員の間での職務の内容、職務の内容および配置の変更範囲に一定の相違が認められたものの、時給制契約社員の雇用契約が相当長期間に及んでおり、相応に継続的な勤務が見込まれると判断されたため、休暇の日数につき相違を設けることはともかく、有給とするか無給とするかにつき労働条件の相違があることは不合理であるとされました。

3.病気休職等に関する不合理性の判断が分かれることとなったポイント

前述のとおり、大阪医科薬科大学事件と日本郵便(東京)事件では、いずれの判決においても、有給の病気休職の目的が「長期にわたる継続就労を期待しその生活保障を図るとともに、その雇用を維持し確保すること」にあるとしつつ、まったく逆の判断が下されることとなりましたが、その判断に至った経緯として、原告側労働者の契約期間について「相応に継続的な勤務が見込まれる」か否かという点が一つのポイントになると考えられます。

大阪医科薬科大学事件では、原告労働者の勤務継続期間について、欠勤期間を含んだとしても3年余りにとどまることから、勤続期間が相当の長期間に及んでいたとはいい難いとして、労働条件の相違が不合理ではないと判断されました。一方、日本郵便(東京)事件では、原告労働者は6ヵ月以内の期間を定めた雇用契約が反復更新され、相当長期間に及んでいることから、「相応に継続的な勤務が見込まれる」といえるため、労働条件の相違が不合理であると判断されました。

また、継続期間が相当長期間に及んでいるか否かの判断について明確な基準は示されてはいませんが、日本郵便(大阪)事件の大阪高裁判決では、有給の病気休暇について勤続期間が5年を超える契約社員については付与すべきと判断されており(最高裁が上告不受理としたため判決が確定)、判断基準の一つになるものと考えられます。

4.ガイドラインの考え方

正社員と有期契約社員との間に待遇の相違が存在する場合に、いかなる待遇差が不合理であり、いかなる待遇差が不合理でないかについて、原則となる考え方および具体例を示した同一労働同一賃金に関する指針(厚生労働省告示第430号、以下「ガイドライン」という。)では、病気休職について、短時間労働者(有期雇用労働者を除く。)には通常の労働者と同一の取得を認めなければならず、また、有期雇用労働者にも、労働契約終了までの期間を踏まえて取得を認めなければならないとされています。

5.企業における実務対応

上記1および2の裁判例から、ご質問の契約社員やパートタイマー、アルバイト等の病気休職について、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、日数に相違を設けることはともかく、賃金の扱いについては、正社員と同様にすべきと判断される可能性があるものと考えられます。ただし、これらは旧労働契約法20条について争われた裁判であり、同一労働同一賃金に関して策定されたガイドラインの内容とは異なる点に留意が必要です。上記4のとおり、ガイドラインでは、病気休職について「通常の労働者と同一の取得を認めなければならない(有期雇用労働者について、労働契約終了までの期間を踏まえた取扱いは可能)」とされているため、病気休職の相違自体が不合理と判断される可能性もあると考えられます。このことから、本事件後に成立・施行されたパートタイム・有期雇用労働法に関する裁判の動向等に注視する必要があります。

6.おわりに

日本郵便(東京・大阪)事件の判決から、長期にわたる継続的な雇用の期待と確保を目的とする手当等については、職務の内容や配置の変更範囲等に一定の相違が認められる場合であっても、有期契約社員の勤続期間について相応に継続的な勤務が見込まれる場合は、その労働条件の相違が不合理であると判断される可能性があります。2021年4月より中小企業をふくめすべての企業規模で適用(大企業は2020年4月1日施行)されることとなったパートタイム・有期雇用労働法では、正社員と有期契約社員のあらゆる待遇差について不合理な労働条件の相違の解消が求められていますが、その待遇差の整理にあたっては、まず当該労働条件の趣旨・目的を明確にし、待遇差について多様な角度から検討することが必要となります。




 

 

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