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人事労務コラム Column

2021.05.15

法改正情報

70歳までの就業機会確保措置(後編)

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

前回は、改正高齢者雇用安定法における70歳までの就業機会確保措置のうち、70歳までの継続雇用制度の内容を中心に見てきましたが、今回は、創業支援等措置の内容について解説していきたいと思います。

 

前回コラム: 「70歳までの就業機会確保措置(前編)」

 

1.創業支援等措置とは

前回見たとおり、改正高齢者雇用安定法における70歳までの就業機会確保措置には、70歳までの「継続雇用制度等」(前回コラム1.(2)①~③)のほか、雇用によらない以下の「創業支援等措置」(前回コラム1.(2)④および⑤)があります。

 

70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入
a) 事業主が自ら実施する社会貢献事業
b) 事業主が委託、出資(資金提供)等する団体(公益社団法人に限らない)が行う社会貢献事業

 

⑤a)およびb)の「社会貢献事業」とは、不特定かつ多数の者の利益に資することを目的とした事業を指します。事業が「社会貢献事業」に該当するか否かは、事業の性質や内容等を勘案して判断することとなりますが、特定の宗教の教義を広め、儀式行事を行い、信者を教化育成することを目的とする事業や、特定の公職の候補者や公職にある者、政党を推薦・支持・反対することを目的とする事業などは、ここでいう「社会貢献事業」には該当しないこととされています。

また、⑤b)に基づいて、自社以外の団体が実施する社会貢献事業に従事できる制度を選択する場合、自社から団体に対して、事業の運営に対する出資(寄付等を含む。)や事務スペースの提供など社会貢献活動の実施に必要な援助を行っていることが必要となりますので、留意が必要です。

なお、他の団体で⑤b)の措置を行う場合、自社と団体との間で、当該団体が高年齢者に対して社会貢献活動に従事する機会を提供することを約する契約を締結する必要があるとされています。

 

2.創業支援等措置実施の手続きと留意点

創業支援等措置を講ずる場合、原則として、下記のすべての事項を実施計画に記載する必要があります。

高年齢者就業確保措置のうち、創業支援等措置を講ずる理由
高年齢者が従事する業務の内容に関する事項
高年齢者に支払う金銭に関する事項
契約を締結する頻度に関する事項
契約に係る納品に関する事項
契約の変更に関する事項
契約の終了に関する事項(契約の解除事由を含む。)
諸経費の取扱いに関する事項
安全および衛生に関する事項
災害補償および業務外の傷病扶助に関する事項
社会貢献事業を実施する団体に関する事項
 ①~⑪のほか、創業支援等措置の対象となる労働者のすべてに適用される事項

 

「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律施行規則の一部を改正する省令」では、実施計画について、過半数労働組合等の同意を得ることが必要とされます。また、同意を得た実施計画について、常時事業所の見やすい場所に掲示する方法や書面の交付、磁気テープ、磁気ディスク等に記録し常時確認できるようにしておくなどの方法で労働者に周知することとされています。

その他の留意点としては、業務の内容について高年齢者のニーズを踏まえるとともに、高年齢者の知識・経験・能力等を考慮した上で決定し、契約内容の一方的な決定や不当な契約条件の押し付けにならないようにする必要があります。また、支払われる金銭について、業務の内容や当該業務の遂行に必要な知識・経験・能力、業務量等を考慮したものとなるよう留意する必要があります。契約に係る点としては、個々の高年齢者の希望を踏まえつつ、個々の業務の内容・難易度や業務量等を考慮し、できるだけ過大または過小な業務量や頻度にならないよう留意することとされています。

 

3.労働者性に関する留意点

創業支援等措置は雇用によらない措置であるため、個々の高年齢者の働き方について、労働者性が認められるような働き方とならないように留意する必要があります。労働基準法上の労働者性の有無の判断は、労働基準法研究会報告(昭和60年12月19日)の判断基準に基づいて、活動実態を総合的に勘案して判断することとなります。

 

【労働者性の判断基準】

使用従属性
a) 指揮監督下の労働であるかどうか
(1) 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
(2) 業務遂行上の指揮監督の有無
(3) 拘束性の有無
(4) 代替性の有無
b) 報酬の労務対償性
労働者性の判断を補強する要素があるかどうか
a) 事業者性の有無
(1) 機械、器具の負担関係
(2) 報酬の額
b) 専属性の程度
c) その他

 

4.おわりに

前回と今回の2回にわたり、改正高年齢者雇用安定法の内容のうち、70歳までの就業機会確保措置について見てきました。今回の改正に伴い、高年齢者等の職業の安定に関する施策の基本となるべき方針(高年齢者等職業安定対策基本方針)が新たに発出され、今後の高年齢者の雇用状況や労働力の需給調整に関する制度等の動向に照らして必要な改正を行うこととされました。本方針の対象期間は2021年4月から2026年3月までとされており、2026年4月以降、義務規定になることも考えられるため、引き続きその動向に注視する必要があります。

70歳までの就業機会確保措置を導入する場合、雇用継続制度等または創業支援等措置のいずれを活用するかによって留意すべき点が異なりますので、制度の趣旨や実施可能な措置、手続き等を考慮したうえで制度内容を検討していく必要があります。

以上

 

 

ヒューマンテック経営研究所
所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

※本コラムは、2021年5月にPHP研究所ビデオアーカイブズプラス『社員研修VAプラス会員専用サイト・人事労務相談室Q&A』で掲載された内容をリライトしたものです。

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