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人事労務コラム Column

2019.06.01

人事労務Q&A

試用期間中の者にも最低賃金が適用されるか

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

Q.ここ数年、最低賃金が大幅にアップしていますが、人件費の高騰のため経営が苦しくなっているのに、これではやっていけません。そこで、今後、できるだけ人件費を低く抑えたいと思っていますが、試用期間(3ヵ月)中だけでも最低賃金以下の給与にすることはできないでしょうか?

A.最低賃金は、1959年に制定された最低賃金法(以下「最賃法」という。それまでは労働基準法で定められていた)によって、賃金の低い労働者について、賃金の最低限度を保障するセーフティネットとして設けられたものですが、2008年7月1日に改正最賃法が施行され、試用期間中の者や精神または身体の障害により著しく労働能力の低い者など、一定の範囲の者について最低賃金の適用を除外するという従来の定めが廃止され、新たに最低賃金の減額の特例規定が設けられるなどの改正が行われました。

では、最低賃金制度の概要について見たあと、減額の特例について見てみましょう。

(1)最低賃金とは

最低賃金には、都道府県ごとに定められる地域別最低賃金と、特定の産業(都道府県により異なる)で定められる特定(産業別)最低賃金の2種類がありますが、地域別最低賃金は、すべての都道府県で、地域における労働者の生計費、労働者の賃金、通常の事業の賃金支払能力を考慮して、最低賃金審議会の意見を聴いて決められることとされています(最賃法第9条第1項及び第2項)。

かねてより最低賃金額が生活保護水準を下回る地域があるという点が問題となっていましたが、改正最賃法では、「労働者の生計費を考慮するに当たっては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮するものとする」(同法第9条第3項)と定められ、さらに、2010年頃、最低賃金が生活保護基準を下回る“逆転現象”が社会問題化し、最低賃金の意義はどのようなものなのかについて議論が巻き起こりました。

これを受けた形で、2010年6月に政府主導の会議(雇用戦略対話)において、2020年までの「できる限り早期に全国最低800円を確保し、景気状況に配慮しつつ、全国平均1000円を目指すこと」とされ、毎年、3%程度を目安に引き上げが行われることとされました。当時の全国最低が629円、全国平均が713円だったことからすると、相当思い切った目標であることが見てとれます。

また、特定最低賃金は、関係労使の申出を受けた行政機関(厚生労働大臣または都道府県労働局長)が、最低賃金審議会の意見を聴いて決定できるものとされています(同法第15条第2項)が、その額は、地域別最低賃金額を上回らなければならないこととされています(同法第16条)。

(2)最低賃金の対象となる賃金

最低賃金の対象となる賃金は、通常の労働時間、労働日に対応する賃金に限られており、例えば、臨時に支払われた賃金および1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金、時間外労働手当、休日労働手当、深夜手当、精皆勤手当、家族手当、通勤手当などは最低賃金の基礎となる賃金から除外されます。

したがって、最低賃金の基礎から除外される上記の賃金を含めれば最低賃金を上回る場合でも、通常の労働時間、労働日に対応する賃金だけでみると最低賃金を下回ってしまう場合には違法となります。

なお、最低賃金を下回るかどうかは、日給制や月給制の場合にも、時間額に換算した額と最低賃金額を比較して判断されます。

(3)最低賃金の減額の特例

最低賃金の減額の特例とは、都道府県労働局長の許可を受けた場合に、一定の範囲の者について最低賃金を一定率減額したうえで適用するというものです(最賃法第7条)。これは、最低賃金のセーフティネットとしての機能を強化する観点から、従来のような適用除外規定を廃止し、減額特例規定に変更されたものです。

減額特例の対象労働者は、①精神または身体の障害により著しく労働能力の低い者、②試の使用期間(いわゆる試用期間)中の者、③基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受ける者のうち省令で定める者、④軽易な業務に従事する者、⑤断続的労働に従事する者とされています。

なお、試用期間中の者に適用される減額率は最大で最低賃金額の20%以内とされており、減額特例が適用される期間の長さは最長で採用から6ヵ月以内です。したがって、試用期間中の6ヵ月について都道府県労働局長の許可を受ければ、最低賃金より最大20%減額した給与とすることができます。

(4)減額の特例が適用される要件

減額特例の対象となる試用期間は、当該期間中または当該期間の後に本採用とするか否かの判断を行うための試の使用期間として、労働協約、就業規則または労働契約で定められているものでなければなりません。

また、減額特例の許可が受けられるのは、①申請のあった業種または職種の本採用労働者の賃金水準が最低賃金と同程度である、②申請のあった業種または職種の本採用労働者に比べ、試用期間中の労働者の賃金を著しく低く定める慣行が存在する、という要件を満たす場合に限られるものとされています。つまり、業種や職種の実情等からみて、最低賃金を減額する合理的な理由がある場合にのみ許可の対象となるわけです。

したがって、ご質問にあるように、単に経営状況が厳しいという理由だけでは、減額の特例を受けることはできません。

(5)違反には罰金刑が科せられる

最賃法は、「使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない」(同法第4条第1項)と定めるとともに、「最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、最低賃金と同様の定をしたものとみなす」(同第2項)としており、地域別最低賃金額以上の賃金が支払われない場合には、50万円(改正前は2万円)以下の罰金に処すものとしています(同法第40条)。

ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

※本コラムは、2001年に日本生産性本部(当時「社会経済生産性本部」)のウェブサイト『人事労務相談室』で掲載した内容を一部リライトしたものです。

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