2022.12.01
特集
【基礎から解説!】最低賃金とはなにか?(前編) ~最低賃金の種類と最低賃金の対象となる賃金の範囲について解説~
近年、最低賃金が大きく引き上げられ社会的な関心が高まっています。とくに、最近の急速な円安や物価上昇を背景に、最低賃金が労働者の生活に与える影響はますます大きなものになっています。このような中、企業ではパートやアルバイトの時給だけでなく、正社員の賃金の見直しを迫られるケースも出てきています。
そこで今回は、あらためて最低賃金とはなにかについて、基礎から解説していきます。
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・各都道府県における最新の最低賃金について
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1.最低賃金とは
最低賃金制度は、国が法的強制力をもって賃金の最低額を定め、使用者に対して、最低賃金以上の賃金額を労働者に支払うことを義務づける制度です。最低賃金は、最低賃金法の定めによって、賃金決定の際に一定水準を下回る低賃金を排除し、労働条件の改善を図るものであり、最低賃金を下回る賃金を支払うことについて労働者から個別の同意を得た場合であっても、その同意は無効となります。
最低賃金には、「地域別最低賃金」と「特定(産業別)最低賃金」の2つがあります。ここでは、それぞれについて詳しく見てみましょう。
(1)地域別最低賃金
まず、地域別最低賃金とはどのようなものかについて見ていきたいと思います。
① 決定方法
地域別最低賃金は、すべての労働者について最低限度の賃金水準を保障するセーフティネットとして、都道府県労働局長が決定することとされています。これは、産業や職種にかかわらず、都道府県内のすべての労働者と使用者に適用されるもので、都道府県ごとに47の最低賃金が定められています。たとえば、東京に本社があり、大阪に支社がある場合には、東京本社は東京の地域別最低賃金、大阪支社は大阪の地域別最低賃金がそれぞれ適用されます。
② 決定基準
地域別最低賃金の決定にあたっては、「労働者の生計費」、「類似の労働者の賃金」、「通常の事業の賃金支払能力」の3つを総合的に勘案することとされており、毎年10月に見直しが行われます。
③ 決定スケジュール
最低賃金の決定スケジュールとしては、例年7月から厚生労働省に設置された中央最低賃金審議会が労使間で調査審議を行い、7月末に各都道府県にランクごとの引上げ額の目安を提示し、8月初旬からそれを参考にそれぞれの地方最低賃金審議会で審議が行われ、各都道府県労働局長によって決定されます。決定された最低賃金は、通常、9月初旬に官報で公示され、その30日後となる10月初旬に発効しますが、議論の進捗の遅い都道府県では発表が9月後半、発効が10月下旬になることもあります。
【地域別最低賃金の決定スケジュール】
④ 全国加重平均額と引上げ率
最低賃金については、「経済財政運営と改革の基本方針2016」(2016年6月2日閣議決定)において、「年率3%程度を目途として、名目GDP成長率にも配慮しつつ引き上げ、全国加重平均が1,000円になることを目指す」こととされました。これ以降、最低賃金額の全国加重平均は、対前年比で毎年3%程度の引上げが行われています。
なお、2020年は新型コロナウイルス感染症拡大による経済・雇用への影響等を踏まえ、引上げ額の目安を示すことが困難であり、前年度水準を維持することが適当とされ、0.11%の引上げにとどまりました。
【地域別最低賃金の全国加重平均額と引上げ率の推移】
(2)特定(産業別)最低賃金
特定(産業別)最低賃金は、特定の産業について、関係労使が基幹的労働者を対象として、地域別最低賃金より高い最低賃金を定めることが必要と認められるものについて設定されており、セーフティネットとしての地域別最低賃金を補完する役割を果たすものと位置づけられています。
特定(産業別)最低賃金は、関係労使の申出に基づいて、地方最低賃金審議会において調査審議が行われ、地域別最低賃金より高い最低賃金を定めることが必要と認められた場合に、都道府県労働局長から決定・公示がなされ、原則として、公示の日から30日を経過した日から効力が発生します(法19条)。
地域別最低賃金との比較が必要となるため、多くの特定(産業別)最低賃金は、地域別最低賃金が発効された後の11月頃に各都道府県労働局長より決定・公示がなされ、12月より順次発効されます。
また、地域別最低賃金と特定(産業別)最低賃金が同時に適用される労働者については、いずれか高い方の最低賃金が適用されます。
2.最低賃金の対象となる賃金の範囲
最低賃金法は、1959年に労働基準法から分離独立して制定された賃金の最低額を定める法律です。したがって、最低賃金法における賃金は、基本的に労働基準法の賃金の定義と同じですが、最低賃金に達しているかどうかを判断する際には、実際に支払われる賃金から、下記の賃金を除いた額を用いることとされています。
【最低賃金の対象から除かれる賃金】
① | 臨時に支払われる賃金(結婚祝金等) | |
② | 1ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与等) | |
③ | 所定時間外労働、所定休日労働および深夜労働に対して支払われる賃金(割増賃金等) | |
④ | 当該最低賃金において算入しないことを定める賃金(精皆勤手当、通勤手当および家族手当) |
3.おわりに
今回は、最低賃金の基礎について見てきました。2.で説明したように支払われる賃金のすべてが最低賃金の対象となるわけではありませんので、対象となる賃金についてしっかりと理解しておくことが重要です。
次回は、最低賃金の減額特例や派遣労働者の最低賃金など、より詳細な内容について見ていきます。
以上
次回コラム:
【基礎から解説!】最低賃金とはなにか?(後編)~ 減額特例、派遣労働者の最低賃金、最低賃金の確認方法ならびに最低賃金の罰則について解説 ~
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ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)