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人事労務コラム Column

2018.05.30

人事労務Q&A

無期転換ルールへの対応

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

Q. 2018年4月から無期転換ルールが本格的に始まると聞きましたが、無期転換ルールとはどのようなものでしょうか。また、企業の実務的な対応について具体的にご教示ください。

A 無期転換ルールとは、同一の使用者との間で、有期労働契約が通算して5年を超えて更新された場合に、有期契約社員が申込みをすると、使用者がこれを承諾したものとみなされ、無期労働契約に転換するというルールです。

実務的には、(1)基本方針の策定、(2)人事制度その他の諸制度の見直し、(3)就業規則・雇用契約書等の見直し、(4)定年再雇用者に無期転換申込権を発生させないための特例申請の4つのポイントを中心に対応策を検討します。

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1.無期転換ルール法制化の背景

期間に定めのある有期労働契約は、有期契約労働者から見れば、常に契約打切り、すなわち雇止めに対する不安を抱える要因となり、また期間の定めがあることを理由に労働条件やキャリア形成に格差が生じるなど様々な課題を抱えています。このため、2013年4月に改正労働契約法が施行され、同一の使用者との間で、有期労働契約が通算して5年を超えて更新された場合に、有期契約社員が申込みをすると、使用者がこれを承諾したものとみなされ、無期労働契約に転換するという“無期転換ルール”が創設されました。

2. 無期労働契約への転換の申込み

無期転換の申込みができるのは、契約期間の通算年数が5年を超えることとなる労働契約の初日から末日までの間とされており、その間に有期契約労働者が無期転換の申込みをした場合には、現に締結している労働契約が満了する日の翌日を始期とする無期労働契約が成立することになります。

この場合、無期転換申込権を行使しないことを契約更新の条件とする取り決めは、公序良俗に反するものとして無効となりますので留意が必要です。

また、5年を超える最初の契約期間中に無期転換申込権を行使しなかった場合でも、再度、契約が更新されたときは、新たに権利が発生するため、実質的には、有期労働契約が5年を超えると、いつでも無期転換申込権を行使することができることとなります。

3.無期労働契約への転換後の労働条件

無期労働契約に転換した後の職務、勤務地、賃金、労働時間等の労働条件は、労働協約、就業規則または個々の労働契約等に別段の定めがない限り、直前の有期労働契約と同一になるとされており、無期転換に当たって職務の内容などが変更されないにもかかわらず、無期転換後の労働条件を従前より低下させることは、無期転換を円滑に進める観点から望ましいものではないとされています。

したがって、無期転換後の労働条件を検討するに当たっては、職務内容や役割、責任等についても同時に検討することが重要です。

4.無期転換ルールにおける課題

ここまで無期転換ルールの概要について見てきましたが、ここでは、このルールがスタートすることによるいくつかの課題について見てみます。

(1)雇用負担の増大

これまで契約を有期にすることによって、有期契約労働者を雇用の調整弁として、あるいは安価な労働力として使用されてきた側面がありますが、無期転換ルールの創設により、これらの意味合いが薄まるため、使用者にとって雇用負担が増えることとなります。このため、あらためて有期契約であることの必要性を含め、無期転換労働者に期待する役割や職責等を明確にしておくことが重要です。

(2)雇用区分の多様化・複雑化

これまでのように、契約社員、パートタイマー、アルバイトなどの雇用区分について、それぞれ有期・無期の軸が加わることとなり、雇用区分が多様化・複雑化することとなります。このため、契約期間の有無を含め、雇用区分の再整理を行うことが重要です。

(3)労働条件見直しのタイミングの消滅

従来まで契約更新時に労使双方で行っていた職務内容や処遇、働き方などの見直しのタイミングがなくなるため、労働条件の硬直化につながる可能性があります。このため、職務内容や評価、昇給、労働時間等の労働条件について、双方で確認するしくみを新たに作っておくことが大切です。

(4)契約終了等にかかる規定の対応

無期転換労働者について、単に従来の有期契約労働者の就業規則を適用してしまうと、定年退職の定めがないために終身雇用になってしまったり、休職の定めがないために長期欠勤者への対応が難しくなってしまうことなどが考えられます。このため、無期転換労働者にかかる就業規則を整備しておく必要があります。

