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人事労務コラム Column

2021.10.11

人事労務Q&A

同一労働同一賃金への実務対応Q&A ~非正規社員にも住宅手当や家族手当を支払わなければならないか~

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

2018年6月および2020年10月に正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間の不合理な労働条件の相違を禁じた旧労働契約法20条を巡る最高裁判決が下され、住宅手当や家族手当等の各種手当にかかる判断基準の解釈が一定程度出揃ったと考えられます。

そこで今回は、最高裁判決における各種手当等の解釈と企業の実務対応について、Q&A形式で見ていきたいと思います。

【Q.1】

住宅手当を正規社員に支払っている場合、非正規社員に対しても支払わなければならないのでしょうか。

【A.1】

同一労働同一賃金ガイドライン「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針(厚生労働省告示第430号)」では、基本給や賞与、各手当等の待遇ごとに同一労働同一賃金の原則となる考え方や具体例が示されていますが、住宅手当についてはその考え方が示されておらず、司法の判断を待たなければならない状況にありました。このような中、2018年6月と2020年10月に下された同一労働同一賃金を巡る7つの事件の最高裁判決において、住宅手当についての一定の判断基準が示されました。

そこで、まずこれらの最高裁判決のポイントについて見たうえで、企業の実務対応について考えていくことにしましょう。

1.判決のポイント

住宅手当については、従業員の住宅に要する費用を補助する趣旨で支給されるものである場合、業務の内容や責任の程度(以下「職務の内容」という。)にかかわらず、実際に転居を伴う配転が想定されているか否かが合理性の判断にあたって大きなポイントになるものと解されます。

この点について、ハマキョウレックス事件(最高裁判決)では、正社員について転居を伴う配転が予定されており、住宅にかかる費用が多額になり得ることから、正社員に支給している住宅手当を契約社員に支給しないことは、不合理とまではいえないと判断されました。

一方、メトロコマース事件(高裁判決)では、住宅費を中心とした生活費補助の必要性は職務の内容等によって相違が生ずるものではなく、また、正社員についても契約社員と同様に転居を伴う配置転換が想定されていないことから、正社員の住宅費が契約社員に比べて多額になる理由もないとして、両者の相違は不合理であると判断されました。また、日本郵便(大阪)事件(高裁判決)では、「住居手当が支給される趣旨目的は、主として、住宅に係る費用負担の軽減ということにあるが、配転の有無についても、考慮要素となると考えられる」とされ、正社員である新一般職と契約社員は、どちらも転居を伴う配転が予定されていないにもかかわらず、正社員である新一般職にのみ住居手当が支給されていることは不合理であると判断されました。なお、メトロコマース事件と日本郵便(大阪)事件の高裁判決は、その後、最高裁で確定しています。

2.企業の実務対応

上記で見てきたように、住宅手当の趣旨・目的が従業員の住宅に要する費用の補助にある場合、現実に転居を伴う配転が想定されているか否かが判断において重要なポイントになります。このことは、転居を伴う配転の可能性がある場合、持家を購入しにくく賃貸住宅に居住しなければならず、住宅コストが増大するため、その費用の一部を会社が負担するという考え方がベースにあることによるものと考えられます。

このため、まずは住宅手当の趣旨・目的を整理したうえで、正規社員・非正規社員間の転居を伴う配転の可能性に相違がない場合には、両者間の相違を縮小または解消していくことが求められます。

 

【Q.2】

家族手当を正規社員に支払っている場合、非正規社員に対しても支払わなければならないのでしょうか。

【A.2】

家族手当についても、住宅手当と同様、ガイドラインにおいて原則となる考え方が示されていませんが、最高裁判決において一定の判断基準が示されています。

そこで、最高裁判決のポイントについて見たうえで、企業の実務対応について考えていくことにしましょう。

1.判決のポイント

家族手当については、その趣旨・目的が判断の大きなポイントになるものと考えられます。長澤運輸事件(最高裁判決)では、家族手当について、「従業員の家族を扶養するための生活費に対する補助として、福利厚生および生活保障の趣旨で支給されるもの」であるとされました。

また、日本郵便(大阪)事件(最高裁判決)では、扶養手当の趣旨・目的として「生活保障」の趣旨に加えて、「長期継続勤務の期待から有扶養親族者の生活を保障することにより継続的雇用の確保を図ること」にあるとして、契約社員についても相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、制度趣旨をあてはめることが妥当であるから、扶養手当を正社員に支給しつつ契約更新を繰り返している契約社員に支給しないことは不合理であると判断されました。

