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人事労務コラム Column

2019.06.01

人事労務Q&A

会社分割に伴う労働契約の承継

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

Q.当社では、このたび業績の悪い部門を分割して新会社として独立させ、他社へ売却することとしましたが、当該部門に属する労働者の中に転籍を拒んでいる者がいます。他部門に移すこともできませんので、強制的に転籍させたいと思っていますが、可能でしょうか。

A.近年、M&A(合併、買収、事業譲渡)が盛んに行われていますが、その一つとして、ご質問のような会社分割によって事業の一部を譲渡するケースも増えています。

ここで、会社分割とは、一つの法人格である会社を二つ以上に分割し、事業を新たな会社または既存の会社(以下「新会社等」という)に承継させることをいいますが、この場合、分割譲渡される事業に従事している労働者の同意を得ることなく、新会社等に転籍させることができるかどうかは問題になるところです。

では、この点について詳しくみてみましょう。

(1)転籍に労働者の同意は必要か

会社分割においては、新会社等に承継される事業に「主として従事」している労働者(注)については、新設分割時に作成する分割計画書または吸収分割時に作成する分割契約書(以下「分割計画書等」という)に「承継する旨」の記載をすることによって、会社分割の効力が生じたときに当然に、新会社等に雇用契約を承継させることができることとされています(会社の分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(以下「承継法」という)第3条)。したがって、当該事業に従事する労働者を新会社等へ転籍させる際には、必ずしも個別の同意は必要ありません。

(注)承継される事業に「主として従事」する労働者とは、当該事業に専ら従事する労働者とされています(平12.12.27厚生労働省告示第127号。以下「指針」という)。

しかし、このような転籍は、労働者の利害に大きな影響を与えることがあるため、承継法および商法等は、次に見るように、会社分割に係る一定の事項について労働者と協議を行うこと、また、分割を決定したときは、その内容について、分割事業に従事する労働者に通知すること等の手続きを行うことを、分割会社に義務付けています。

(2)労働契約承継のための手続き

① 全労働者の理解と協力を得るための協議

承継法第7条は、当該会社を分割するに当たり、すべての事業場において、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者と協議(以下「7条協議」という)することによって、会社分割をする背景・理由や承継される事業に「主として従事」する労働者に該当するか否かの判断基準等について、その雇用する労働者の理解と協力を得るよう努めることとされています。

なお、7条協議は、少なくとも次に述べる5条協議を開始する以前までに開始され、その後も必要に応じて適宜行う必要があります(指針)。

② 労働契約の承継に関する労働者との協議

平成12年商法等改正法附則第5条は、分割しようとする会社は、承継される事業に従事している労働者と、分割に伴う労働契約の承継に関して協議(以下「5条協議」という)をすることとしています。

具体的には、労働者が分割後に勤務することとなる会社の概要、承継される事業に「主として従事」する労働者に該当するか否かの考え方等を十分説明し、本人の希望を聴取した上で、当該労働者に係る労働契約の承継の有無、承継するとした場合または承継しないとした場合の当該労働者が従事することを予定する業務の内容、就業場所その他の就業形態等について協議しなければなりません(指針)。

この5条協議を行う時期について、指針では、労働者に対して通知を行う期限日までに十分な協議ができるよう、時間的余裕をみて協議を開始するものとされています。

なお、5条協議を「全く行わなかった場合又は実質的にこれと同視し得る場合における会社の分割については、分割無効の原因となり得る」(指針)とされており、承継される事業に従事している労働者との協議を行わないで分割した場合には、その分割が無効となることがあることに注意が必要です。

この点については、最高裁判所も、5条協議を全く行わなかったとき、または、説明や協議の内容が著しく不十分であるため、法が5条協議を求めた趣旨に反することが明らかな場合には、「労働契約承継の効力を争うことができる」と、同旨の判断をしています(平22.7.12最高裁第二小法廷判決「日本IBM事件」)。

③ 労働者への通知

上記の協議を経て分割計画等が作成されたときは、イ)承継事業に「主として従事」している労働者、および、ロ)分割計画等に労働契約を承継する旨の定めがある労働者でイ)以外の者に対して、分割計画書等を承認する株主総会の会日の2週間前までに、当該労働者の労働契約が新会社等に承継される旨の分割計画書等への記載の有無等について通知をしなければなりません(承継法第2条1項)。

(3)ご質問のケースの場合の対応

ご質問では、少数の従業員が新会社への転籍を拒んでいるとのことですが、これらの労働者は、分割される部門に属しているとのことですので、承継される事業に「主として従事」している労働者に該当するものと思われます。したがって、分割計画書等で新会社に承継する旨を記載することによって、労働者の意思にかかわらず新会社等へ転籍させることができます。

ただし、上記のとおり、7条協議、5条協議および労働者への通知を行わなければなりませんので、注意が必要です。特に5条協議については、これを行わない場合には、会社分割の無効原因となることがあるため、協議を通じて十分な説明を行うことが大切です。

ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

※本コラムは、2001年に日本生産性本部(当時「社会経済生産性本部」)のウェブサイト『人事労務相談室』で掲載した内容を一部リライトしたものです。

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