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2026.01.01

特集

【判例解説】事業場外みなし労働時間制に関する注目の裁判例 ~協同組合グローブ事件(最高裁判決を踏まえた高裁のやり直し裁判)~

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

2024年4月に注目の2つの最高裁判決(「協同組合グローブ事件」、「滋賀県福祉協議会事件」)が下され、最高裁はいずれの事件においても原判決を破棄し、高裁で再度審理をやり直すよう差し戻しました。その後、差戻し後の裁判(以下「差戻審」という。)の行方が注目されていましたが、いずれも2025年に高裁において差戻審の判決が下されました。そこでこれから2回にわたって、これらの事件の概要と差戻審までの判決の内容について見ていきます。今回は、「協同組合グローブ事件」(以下、「本事件」という。)について解説します。

1.事件の概要

本事件は、外国人技能実習制度における監理団体Y組合に雇用されていた元指導員Xが、事業場外みなし労働時間制の適用を否定し、未払い残業代を請求した事案です。

裁判で確定した事実関係の概要は以下のとおりです。

Xは2016年9月にY組合に雇用され、外国人技能実習生の指導員として勤務していたが、2018年10月31日に退職した。
Xの主な業務は、自らが担当する九州地方各地の実習実施者(実習生を受け入れている国内企業)に対する月2回以上の訪問指導のほか、実習生の来日時等の送迎、日常の生活指導や急なトラブルの際の通訳等であった。
Xは、実習実施者等への訪問予約を行うなど、事業場外での業務について自ら具体的なスケジュールを管理していた。
XXは携帯電話を貸与されていたが、随時具体的に指示を受けたり報告をしたりすることはなかった。
Xの就業時間は午前9時から午後6時まで、休憩時間は正午から午後1時までと定められていたが、休憩時間は就業日ごとに異なっていた。
Xは、タイムカードを用いた労働時間の管理を受けておらず、自らの判断によって直行直帰することもできた。
Xは、月末に就業日ごとの始業・終業時刻および休憩時間のほか、訪問先、訪問時刻およびおおよその業務内容等を記入した業務日報をY組合に提出し、その確認を受けていた。

 

2.「事業場外みなし労働時間制」について

本事件で焦点となった「事業場外みなし労働時間制」(労働基準法38条の2第1項)は、労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときに、原則として所定労働時間労働したものとみなす制度です。

いいかえれば、事業場外みなし労働時間制を適用するためには「労働時間を算定し難い」ことが必要ですが、本事件では、Xの事業場外における業務が「労働時間を算定し難いとき」に当たるか否かが争点となりました。

3.一審・二審の判断

ここからは、一審(熊本地裁)および二審(福岡高裁)の判断について見ていきます。

(1)一審(熊本地裁)の判断

事業場外みなし労働時間制にかかるリーディングケースである「阪急トラベルサポート事件」(平26.1.24最高裁判決)では、下記の判断基準が示されています。

業務の性質・内容やその遂行の態様・状況等、使用者と労働者との間で業務に関する指示及び報告がされているときはその方法・内容や実施の態様・状況等を総合して、使用者において労働者が労働に従事した時間を把握することができるかどうかとの観点から判断することが相当である

 

本事件では、この判断基準を引用したうえで、Xの業務自体の性質・内容等から見るとただちに労働時間を把握することは容易ではないとしつつも、Xが業務後の報告として提出していた業務日報の記載について、ある程度正確性が担保されていると評価しました。そして、この業務日報をもってすれば、組合がXの事業場外勤務の状況を把握することが困難であったとは認めがたく、「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないと判断しました。

(2)二審(福岡高裁)の判断

Xの業務の性質、内容等からみると、Y組合がXの労働時間を把握することは容易でなかったとしつつも、業務日報の正確性については一審の評価を維持しました。具体的には以下の2点を挙げたうえで、これらを総合するとXの事業場外業務については「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないと判断しました。

Y組合は業務日報を通じて業務の遂行の状況等につき報告を受けており、その記載内容については、必要であればY組合から実習実施者等に確認することもできたため、ある程度の正確性が担保されていたといえる
Y組合自身、業務日報に基づきXの時間外労働の時間を算定して残業手当を支払う場合もあり、これは業務日報の正確性を前提としていたものといえる

 