なお、長澤運輸事件では、原告が定年後再雇用の嘱託社員であり、老齢厚生年金の支給が予定されていたことなどの特殊な事情が考慮され、両者の相違は不合理ではないと判断されています。

2.企業の実務対応

上記のように、家族手当は、その趣旨・目的が「長期継続勤務の期待と確保」にある場合には、相応に継続的な勤務が見込まれる有期契約労働者に対して、相違が不合理であると判断される可能性があります。このため、まずは手当の趣旨・目的を明確にし、支給基準をしっかりと整理しておくことが重要といえます。

【Q.3】

同一労働同一賃金の対応にあたって、諸手当はどのように考えればよいでしょうか。

【A.3】

同一労働同一賃金を巡る最高裁判決では、退職金や賞与をはじめ早出残業手当や夏期冬期休暇、病気休職中の賃金などさまざまな労働条件について、正規社員・非正規社員間の相違の不合理性が争われました。ここではこれまで取り上げなかったその他の主な手当や休暇についていくつか見ていくことにしましょう。

1.各手当等の判決結果の概要

(1)早出残業手当(メトロコマース事件)

メトロコマース事件では、正社員が所定労働時間を超えて労働した場合の割増率は、2時間までが2割7分、それを超える場合には3割5分となっていましたが、契約社員は法定通り(8時間超で2割5分)の割増率となっていました。これについて高裁判決では、労働基準法に定める割増賃金の趣旨は、使用者へ経済的負担を課すことによって時間外労働を抑制しようとする点にあると解されるところ、その観点からすると、有期契約労働者と無期契約労働者とで割増率に相違を設けるべき理由はないと認められることから、割増率の相違は不合理であると判断され、最高裁で確定しました。

(2)皆勤手当(ハマキョウレックス事件)

皆勤手当は、トラック運転手を一定数確保するために皆勤を奨励する趣旨で支給されるものであると解されるところ、正社員と契約社員の職務内容が異なっておらず、出勤者の確保の必要性について両者の間に相違が生ずるものではない等の理由から、正社員に支給する皆勤手当を契約社員に支給しないことは不合理であると判断されました。

(3)年末年始勤務手当(日本郵便(東京・大阪)事件)

年末年始勤務手当は、郵便業務の最繁忙期であって、多くの労働者が休日として過ごしている年末年始期間において業務に従事したことに対する対価であるとされました。また、正社員に対する年末年始勤務手当は、従事した業務の難易度や内容にかかわらず、勤務すること自体を支給要件としており、支給額も時期と時間に応じて全社員一律であることなどから、正社員に支給する年末年始勤務手当を契約社員に支給しないことは不合理であると判断されました。

(4)夏期冬期休暇(日本郵便(東京・大阪・佐賀)事件)

夏期冬期休暇は、年次有給休暇等とは別に、労働から離れる機会を与えることにより心身の回復を図るという趣旨で付与されるものと解されるところ、この趣旨は契約社員についてもあてはめることが妥当であるとされ、正社員に付与する夏期冬期休暇を契約社員に付与しないことは不合理であると判断されました。

2.企業における実務対応

皆勤手当のような業務に関する手当については、職務の内容(業務の内容および当該業務に伴う責任の程度)と密接に関連する手当であることから、職務の内容が同じ場合は、労働条件に相違を設ける理由が説明できないため、正規社員と非正規社員の労働条件を均等にしなければ不合理と解される可能性があります。また、早出残業手当や年末年始勤務手当、夏期冬期休暇のように、各労働条件の趣旨を非正規社員にもあてはめることが妥当な待遇については、正規社員・非正規社員間の相違を設けることは不合理と判断される可能性があります。

【おわりに】

今回は、最高裁判決で争われた労働条件のうち、住宅手当、家族手当およびその他の手当等の判断について見てきました。これらは旧労働契約法20条について争われた裁判であり、これらの判断が同一労働同一賃金の実現を目的として2021年4月に中小企業に適用されることとなった「パートタイム・有期雇用労働法」(大企業は2020年4月施行)の解釈にどこまで引き継がれるかは現時点で不明ですが、同法が旧労働契約法20条の流れを受けて成立していることから、今回見てきた最高裁の判断基準を踏まえたうえで、今一度、手当等の待遇について再検証することが望まれます。

 


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