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人事労務コラム Column

2023.08.15

法改正情報

【詳しく解説!】労災メリット制の労働保険料に関する不服取扱いの見直し(後編) ~ 見直しの背景と変更点 ~

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

前回は、労災保険のメリット制のしくみについて解説しましたが、今回は、労働保険料に関する事業主の不服取扱いが見直された背景と変更点について解説します。

▽前回コラム
労災メリット制の労働保険料に関する不服取扱いの見直し(前編)

 

1.労働保険料の認定決定に不服がある場合の手続き

労働保険料の認定決定がなされた場合、その決定に不服がある事業主は、行政不服審査法に基づき厚生労働大臣に対して審査請求をすることができ、この審査請求の採決に不服があるときは、さらに行政事件訴訟法に基づく取消訴訟を提起することができることとされています(以下、これらの手続きをまとめて「不服申立て等」という)。不服申立て等の流れは、下記のとおりです。

【不服申立て等の流れ】

審査請求を経ずに、認定決定の処分取消しの訴えを提起することも可能とされている。

2.メリット制適用事業主による不服申立て等

労災支給処分(労災保険給付の支給決定)が行われた場合、メリット制が適用される事業主は、メリット制の適用により労働保険料が増加することとなるため、不服申立て等の手続きとして以下の2つが考えられます。

労働保険料の認定決定に関し不服申立て等をして、労災支給処分が労災保険法に従った認定ではなかったこと(支給要件非該当性)を主張すること
労災支給決定そのものに対して不服申立て等をすること

 

しかし、労災保険法は、被災労働者等の法的利益を図ることを目的とするものであるところ、これらの不服申立て等を認めてしまうと、被災労働者等の迅速な救済を図ったり生活保障の役割を果たすことができなくなり、被災労働者や遺族に重大な不利益が生じるおそれがあること等から、従来は上記のいずれの手続きも認められていませんでした。

3.見直しの背景と論点

このように、事業主は、労働保険料の認定決定に関し不服申立て等をして、労災支給処分の支給要件非該当性を主張することができませんでしたが、近年、複数の裁判において、事業主が労災支給処分の支給要件非該当性(2.①)を主張することを肯定する判決や、労災支給処分によって保険料額が増えるという直接具体的な不利益が事業主に生じることを理由に労災支給処分に対する不服申立て(2.②)ができるとする判決が続いたことを契機に、あらためてメリット制適用事業主による不服申立ての是非が議論されることとなり、2022年10月に厚生労働省の検討会が立ち上げられました。

検討会では、被災労働者等の法的地位の安定性を守りつつ、メリット制によって不利益を受ける可能性のある事業主の手続的な保障を図るという観点から、主に2.①および2.②の手続きの可否および2.①の手続きが認められた場合の労災支給処分の取扱いについて議論が重ねられ、2022年12月に報告書が取りまとめられました。

報告書では、2.①の保険料認定決定における支給要件非該当性の主張を認めるのが適当であり、その手続きにより支給要件非該当性が認められた場合でも労災支給決定処分を取り消すことはしないとする対応が適当であるとする一方、2.②の労災支給決定処分の不服申立て等は認めるべきではないとしました。

4.変更のポイント

前述の検討会が取りまとめた報告書を踏まえ、2023年1月31日に発出された通達により、事業主の不服取扱いについて以下のとおり見直しが行われました(平5.1.31基発0131第2号)。

メリット制の対象事業主は、労働保険料認定決定の取消等を求める訴訟において、労災支給処分の支給要件非該当性を主張することが可能であり、メリット収支率算定の基礎となる労災支給処分の支給要件非該当性が審理されることがある。
メリット収支率算定の基礎となる労災支給処分の支給要件非該当性を理由として、労働保険料の認定決定を取り消す等の判決が確定した場合、都道府県労働局は支給要件非該当性が認められた事案にかかる労災給付額を除外してメリット収支率を算定した上で労働保険料の額を算定しなおす。
①のメリット収支率算定の基礎となる労災支給処分の支給要件非該当性を理由として、労働保険料の認定決定を取り消す等の判決が確定したとしても、労働基準監督署は該当の労災支給処分を取り消すことはしない。

 

5.おわりに

このように、今般の見直しにより、労働保険料が引き上げられた事業主は、労働保険料認定決定に関する取消訴訟において、保険料が引き上がる原因となった労災支給処分の支給要件非該当性を主張することで、これまで認められていなかった保険料に関する経済的不利益を争うことができることとなりました。

以上

 


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