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人事労務コラム Column

2023.06.15

法改正情報

【2024年4月改正】労働条件明示ルールの変更(後編)~ 労働条件の明示事項に新たな項目が追加されます ~

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

労働基準法施行規則(以下「労基則」という。)が改正され、2024年4月1日より労働条件の明示事項が見直されます。前回は、無期転換に関する明示事項についてとり上げましたが、今回は、その他の明示事項について追加された内容を見ていきます。

前回コラム: 【2024年4月改正】労働条件明示ルールの変更(前編) ~ 無期転換に関する明示ルールの見直し ~

 

1.改正後の労働条件明示事項

労働基準法では、労働契約の締結時に、一定の事項について労働条件を書面等※1で明示することを使用者に義務づけられています(労基法15条)。具体的な明示事項は労働基準法施行規則(以下「労基則」という。)に定めがありますが、改正により、2024年4月1日以降、新たな項目が追加されます。改正後の明示事項は次表のとおりです(図表1)。

※1 書面のほか、労働者が希望する場合は、メールやSNS(LINE等)での明示も可能。

 

【図表1 改正後の労働条件の明示事項(労働基準法5条・労規則15条)】

(注)下線赤字:改正事項

 

2.新たに追加される明示事項

以下、追加された事項について詳しく見ていきましょう。

(1)有期労働契約の更新上限の有無と内容(有期契約労働者のみ)

現行の明示事項の「有期労働契約を更新する場合の基準に関する事項」(図表1-②)については、通達により、有期契約労働者に対して「更新の有無」と「契約更新の判断基準」等を明示することとされています(平24.10.26基発1026第2、平25.3.28基発0328第6)が、改正後は、これに加えて有期労働契約の更新上限(通算契約期間または更新回数)の有無とその内容について明示することが義務づけられます。これらは他の明示事項と同様、有期労働契約の締結と更新のタイミングごとに明示が必要です。

また、告示※2の改正により、最初の有期労働契約の締結より後に更新上限を新たに設けたり短縮したりする場合は、有期労働契約者にあらかじめその理由を説明しなければならないこととされたため、労基則改正後に新たに更新上限を設ける場合には留意が必要です。

※2 「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準」。改正により、2024年4月1日以降、告示の名称が「有期労働契約の締結、更新、雇止め等に関する基準」に変更される。

 

(2)就業場所・業務の変更の範囲

現行の明示事項のうち、「就業の場所および従事すべき業務に関する事項」(図表1-③)について、通達では、「雇入れ直後の就業場所及び従事すべき業務を明示すれば足りる」(平11.1.29基発45号)とされており、雇入れ後に変更の可能性がある勤務場所や業務内容について記載することまでは求められていません。

この点について、改正後は、紛争の未然防止や予見可能性の向上の観点から、すべての労働者について「雇入れ直後の就業場所及び従事すべき業務」の内容に加え、それらの「変更の範囲」についても記載が必要となります。

この場合の「変更の範囲」とは、将来の配置転換などによって変わり得る就業場所または業務の範囲を指すため、可能性のある転勤先事業所や変更後の業務内容を記載しておく必要があります。これらは、他の明示事項と同様、労働契約の締結時および有期労働契約の更新のタイミングごとに明示する必要があります。

なお、就業場所の変更の範囲等をどこまで記載すべきかについては、本稿執筆時点(2023年6月時点)では明らかになっていませんが、改正にあたり、厚生労働省の「多様化する労働契約のルールに関する検討会」の報告書では、就業場所の変更範囲の記載について、「例えば、東京23区内に勤務地が限定されている場合は、『勤務地の変更の範囲:東京23区内』と示されることが想定され、また、勤務地に限定がない場合は『勤務地の変更の範囲:会社の定める事業所』と示されることが想定される」とされています。

3.実務対応

ここからは、具体的な実務対応について見ていきます。

(1)有期契約労働者の更新上限の明示にかかる実務と影響

現在、新たに有期雇用労働者の更新上限を設けることを検討している場合、更新上限を設ける時期が2024年4月1日以降となるときは、上記2(2)のとおり、上限を新たに設けた理由について事前の説明が必要となります。このため、あらかじめ上限を定める理由を明確にしておくことが望まれます。

(2)「就業場所・業務の変更の範囲」の追加に関する実務と影響

今回の改正により、労基則が適用される2024年4月1日以後に締結するすべての労働者の労働条件通知書または雇用契約書について、記載事項の追加などの見直しが必要になります。改正後は、労働条件通知書に明示されていない場所への転勤や職種の変更を命じた場合、就業規則に配転命令が定められている場合であっても、労働条件通知書の記載内容をめぐって労働者とトラブルになる可能性があります。このため、就業場所および業務内容の限定の有無、限定しない場合の変更の範囲、業務内容の変更の可能性等について、雇用形態(正社員・契約社員・パート社員等)別に整理をした上で、労働条件通知書等の見直しを行うことが肝要です。

 

以上

 


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次回コラム: 【2024年4月改正】裁量労働制の見直しについてわかりやすく解説(前編) ~ 専門業務型裁量労働制の改正内容 ~

 

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