5.企業の対応実務

それでは、無期転換ルールに対し、企業はどのような対応をすべきでしょうか。この場合の実務上のポイントは次の4つです。

(1)基本方針の策定

基本方針を検討するにあたっては、まず現在の有期契約労働者の契約更新回数や勤続年数、年齢、職務等の実態を整理し把握することから始めます。そして、有期契約締結の意義を再検証するとともに、今後、会社が求める有期・無期それぞれの人材像を明確にしたうえで、各雇用区分ごとの基本方針を策定します。

この場合、無期転換後の類型のイメージとしては、契約期間と働き方の制約という2つの軸を掛け合わせて、正社員転換型、スライド型、新たな雇用区分への転換型の3つに整理することができます(図表)。

図表 無期転換の類型のイメージ図

まず正社員転換型ですが、これは既存の正社員の雇用区分に転換するパターンです。この類型では、人材確保・定着やモチベーション維持・向上の面でメリットがありますが、人件費コストの増大というデメリットがあります。この類型を選択する場合、既存の正社員にかかる制度について、新たな資格や等級、役職、賃金テーブル等を創設するのかどうかについても合わせて検討することとなります。

二つ目はスライド型です。これは無期転換ルールの原則に則って、従来の労働条件を維持しつつ、契約期間のみを無期契約に転換する類型です。一般に、有期契約労働者には昇給や昇格、諸手当、賞与、退職金などがないため、このスライド型を採用した場合、無期転換後も人件費コストを抑制することができますが、従業員本人のモチベーションの引上げ効果はあまり期待できません。

この類型を選択する場合、従来の有期契約を前提とした就業規則等について、無期転換労働者にも対応できるよう見直しを行う必要があります。
最後は新たな雇用区分への転換型ですが、これは、一般に多様な正社員とか限定正社員などとも言われるもので、職務限定や地域限定、短日・短時間勤務などのパターンがあります。スライド型と比較して、人材確保・定着やモチベーション維持・向上の観点からメリットがありますが、昇給や昇格、賞与、退職金等を創設する場合、人件費コストが膨らむというデメリットがあります。

この類型を選択する場合、職務や勤務地、労働時間等についてどのような制約を設けるのか、また、評価基準や昇給、昇格、賞与等のしくみをどのようにするのかについて検討するとともに、その内容に沿った就業規則等の整備が必要となります。また、教育・研修制度をどの程度まで実施するのかについても検討しておく必要があります。

(2)人事制度その他の諸制度の見直し

正社員転換型や新たな雇用区分への転換型を採用する場合には、資格や等級、役職等の基本的な体系や昇降格のしくみなどの人事フレームを検討するとともに、評価制度や賃金制度、賞与制度などの諸制度を設計する必要があります。

(3)就業規則・雇用契約書等の見直し

無期転換後の雇用区分を3つのうちのどの類型にするかよって就業規則等の定め方が異なります。まず正社員転換型の場合には、すでにある就業規則を特段見直す必要はありません。これに対して、スライド型の場合には、無期転換労働者用の就業規則等を別途作成するのか、有期契約社員の就業規則等において無期転換後の労働条件等を書き分けるのかを検討したうえで就業規則の制改定を行うこととなります。また、新たな雇用区分への転換型の場合には、労働条件をどのようにするかを検討したうえで、新たに就業規則等を作成していくこととなります。この場合、正社員と有期契約労働者の中間の位置づけとなるため、これらを対比させたうえで、新たな労働条件を検討するとよいでしょう。

(4)定年再雇用者に無期転換申込権を発生させないための特例申請

定年後、有期契約で引き続き雇用される従業員については、無期転換申込権を発生させない特例が設けられています。この特例を受けるためには、都道府県労働局長に申請して適切な雇用管理に関する計画の認定を受けるとともに、有期契約労働者の雇用契約書に特例に関する事項を明示する必要があります。

6.雇止めの留意点

無期転換ルールの対応について、これを回避するために契約期間満了による雇止めを慎重に検討する必要があります。

なぜなら、雇止めの有効性は、雇用の臨時性・常用性、更新回数、雇用の通算期間、契約更新の期待を抱かせるような使用者の言動の有無などを総合考慮して、個々の事案ごとに判断されるものであり、単に契約更新の際に、「本契約をもって終了する」とか「次回契約更新をもって終了する」など、契約更新の上限を定めたからといって、雇止めが有効に成立するとは限らないからです。

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