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人事労務コラム Column

2021.06.15

法改正情報

2021年4月施行!改正労働施策総合推進法の概要 ~正規雇用労働者の中途採用比率の公表義務化~

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

【Q】

2021年4月より中途採用比率の公表が義務化されたと聞きましたが、どのような方法で公表すればよいのでしょうか。また、公表しない場合の罰則はあるのでしょうか。

【A】

公表は、おおむね年に1回、公表日を明らかにしたうえで、インターネット等を利用して行うこととされています。罰則の適用はありませんが、行政指導(助言、指導または勧告)の対象となる可能性があります。

 

1.改正内容のポイント

2021年4月に、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実に関する法律(以下、「労働施策総合推進法」という。)が改正施行され、正規雇用労働者の中途採用比率の公表が義務化されました。本改正は、労働者の中途採用に関する環境整備の推進を目的として、中途採用を希望する労働者と企業のマッチングを促進する観点から行われたものです。

改正法で新たに規定された中途採用比率の公表義務に関する主なポイントは以下のとおりです(法第27条の2)。

①義務化の対象となる企業
常時雇用する労働者数300人を超える企業
②中途採用比率の算出方法
直近の3事業年度の各年度における正規雇用労働者の中途採用比率を算出する
③公表方法
おおむね1年に1回、公表した日を明らかにし、インターネット等を利用して行う
④罰則の有無
罰則は設けられていないが、行政指導の対象になり得る

それでは、上記①~④の具体的な内容について、順に見ていきたいと思います。

2.義務化の対象となる企業

今回の法改正による義務化の対象は、常時雇用する労働者数が300人を超える企業とされています。厚生労働省の「雇用動向調査」によると、企業規模が大きいほど中途採用の割合が低い傾向にあることから、大企業に対して中途採用に関する情報公開を義務付けることにより、中途採用市場の活性化を図る狙いがあるものと考えられます。

なお、義務化の対象となっていない企業についても、常時雇用する労働者数が300人を超えることとなった場合には、その事業年度から義務化の対象となりますので、現在の労働者数や今後の採用計画に応じて準備をしておく必要があります。また、ここでいう「常時雇用する労働者」とは、雇用契約の形態を問わず、事実上期間の定めなく雇用されている労働者を指すものとされているため、契約期間に定めのない正社員に限らず、有期雇用労働者や日雇労働者であって過去1年以上引き続き雇用され、または雇用される見込みのある者も対象となります。

3.中途採用比率の算出方法

中途採用比率とは、各事年度において採用した正規雇用労働者数に占める中途採用した正規雇用労働者数の割合を指します。この場合の「正規雇用労働者」および「中途採用した正規雇用労働者」の定義は、それぞれ以下のとおりとされています。

①正規雇用労働者
常時雇用するパートタイム・有期雇用労働法第2条における「通常の労働者」およびこれに準ずる者とされており、契約期間に定めのない正社員ならびに短時間正社員がこれに該当する
②中途採用した正規雇用労働者
事業年度において採用した正規雇用労働者のうち新規学卒者等(※)採用者以外の者が該当する
※「新規学卒者等」とは、学校・専修学校を卒業した者、職業能力開発促進施設(職業能力開発校、職業能力開発短期大学校、職業能力開発大学校、障害者職業能力開発校)、職業能力開発総合大学校の卒業訓練を修了した者またはこれらの学校等の既卒者であって新規学卒者と同じ採用枠で採用した者等、新規学卒者と同等の処遇を行う者をいう

このように、各事業年度において採用した上記①および②の労働者数をそれぞれ集計し、直近3事業年度における各事業年度の中途採用比率(①に占める②の割合)を算出することとされています。

4.公表の方法

中途採用比率の公表は、おおむね1年に1回以上、公表した日を明らかにして、インターネットの利用や事業所への掲示等の方法により、求職者等が容易に閲覧できるようにすることとされています。このうちのインターネットによる公表は、原則として自社のホームページにより行うこととされていますが、自社のホームページがない企業については、厚生労働省がインターネット上で開設している「職場情報総合サイト『しょくばらぼ』」を利用することも可能です。

また、公表のタイミングについて、初回は施行後の最初の事業年度内で可能な限り速やかに、2回目以降は前回の公表からおおむね1年以内に行うこととされています。

5.罰則の有無

公表義務違反に対する罰則規定は設けられていません。ただし、労働施策総合推進法において、「厚生労働大臣は、この法律の施行に関し必要があると認めるときは、事業主に対して、助言、指導又は勧告をすることができる」(法第33条)と規定されていることから、義務化の対象でありながら公表を行っていない企業に対しては、何らかの行政指導が行われる可能性がありますので留意が必要です。

6.おわりに

人生100年時代の到来により、職業生活が長期化することが見込まれる中、政府としては、主体的なキャリア形成による職業生活の更なる充実や再チャレンジが可能となるよう、中途採用に関する環境整備の推進を目的として、今回、大企業に中途採用比率の公表を義務付けました。これまでの新卒一括採用を見直し、通年採用による中途採用・経験者採用の拡大を図るために、今後、新たな政策が講じられることも考えられますので、動向を注視する必要があるでしょう。

以上

 

ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

※本コラムは、2021年6月にPHP研究所ビデオアーカイブズプラス『社員研修VAプラス会員専用サイト・人事労務相談室Q&A』で掲載された内容をリライトしたものです。

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