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人事労務コラム Column

2023.08.01

法改正情報

【2023年1月改正】労災メリット制の労働保険料に関する不服取扱いの見直し(前編) ~メリット制の概要~

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

これまで労災の発生によって保険料の引上げ処分が行われた場合、労災保険給付の支給決定について事業主が不服を申し立てることはできませんでしたが、本年1月よりこの取扱いが見直されることとなりました。

今回から2回にわたって、労災メリット制の労災保険にかかる労働保険料(以下「労災保険料」という。)に関する不服取扱いの見直しの内容について解説していきたいと思います。今回は、引上げが行われるメリット制のしくみについて見ていきます。

▽次回コラム
【詳しく解説!】労災メリット制の労働保険料に関する不服取扱いの見直し(後編)

 

1.メリット制の概要と目的

労災保険料は、原則として、事業の種類ごとに定められた労災保険率に基づいて算定されますが、事業の種類が同じでも、個々の事業場ごとに実際の災害率が異なるため、労働災害の多寡に応じて労災保険料を一定の範囲内で増減させる「メリット制」のしくみが設けられています。

労働災害の多寡を計るにあたっては、労災保険給付額を労災保険料額で除して得た「メリット収支率」を用いることとされており、最大40%の範囲内で事業場ごとの労災保険率が増減します。

メリット制は、実際の災害発生の程度によって保険料に差をつけることで、事業主の保険料負担の公平化を図るとともに、災害防止のための努力を促進することを目的としています。このしくみが適用されると、労災件数が多ければ労災保険料が上がり、労災発生件数が少なければ労災保険料が下がるため、事業主にとっては、労災の発生を抑えることで労災保険料を低減できるという経済的なメリットがあるわけです。

2.メリット制の適用対象となる事業

メリット制の適用対象となる事業は、規模等についての要件が定められており、継続事業(注)の場合には、次のとおりとされています。

(注)継続事業とは、事業期間が予定されていない事業をいい、一般の事務所、工場、商店などが該当する。労働保険では、このほか建設等の事業における一括有期事業、単独有期事業がある。

【メリット制の適用対象事業】

①3月31日の時点で、労災保険関係が成立してから3年以上経過していること
②メリット収支率の算定対象となる連続3保険年度の使用労働者数等が以下のいずれかに該当すること

A:100人以上の労働者を使用した事業であること

B: 20人以上100人未満の労働者を使用した事業であって、災害度係数が0.4以上であること

災害度係数 = 労働者数×(業種ごとの労災保険率-非業務災害率) ≧ 0.4

※ 非業務災害率は、全業種一律0.6/1000とされている。

 

3.メリット収支率の算定

メリット制による労災保険率(以下「メリット料率」という。)を算定するための「メリット収支率」は、3年間を単位に算定することとされており、連続する3保険年度(収支率算定期間)における労災保険料に対する保険給付等(保険給付および特別支給金)の割合によって算出します。

 

この場合、メリット収支率の算定にあたっては、業務災害にかかる保険給付等を用いることとされており、通勤災害にかかる保険給付等は含まれません。

4.メリット料率の算定

メリット料率は、メリット収支率をメリット増減率(注)に置き換えた上で、基準となる労災保険率にメリット増減率(40%減から40%増までの範囲)を乗じることにより算出します。メリット収支率と労災保険率の関係は以下のとおりです。

メリット収支率 労災保険率
85%以上 収支率の値が大きいほど労災保険率が高くなる
75%超85%未満 労災保険率の増減なし
75%以下 収支率の値が小さいほど労災保険率が低くなる

 

(注)メリット増減率は、増減表により算出することとされている。

5.メリット制の適用時期

4.で算定されたメリット料率が適用されるのは、連続する3保険年度の最後の年度の翌々年度とされており、2年度前から4年度前までの過去3年度分の労災支給処分をもとに、当年度分の労災保険率が決定されます(図表参照)。

【メリット制の適用イメージ】

6.おわりに

今回はメリット制の概要について見てきました。次回は、労働保険料の認定決定の取消訴訟等において、労災保険給付の支給決定に対して事業主による不服申立ての取扱いが見直された背景と見直しの内容について解説します。

以上

 


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