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人事労務コラム Column

2020.02.01

特集

東京2020オリンピック・パラリンピック大会による企業への影響と実務対応

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

いよいよ東京オリンピック・パラリンピック、いわゆる東京2020大会の開催が今年の夏に迫ってきました。大会期間中は、世界中から多くの観光客や大会関係者が東京を訪れることが見込まれており、交通量の大幅な増加による通勤混雑や物流の大幅遅延など、企業活動において様々な影響が懸念されます。

そこで、今回は、東京2020大会が企業活動に与える影響と実務上の対応策について見ていきたいと思います。

1.東京2020大会の期間

大会の開催期間は、オリンピックが7月24日(金)から8月9日(日)までの17日間、パラリンピックが8月25日(火)から9月6日(日)までの13日間となっています。また、大会開催に伴って、「海の日」「山の日」「体育の日」が変更されます。このうち、「体育の日」は、通常10月第2月曜日とされていますが、今年に限って大会の開会式が予定される7月24日(金)に変更され、名称も「スポーツの日」と改められます。これにより、開会式前後は土日を含め4連休、閉会式前後は土日を含め3連休となります。

2.東京2020大会での観光客等の増加による企業へのリスクと検討事項

大会期間中は世界中から1,000万人以上の観光客が東京を訪れることが見込まれていますが、これは東京23区の人口に匹敵する人数であり、公共交通機関や道路の大幅な混雑が予想されています。東京都の試算によると、企業等が何も対策を行わない場合、高速道路などでは通常の交通に大会関係者による輸送が上乗せされ、渋滞が平時の約2倍になると予測されています。また、鉄道などの公共交通機関では、東京の環境に不慣れな観光客が増加することから、混雑による電車の乗降の遅れや大幅な鉄道遅延が発生すると言われています。さらに、大会では、大半の選手村が競技会場の近くに配置されることとされており、そのほとんどが東京都心部と臨海部に集中しているため、これらの地域では特に深刻な混雑が予想されます。

それでは、これらのことから想定される企業のリスクと対応策について、「人の流れ」と「物の流れ」に焦点をあてて見ていくことにしましょう。

(1)人の流れに関するリスクと対応策

まず、人の流れに関するリスクについてですが、大会期間中は観光客の移動時間が通勤時間帯と重なり、電車に乗れなかったり駅構内に入れないなどの極端な混雑や電車の大幅な遅延、混雑によるケガやトラブルの増加が想定され、通勤そのものが困難になる可能性があります。このため、企業では大会期間中の通勤について、人の移動を減らしたり、混雑する時間帯を避けるなどの対応が求められます。具体的な対応策としては、夏季休暇取得の奨励や振替休日の設定などのほか、在宅勤務等のテレワークを実施したり、混雑がピークとなる朝7時から9時までの時間帯の通勤を避けるため時差出勤を行うなどが考えられます。

また、交通混雑や大幅な遅延により、対面での重要な商談や会合に間に合わなくなったり、出張先に行けない、あるいは出張先から帰れないなどのトラブルも想定されるため、商談や会合の日程を変更したり、電話会議やテレビ会議に変更するなどの対策が考えられます。

なお、在宅勤務制度の導入にあたっては、就業規則や在宅勤務規程等において勤務時間の取扱いや申請・承認ルールなどを規定する必要があります。また、長時間労働とならないよう在宅での労働時間についてもきっちりと把握し管理しなければならない点にも留意が必要です。就業場所が自宅等で会社の目が届かず労働時間の算定が難しいなど一定の要件を満たす場合には、事業場外みなし労働時間制を適用することも考えられます。

(2)物の流れに関するリスクと対応策

つぎに、物の流れに関するリスクとしては、高速道路等の渋滞により物流が大幅に遅延し、商品を発送しても納期に間に合わないなどのトラブルや、仕入れ・購入備品が予定より大幅に遅延したり届かないなどのトラブルが考えられます。このため、納品・集荷の日程について混雑する日を避けて予定を立てるなどの対応が必要となります。これにより、輸送時間の確実性を向上させることが見込めるほか、トラブル対応による業務時間の長時間化を避けることが可能となります。また、物流そのものを減らす対策も必要です。ペーパーレス化を推進したり、業務中に発生するごみや廃棄物の排出を減らすことで、東京都内の納品・搬出に必要な車の台数を少なくすることが可能となります。このことは、東京都の物流リスクを低減させるだけでなく、企業のコスト削減にもつながります。

3.さいごに

大会の主な拠点となる東京都では、大会期間中の交通混雑緩和のため、交通量の抑制や分散に向けた交通需要マネジメントすなわちTDMや、テレワーク・時差Bizなどの取組みを「スムーズビズ」と総称して一体的に推進しています。

2012年に開催されたロンドンオリンピック・パラリンピック大会では、市内の約8割の企業が時差出勤やテレワークの導入等の対応を行い、その結果、大会期間中の交通混雑が大幅に緩和されたと言われています。東京2020大会においても、大会と企業活動の両立を図るためには、行政機関だけでなく、各企業が大会期間中に想定される影響をしっかりと理解し、対策を講じていくことが重要といえます。

ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

※本コラムは、「日経トップリーダー」経営者クラブ『トップの情報CD』(2020年2月号、日経BP発行)での出講内容を一部編集したものです。

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