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人事労務コラム Column

2020.06.01

特集

自然災害時における労務管理上の対応実務

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

ここ数年、台風やゲリラ豪雨、地震などの大災害が頻発しており、昨年も台風15号、19号が各地に甚大な被害をもたらしました。これらの自然災害によって生じる交通網の寸断やインフラの麻痺、さらには被災そのものによって事業活動に影響が及んだ場合、企業にはさまざまな緊急対応が求められます。そこで今回は、自然災害時における労務管理上のポイントについて、いくつかお話したいと思います。

1.休業手当

はじめに、労働基準法26条では、使用者の責めに帰すべき事由により、労働者を休業させた場合、休業期間中の労働者に対して、平均賃金の60%以上の手当を支払わなければならないこととされています。

この「使用者の責めに帰すべき事由」には、広く使用者側に起因する管理上・経営上の障害等が含まれることとされていますが、次の2つの要件を満たす休業の場合には、使用者の責めに帰すべき事由に該当せず、休業手当の支払義務が生じません。

1つめは、その原因が事業の外部より発生した事故であること、2つめは、使用者が通常の経営者として最大の注意を尽くしてもなお避けることができない事故であることです。このことから、台風や地震等の自然災害による休業は不可抗力とされる可能性が高いものと考えられます。

2.非常時払い

次に、労働基準法25条に定める非常時払いについて見ていきたいと思います。労働者が出産、疾病、災害等の非常の場合の費用に充てるために請求した場合、使用者は、賃金支払期日前であっても、すでに行われた労働に対する賃金を支払わなければならないこととされています。ここでいう「災害」には、業務上の災害だけでなく、台風や地震等の自然災害も含まれるものと解されます。

また、労働者の家族等が被災したり居住地区が避難地域に指定されるなどにより、住居の変更を余儀なくされた場合の費用についても、「非常の場合の費用」に該当するものと解されます。

3.解雇

次に、解雇時の取扱いについてですが、労働基準法19条では、「業務災害により休業する期間とその後30日間」および「産前産後休業期間とその後30日間」は解雇してはならないとされており、また、労働基準法20条では、労働者を解雇する場合、少なくとも30日前にその予告をしなければならないとされています。これらの定めはいずれも、「天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合」には、例外として適用しないこととされているため、台風や地震等によって事業場が損壊するなど直接的な被害を受けて操業不能に陥ったような場合には、この例外に該当することが考えられます。

なお、解雇について、労働契約法では、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には、その権利を濫用したものとして無効になるとしていますが、台風や地震等により業績が急激に悪化するなど経営上の理由により労働者を整理解雇せざるを得ない場合の解雇の有効性の判断にあたっては、人員整理の必要性や解雇回避の努力義務、人選の合理性などの要素を踏まえて検討を行う必要がある点に留意が必要です。

4.非常災害時の時間外・休日労働

最後に、労働基準法33条の非常災害時の時間外・休日労働について見ていきましょう。労働基準法では、労働者に時間外・休日労働をさせる場合、労働者の過半数代表者と三六協定を締結したうえで所轄労働基準監督署に届け出なければならず、三六協定を締結していない場合や協定に記載されている延長時間を超えている場合には、原則として、時間外・休日労働をさせることができないこととされています。

これが時間外・休日労働の原則ですが、労働基準法33条では、特例として、災害その他避けることのできない事由により臨時に時間外・休日労働をさせる必要がある場合において、労働基準監督署長の許可を受けまたは事後に届け出たときは、三六協定を届け出ていない場合や三六協定で締結した延長時間を超える場合であっても、時間外・休日労働を行わせることができることとされています。ただし、この場合の判断は厳格になされることとされており、人命や公益の保護の観点から急務な場合や労働させなければ事業運営が不可能となるようなひっ迫したケースに限られるとされています。

具体的には、災害その他避けることのできない事由により被害を受けた電気、ガス、水道等のライフラインや安全な道路交通の早期復旧のための対応などが含まれます。これらは、他の事業場からの協力要請に応じる場合においても、人命または公益の確保のために協力要請に応じる場合や協力要請に応じないことで事業運営が不可能となる場合には認めるとされています。

5.さいごに

以上、自然災害発生時の労務管理に関する労働基準法の定めについて見てきました。自然災害はいつ発生するか予測することが難しく、発生時に迅速な判断が必要となるため、日ごろから休業に関する取扱いや災害時の時間外労働など、実際に自然災害が発生した場合を想定して、非常災害時の労務管理の対応について検討していくことが望まれます。

ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

※本コラムは、「日経トップリーダー」経営者クラブ『トップの情報CD』(2020年6月号、日経BP発行)での出講内容を一部編集したものです。

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