4.最高裁の判断

最高裁は、Y組合がXの事業場外における勤務の状況を具体的に把握することが容易でなかったとする点について、一審・二審と同様の判断をしました。

一方で、一審・二審が事業場外みなし労働時間制の適用を否定する根拠となった、業務日報の正確性を支持する指摘、すなわち、①記載内容について実習実施者等への確認が可能であったこと、②業務日報の正確性を前提に時間外労働の時間を算定して残業手当を支払う場合があったこと、の2点についてはそれぞれ以下のとおり判断しました。

業務日報の記載内容について実習実施者等への確認が可能であったとの判断について
単に業務の相手方に対して問い合わせるなどの方法をとり得ることを一般的に指摘するものにすぎず、その方法の現実的な可能性や実効性等は具体的には明らかでない
業務日報の正確性を前提に時間外労働の時間を算定して残業手当を支払う場合があったとの判断について
Y組合は、事業場外みなし労働時間制を適用せず残業手当を支払ったのは、業務日報の記載のみによらずにXの労働時間を把握し得た場合に限られる旨主張しており、この主張の当否を検討しなければY組合が業務日報の正確性を前提としていたともいえないうえ、Y組合が一定の場合に残業手当を支払っていた事実のみをもって、業務日報の正確性が客観的に担保されていたなどと評価することができるものでもない

 

最高裁は、上記の2点を踏まえ、二審判決が業務日報の正確性を担保する具体的事情を十分に検討することなく業務日報による報告のみを重視して、Xの事業場外業務が「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないと判断したものであり、「事業場外みなし労働時間制」の解釈適用を誤ったものであると結論づけました。そのうえで、最高裁は、この点について高裁へ差し戻し、審理のやり直しを命じました。

なお、林道晴裁判官は補足意見の中で、事業場外労働について、在宅勤務やテレワークも含め、その在り方が多様化しているため、被用者の勤務の状況を具体的に把握することが困難であるか否かについて定型的に判断することは一層難しくなってきていると指摘しました。こうした中、裁判所は、業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、業務に関する指示及び報告の方法、内容やその実施の態様・状況等の考慮要素を十分に踏まえつつも、あくまで個々の事例ごとの具体的な事情に的確に着目したうえで、「労働時間を算定し難いとき」に当たるか否かの判断を行っていく必要があるとの考えを示しています。

5.差戻審(福岡高裁)の判断

差戻審では、業務日報について「自己申告」としての意味を有するものであるとしたうえで、その正確性の担保にかかる事情についてあらためて検討しつつ、以下の見解を示しました。

業務日報の記載内容について実習実施者等への確認が可能であったとの判断について
業務日報に記載された訪問先は多岐にわたっており、これらの訪問先が被控訴人の訪問日、時間等を子細に記録し、保管しているとは通常うかがわれないから、Y組合が実習実施者等に確認するという方法の現実的な可能性や実効性等は乏しいものといわざるを得ないし、Y組合が、業務日報の正確性について現に実習実施者等に確認していたことをうかがわせる具体的な事情もない
業務日報の正確性を前提に時間外労働の時間を算定して残業手当を支払う場合があったとの判断について
業務日報以外にXの労働時間を把握し得る資料の存在は認められず、内勤業務があった日等は業務日報に基づいて1日の労働時間を算定していたものと認められるものの、Y組合がこの限度で残業時間を算定していたことのみをもって、業務日報全体の正確性が客観的に担保されていたと評価することはできない

 

上記のほか、別途作成されていた「訪問指導記録」との整合性等の事情も考慮すると、業務日報による報告でXの事業場外の勤務状況の把握が可能になるものとはいえないとし、結果としてXの業務が「労働時間を算定し難いとき」に当たると認定しました。

6.おわりに

前述の「阪急トラベルサポート事件」では、労働者の業務について「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえないとされ同制度の適用が否定されましたが、その判断理由の一つとして、業務後に詳細な報告があり、その内容について関係者等に問い合わせをすれば正確性が確認できることが挙げられていました。しかし、本事件では、そのような方法での正確性の担保に疑問が呈され、業務報告が勤務時間の算定を可能と判断する要素として認められませんでした。

最高裁判決の補足意見にもあるとおり、事業場外みなし労働時間制の適用については、今後も個々の事例ごとの事情に応じてその可否が判断されるものと思われますが、本事件は事業場外労働をする労働者の業務管理体制を考えるうえで参考になる判例といえるでしょう。

以上


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