トップマネジメントから人事・労務の実務まで安心してお任せください!

人事労務コラム Column

2023.02.15

人事労務Q&A

試用期間中の者にも最低賃金が適用されるか

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

Q.ここ数年、最低賃金が大幅に引き上げられていますが、急激な円高や物価高騰のため経営が苦しくなっており、このままではやっていけません。そこで、できるだけ人件費を低く抑えたいのですが、試用期間中の者に対して最低賃金を下回る給与を支払うことはできるのでしょうか?

A.最低賃金は、1959年に制定された最低賃金法(以下「法」という。)によって、賃金の低い労働者について、賃金の最低限度を保障するセーフティネットとして設けられたものですが、2008年7月1日に改正法が施行され、試用期間中の者や精神または身体の障害により著しく労働能力の低い者など一定の範囲の者について、最低賃金の減額の特例規定が設けられました。

では、最低賃金制度の概要について見たあと、減額の特例について見てみましょう。

▽最低賃金の関連コラムをチェックする
・最低賃金とはなにか?① 最低賃金の種類と最低賃金の対象となる賃金の範囲について
・最低賃金とはなにか?② 減額特例、派遣労働者の最低賃金、最低賃金の確認方法ならびに最低賃金の罰則について

 

▽最新版の最低賃金に関する情報はこちら
・【令和5年(2023年)度版】最低賃金の改定(後編)~令和5年(2023年)度改定額~

 

1.最低賃金とは

最低賃金には、都道府県ごとに定められる「地域別最低賃金」と、特定の産業(都道府県により異なる)で定められる「特定(産業別)最低賃金」の2種類がありますが、「地域別最低賃金」は、すべての都道府県で、地域における労働者の生計費、労働者の賃金、通常の事業の賃金支払能力を考慮して、最低賃金審議会の意見を聴いて決められることとされています(法9条1項、2項)。

かねてより最低賃金額が生活保護水準を下回る地域があることが問題となっていましたが、改正法では、「労働者の生計費を考慮するに当たっては、労働者が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるよう、生活保護に係る施策との整合性に配慮するものとする」(法9条3項)と定められ、さらに、2000年代半ばに最低賃金で働いた場合の手取り額が生活保護の水準を下回る逆転現象、いわゆるワーキングプアの問題が社会問題化し、最低賃金の意義について議論が巻き起こりました。

これを受ける形で、「地域別最低賃金」は2007年以降、年率2%程度の引上げが行われていましたが、「経済財政運営と改革の基本方針2016」(2016年6月2日閣議決定)において、「年率3%程度を目途として、名目GDP成長率にも配慮しつつ引き上げ、全国加重平均が1,000円になることを目指す」こととされたことで、2016年以降、地域別最低賃金の全国加重平均は、対前年比で毎年3%程度の引上げが行われています。

なお、2020年は新型コロナウイルス感染症拡大による経済・雇用への影響等を踏まえ、引上げ額の目安を示すことが困難であり、前年度水準を維持することが適当とされ、0.11%の引上げにとどまりました。

一方、「特定(産業別)最低賃金」は、地域別最低賃金より高い最低賃金を定めることが必要と認められる特定の産業のみに適用される最低賃金として設定されており、セーフティネットとしての地域別最低賃金を補完する役割を果たすものと位置づけられています。

特定最低賃金は、関係労使の申出に基づいて、地方最低賃金審議会において調査審議が行われ、地域別最低賃金より高い最低賃金を定めることが必要と認められた場合に、都道府県労働局長から決定・公示がなされ、原則として、公示の日から30日を経過した日から効力が生じます(法19条)。

➡最低賃金制度の詳細についてはこちら(関連コラム)
 

▽最新版の最低賃金に関する情報はこちら
・【令和5年(2023年)度版】最低賃金の改定(後編)~令和5年(2023年)度改定額~

 

2.最低賃金の対象となる賃金

最低賃金の対象となる賃金は、通常の労働日、労働時間に対応する賃金に限られています。たとえば、臨時に支払われた賃金および1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金、時間外労働手当、休日労働手当、深夜手当、精皆勤手当、家族手当、通勤手当などは最低賃金の基礎となる賃金から除外されます。したがって、最低賃金の基礎から除外される上記の賃金を含めれば最低賃金を上回る場合でも、通常の労働日、労働時間に対応する賃金だけでみると最低賃金を下回ってしまう場合には違法となります。

なお、最低賃金を下回るかどうかは、日給制や月給制の場合にも、時間額に換算した額と最低賃金額を比較して判断されます。

3.最低賃金の減額の特例

最低賃金の減額の特例とは、都道府県労働局長の許可を受けた場合に、一定の範囲の者について最低賃金を一定率減額したうえで適用するというものです(法7条)。この特例は、最低賃金のセーフティネットとしての機能を強化する観点から設けられたもので、減額特例の対象労働者は、以下の者とされています。

 
【減額特例の対象労働者】

①  精神または身体の障害により著しく労働能力の低い者
②  試の使用期間(いわゆる試用期間)中の者
③  基礎的な技能等を内容とする認定職業訓練を受ける者のうち省令で定める者
④  軽易な業務に従事する者
⑤  断続的労働に従事する者

 

なお、試用期間中の者に適用される減額率は最大で最低賃金額の20%以内とされており、減額特例が適用される期間の長さは最長で採用から6ヵ月以内です。したがって、試用期間中の6ヵ月について都道府県労働局長の許可を受ければ、最低賃金より最大20%減額した給与とすることができます。

 

4.減額の特例が適用される要件

減額特例の対象となる試用期間は、当該期間中または当該期間の後に本採用とするか否かの判断を行うための試の使用期間として、労働協約、就業規則または労働契約で定められているものでなければなりません。

また、減額特例の許可が受けられるのは、下記の2つの要件を満たす場合に限られることとされています。

 
【減額特例の許可を受けるための要件】

①  減額特例の許可を受けようとする地域において、申請のあった業種または職種の本採用労働者の賃金水準がその地域の最低賃金と同程度であること
②  減額特例の許可を受けようとする地域において、申請のあった業種または職種の本採用労働者に比べ、試用期間中の労働者の賃金を著しく低額に定める慣行が存在するなど減額対象労働者の賃金を最低賃金額未満とすることに合理性があること

 

このため、ご質問にあるように、単に経営状況が厳しいという理由だけでは、減額の特例を受けることはできませんので、留意が必要です。

 

5.違反には罰金刑が科せられる

法では、「使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない」(法4条1項)と定められるとともに、「最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、最低賃金と同様の定をしたものとみなす」(同2項)とされており、地域別最低賃金額以上の賃金が支払われない場合には、50万円以下の罰金に処すこととされています(法40条)。

以上

 

初回投稿日 2019.6.1

更新日 2023.2.15

 

次回コラム: 【法改正!2023年4月解禁】 「賃金のデジタル払い」とは ①~ 制度の概要と導入のメリットについて ~

 

関連コラム:
【2022年10月改定!事業所ごとの確認が必要です!】各都道府県における最新の最低賃金について ~地域別最低賃金の全国一覧と助成金の解説~

 

ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

Contact お問い合わせ

人事・労務のご相談なら
ヒューマンテック経営研究所へ

> お問い合わせはこちら