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人事労務コラム Column

2022.12.15

法改正情報

【2022年10月改定!事業所ごとの確認が必要です!】 各都道府県における最新の最低賃金について ~地域別最低賃金の全国一覧と助成金の解説~

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

2022年8月23日に、厚生労働省より2022(令和4)年度の地域別最低賃金額の答申状況が公表され、10月1日以降、各都道府県にて最低賃金が改定されました。

最低賃金は、近年、大幅な引上げが続いていますが、これは、2000年代半ばに最低賃金で働いた場合の手取り額が生活保護の水準を下回る逆転現象、いわゆるワーキングプアの問題が社会問題化したことが背景にあり、2008年7月の改正法施行以降、最低賃金は全国平均で270円以上引き上げられています(2007年687円⇒2022年961円)。

前回まで、「最低賃金とはなにか」について2回にわたって解説しましたが、今回は各都道府県の2022年度改定額企業が賃金を引き上げた際に申請できる助成金について見ていきたいと思います。

 

▽最低賃金の関連コラムをチェックする
・最低賃金の種類と最低賃金の対象となる賃金の範囲について
・最低賃金の減額特例、派遣労働者の最低賃金、最低賃金の確認方法ならびに最低賃金の罰則について
・試用期間中の者にも最低賃金が適用されるか

 

1.引上げ額の目安と各都道府県の状況

中央最低賃金審議会が示した今年度の引上げ額の目安は、ランク(都道府県の経済実態に応じて区分されたABCDランク)別にA・Bランクが30円、C・Dランクが31円とされ、全国の加重平均額は、昨年度から31円引上げの961円とされました。全国加重平均額31円の引上げは、昨年度の28円を上回り、1978(昭和53)年度に目安制度が始まって以来、最高額となりました。

この目安額を参考に、各地方最低賃金審議会で審議が行われ、都道府県労働局長に対して改定額の答申が行われました。答申の結果、東京は31円引上げの1,072円、大阪は初めて1,000円を超える1,023円とされたほか、全都道府県で30~33円の引上げとなりました。また、急激な物価高への対応や人口流出防止等の観点から、あわせて22道県で目安額を上回る答申がなされ、とくに、現行の最低賃金が全国と比較して低い岩手、鳥取、島根、高知、沖縄の5県では、目安より3円増となりました。

答申された改定額は、関係労使からの異議申出に関する手続きを経て、毎年10月1日より順次発効されます。

2.各都道府県の最低賃金

各都道府県の2022(令和4)年度地域別最低賃金額および発効年月日は下表のとおりです。

【各都道府県の2022(令和4)年度地域別最低賃金】

3.最低額と最高額の差

前述したとおり、地域別最低賃金は都道府県ごとに定められていますが、今回改定された地域別最低賃金の最高額は東京の1,072円、最低額は沖縄など10県の853円で、最高額に対する最低額の比率は79.6%となっています。この比率は8年連続で縮小しており、都市部と地方における最低賃金の格差は徐々に小さくなっています

【地域別最低賃金の最低額と最高額の推移】

4.賃金を引き上げた際に申請できる助成金

最低賃金の引上げに伴って、事業場ごとの最低賃金が各都道府県の最低賃金を下回る場合、企業は賃金を引き上げなければなりませんが、所定の要件に該当すれば助成金を申請できます。ここでは、最近、拡充が行われた業務改善助成金とキャリアアップ助成金についてご紹介します。

(1)業務改善助成金

業務改善助成金は、事業場内で最も低い労働者の賃金を一定額以上引き上げ、生産性向上を目的とした設備投資等を行った中小企業・小規模事業者に対して、その費用の一部(最大600万円)を助成する制度です。

新型コロナウイルス感染症の影響により売上高が減少している事業者については、助成対象経費が拡大される特例が設けられていますが、2022年9月1日からは原材料費の高騰などで利益が減少した事業者を対象として、さらに設備投資等に対する助成範囲の拡大が行われています。また同時に、最低賃金が相対的に低い地域の事業者を対象として助成率の引上げも行われています。

なお、2022年12月2日に第二次補正予算が成立し、業務改善助成金の拡充に100億円を充てることとされました。その内容として、事業場規模要件の廃止事業場規模30人未満の事業者を対象とする助成上限額の引上げ特例事業者の助成対象経費の拡充が予定されています。また、助成金の申請期限は、2023年1月31日とされていますが、今後、延長される可能性がありますので、申請を検討される場合には、今後の動向に注意しておくようにしましょう。

(2)キャリアアップ助成金

キャリアアップ助成金とは、有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者等のいわゆる非正規雇用労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化、処遇改善の取組みを実施した事業主に対して助成する制度です。正社員化支援では、正社員化コース、障害者正社員化コース、処遇改善支援では賃金規定改定コース、賃金規定等改定コース、賞与・退職金制度導入コース、短時間労働者労働時間延長コースの6つのコースがあります。

このうちの「正社員化コース」は、有期雇用労働者等を正規雇用労働者に転換した場合に助成が行われるもので、主な要件としては、正規雇用労働者に転換する制度を就業規則等に規定するとともに、転換後6ヵ月間の賃金を転換前6ヵ月の賃金より3%以上増額させることなどがあります。

また、「賃金規定等改定コース」は、有期雇用労働者等の基本給の賃金規定等を増額改定し、実際に賃金を引き上げた場合に助成が行われるもので、主な要件としては、有期雇用労働者等の基本給を賃金規定等に定めるとともに、賃金規定等を3%以上増額改定し、改定後の規定に基づき6ヵ月分の賃金を支給することなどがあります。

5.おわりに

政府は、2022年6月7日に発表された「経済財政運営と改革の基本方針 2022」において、「最低賃金の引上げの環境整備を一層進めるためにも事業再構築・生産性向上に取り組む中小企業へのきめ細やかな支援や取引適正化等に取り組みつつ、景気や物価動向を踏まえ、地域間格差にも配慮しながら、できる限り早期に最低賃金の全国加重平均が 1,000 円以上となることを目指し、引上げに取り組む」としています。このことから、来年度以降も同様に大幅な引上げが見込まれると同時に、賃金引上げの環境整備の一環として助成金の拡充が見込まれます。企業においては、今回ご紹介した助成金を有効に活用しながら最低賃金の引上げに取り組んでいくとよいでしょう。

 

前回コラム:
【基礎から解説!】最低賃金とはなにか?(後編) ~減額特例、派遣労働者の最低賃金、最低賃金の確認方法ならびに最低賃金の罰則について解説~

 

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【基礎から解説!】最低賃金とはなにか?(前編) ~最低賃金の種類と最低賃金の対象となる賃金の範囲について解説~
【試用期間中の者に最低賃金は適用されるか】

 

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