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人事労務コラム Column

2019.12.01

法改正情報

勤務間インターバル制度の概要と導入実務

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

今回は、2019年4月に法制化された勤務間インターバル制度について見ていきたいと思います。

1.勤務間インターバル制度とは

勤務間インターバル制度とは、勤務終了後、翌日の始業時刻まで一定時間以上の休息時間を設けることで労働者の生活時間と睡眠時間を確保するもので、働き方改革関連法によって、2019年4月より事業主の努力義務として労働時間等設定改善法に規定されました。

業務の繁忙などにより特定の時期に労働時間が集中する場合や、夜勤、交替制勤務などの勤務体系で勤務間隔が短い場合など、終業時刻から翌日の始業時刻までの間に十分な休息時間を確保することができないことがありますが、勤務間インターバル制度は、そのような状況をなくすとともに、労働者が生活時間や睡眠時間をしっかり確保し、ワーク・ライフ・バランスを保ちながら働き続けることができるようにするための制度です。

2.導入時の検討事項等

では、制度の導入にあたって検討すべき事項や実務上の留意点等について見ていきたいと思います。

(1)対象者

まず、インターバル制度の対象者について、全従業員を対象とするほか、管理職を除外することとしたり、対象者を工場部門・営業部門などの部署ごとや事業所ごとに設定するなどが考えられます。また、一定の職種や交替制勤務の従業員に限定するなど、職種や勤務体制ごとに設定することも考えられます。制度の導入にあたっては、部署や職種ごとの特性を考慮して運用可能な制度とすることが重要です。

(2)インターバル時間数(休息時間数)

つぎに、インターバル時間数についてですが、法律では、とくに何時間以上との定めはありません。全従業員一律とするほか、対象者を部署や職種ごとに設定し、それぞれ異なる時間数を設定することも可能です。

また、勤務間インターバル制度を就業規則に遵守すべき事項として定めるのか、事業所の努力目標として設定するかについても決めておく必要があります。最低限休息すべき時間を9時間などと設定したうえで、努力目標時間を11時間などと設定することも考えられます。

なお、EU諸国では、1993年から本制度の実施が義務づけられており、ドイツ、フランス、イギリスでは11時間、ギリシャ、スペインでは12時間とされています。

(3)勤務時間の取扱い

業務が長引いてインターバル時間が翌日の始業時刻と重なる場合の取扱いについても検討が必要となります。

たとえば、始業時刻が9時、終業時刻が18時の事業所で勤務間インターバル時間を11時間に設定した場合において、従業員が23時まで残業をした場合、翌日は11時間後の10時から勤務を開始することとなります。この場合、9時から10時までの時間帯について、賃金を控除するのか、勤務したものとみなして賃金を支払うのか、あるいはその日の始業・終業時刻を1時間ずつずらすのかなどについて決めておく必要があります。ただし、始業・終業時刻を後ろにずらす場合には、繁忙が一定期間続くと、終業時刻が日ごとに遅くなり深夜や早朝に至ってしまうことも考えられるため、繰り下げる時間の限度を決めておくなどの対応についても検討が必要となります。

これらのほか、ある時刻以降の残業を禁止し、翌日の始業時刻以前の勤務を認めないことにより休息時間を確保することなども考えられます。以上のような点について、労使の話合いにより明確な取決めをしておくことが大切です。

(4)インターバル時間を確保できない場合の措置

勤務間インターバル制度を導入した場合にも、重大なクレームや突発的なトラブルに対応する必要が生じた場合や災害などで緊急の対応が必要な事態が発生した場合、インターバル時間を確保できないことも考えられます。このため、制度の導入にあたっては、インターバル時間を確保できない場合の事前および事後の対策についても検討しておく必要があります。

たとえば、事前対策としては、緊急事態が生じた場合や特別な事情でインターバル時間を短縮する必要がある場合、事前に所属長や人事部長の承認を受けることとし、その日の始業・終業時刻を早めたり、別の日にインターバル時間の調整を行うなどの方法が考えられます。

一方、事後対策としては、上長に報告することとし、必要に応じて健康状態の確認を行ったり、インターバル時間を確保できなかった原因を勤怠等の報告書に記載させる、あるいは本人と上長に1週間以内に代休・年休の取得や勤務時間調整を促すなどの方法も考えられます。

なお、EU諸国では、インターバル時間が確保できない場合、代替日に休息時間を繰り越したり、取得できなかった休息時間に相当する時間を補償的休憩として提供するなどの方法がとられています。

いずれにしても、事前または事後に労使間でしっかりと話合い、対策を講じることが大切です。

3.さいごに

今回は、勤務間インターバル制度の概要と導入にあたっての検討事項や実務上の留意点について見てきました。

本制度の導入によって、休息時間を適切に確保し、長時間労働を軽減させるとともに、従業員の健康維持だけでなく生産性の向上につながることが期待されます。また、従業員にとって働きやすい職場環境の形成を図ることにより、優秀な人材の確保・定着ひいては企業の発展につながることも考えられます。この機会にぜひ導入を検討してみてはいかがでしょうか。

ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原 伸吾(特定社会保険労務士)

※本コラムは、「日経トップリーダー」経営者クラブ『トップの情報CD』(2019年12月号、日経BP発行)での出講内容を一部編集したものです。

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