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人事労務コラム Column

2021.09.20

人事労務Q&A

同一労働同一賃金への実務対応Q&A ~パートタイム・有期雇用労働法の説明義務に関する実務対応~

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

2021年4月より、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差の解消(いわゆる「同一労働同一賃金」の実現)を目的とする「パートタイム・有期雇用労働法」が企業規模にかかわらずすべての企業に適用され、各企業において対応が求められています。

そこで今回は、事業主に求められる同一労働同一賃金への対応について、Q&A形式で見ていきたいと思います。

【Q.1】

パートタイム・有期雇用労働法では、正社員とパートタイマー、アルバイトや契約社員等の待遇に差がある場合に本人への説明が義務化されたと聞きましたが、具体的にどのようなものでしょうか。

【A.1】

パートタイム・有期雇用労働法では、短時間・有期雇用労働者から求めがあった場合、通常の労働者との間の待遇差の内容やその理由について説明しなければならないこととされています(法14条)。

では、この「説明義務」のポイントについて、詳しく見ていくことにしましょう。

1.比較対象となる労働者の選定について

パートタイム・有期雇用労働法では、同一企業内におけるすべての通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間で、あらゆる処遇について不合理な待遇差の解消が求められていますが、待遇差の内容やその理由の説明にあたっては、職務内容等が短時間・有期雇用労働者と最も近い通常の労働者を事業主が選定することとされています(図表参照)。この場合の「通常の労働者」とは、いわゆる正規社員や無期雇用フルタイム労働者を指します。

図表 説明義務における比較対象となる通常の労働者の考え方

なお、比較対象として選定した通常の労働者の情報およびその選定理由についても、選定した通常の労働者が特定されないよう配慮しつつ、説明を求めた短時間・有期雇用労働者に説明しなければならないとされています。

2.どのような説明を行うか

説明を行うにあたっては、まず待遇差の内容について、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間での待遇の個別具体的な内容や待遇の決定基準等を説明することとなります。そして、待遇差の理由については、その待遇の決定基準が同一のものであるか異なるものであるか等を踏まえ、職務の内容(業務の内容、責任の程度)、職務の内容・配置の変更の範囲、その他の事情に基づき、客観的、具体的に説明する必要があります。

3.説明の方法

説明の方法について、行政通達では、短時間・有期雇用労働者が説明内容を理解できるよう、基本的には資料を活用しながら口頭で説明することが望ましい措置であるとしつつ、説明すべき事項を分かりやすく記載した文書を作成した場合には、当該文書を交付する等の方法も考えられるとしています。

 

【Q.2】

パートタイム・有期雇用労働法に定める説明を行うにあたって、正社員とパートタイマー、アルバイトや有期雇用労働者等との間の待遇差について整理しようと思いますが、どのように行えばよいのでしょうか。

【A.2】

通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との待遇差を整理するにあたっては、両者間の職務内容および職務の内容・配置の変更の範囲を比較して、同じ待遇(均等待遇)としなければならないのか、差異に応じて均衡のとれた待遇(均衡待遇)としなければならないのかについて判断する必要があります。

では、判断手順について詳しく見ていきましょう。

1.均等待遇・均衡待遇とは

まず「均等待遇」とは、短時間・有期雇用労働者の職務の内容や人材活用の仕組み等が通常の労働者と同一である場合に、待遇について差別的取扱いをしてはならないとする定めで、賃金の決定をはじめ教育訓練の実施などすべての待遇について等しく扱うことを求めるものです。

一方、「均衡待遇」とは、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の待遇を相違させる場合に、職務の内容や人材活用の仕組み等を考慮して、両者の待遇のバランスを求めるものです。

2.均等待遇・均衡待遇の判断基準

均等待遇と均衡待遇のどちらが求められるのかを判断するにあたっては、具体的に下記の基準によって行うこととされています。

(1)職務の内容の同一性の判断

職務の内容とは、業務の内容および当該業務に伴う責任の程度をいい、下記の3点について比較し、1つでも異なれば職務の内容が異なると判断され、均衡待遇の対象となります。

【判断基準】
①職種が同じかどうか
②従事する中核的業務が同じかどうか
③責任の程度が同じかどうか

また、①~③のすべてが同じ(または著しく異ならない)と判断された場合には、(2)について検討することとなります。

(2)職務の内容・配置の変更の範囲の同一性の判断

職務の内容・配置の変更の範囲とは、人材活用の仕組みや運用などをいい、下記の基準によって判断することとされています。これらの項目のすべてが実質的に同じと判断された場合には「均等待遇」の対象となるため、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者のあらゆる待遇について、差別的取扱いをすることが禁じられることとなります。

【判断基準】
①転勤があるかどうか
②転勤がある場合に転勤の範囲が同じかどうか
③職務の内容・配置の変更があるかどうか

3.待遇差の整理

通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との待遇差の整理に当たっては、基本給や各手当および福利厚生などすべての待遇について、上記(1)の職務の内容および(2)の職務の内容・配置の変更の範囲やその他の事情のうち、当該待遇の性質および当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して整理することが求められます。

たとえば、食事手当の待遇差について整理する場合、食事手当は従業員の食事の補助を目的とするものであるため、職務内容および職務内容・配置の変更範囲が異なる場合であっても、勤務時間中に食事をとる必要があることが共通している正規社員と非正規社員の間で待遇の差を設けることは、不合理と判断される可能性が高いものと考えられます。

【おわりに】

パートタイム・有期雇用労働法で定める事業主に求められる対応のうち、法14条に定める説明義務の履行にあたっては、正規社員と非正規社員それぞれの労働条件の目的や趣旨、支給の基準を明確に整理し、説明できる相違か否かについて精査を行うなど、段階的な検討が求められます。自社の従業員から説明を求められた場合に対応できるよう、内容について整理しておくようにしましょう。




 

 

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所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

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