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人事労務コラム Column

2025.08.01

法改正情報

【2025年6月成立】年金制度が改正されます!! ~ 社会保険の適用拡大など ~

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

2025年の通常国会で年金制度改正法(※1)が成立し、6月20日に公布されました。企業実務においても対応が必要となる改正が含まれていますので、これから2回にわたって改正法の概要を解説していきます。

※1 正式名称は「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律」という。

 

1.改正の全体像

年金制度改正法の改正事項は多岐にわたりますが、実務に影響のあるポイントをまとめると以下のとおりです。今回は以下の【図表1】のうち(1)~(3)について、次回は(4)~(6)について解説します。

 

【図表1】年金制度改正法の改正の概要

改正事項 施行日
(1)社会保険の適用拡大等
改正事項により、
 2026年10月1日
 2027年10月1日
 2029年10月1日
 公布日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日
(2)在職老齢年金制度の見直し
2026年4月1日
(3)厚生年金保険等の標準報酬月額の
    上限の段階的引上げ
2027年9月1日
(4)遺族年金の見直し
2028年4月1日
(5)私的年金制度の見直し
改正事項により、
 公布日から起算して3年もしくは5年を
 超えない範囲内において政令で定める日
(6)その他年金制度にかかる見直し
改正事項により異なる

 

2.改正ポイントの解説

では、1の(1)~(3)についてそれぞれ見ていきましょう。

 

(1)社会保険の適用拡大等

働く人の将来の年金増額などを目的として、短時間労働者の社会保険加入要件の一部撤廃や個人事業所の適用対象の拡大等の改正が行われます。

 

① 短時間労働者の社会保険加入要件の一部撤廃[施行日:2027年10月1日および公布日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日]

現在、週所定労働時間または月所定労働日数が通常の労働者の4分の3未満である短時間労働者については、以下の要件をすべて満たした場合に社会保険に加入することとされていますが、これらの要件のうちa)企業規模要件とb)賃金要件が撤廃されます。

 

a)従業員が一定数以上の適用事業所(特定適用事業所)に勤務している【企業規模要件】
b)所定内賃金が月額88,000円以上である【賃金要件】
c)週所定労働時間が20時間以上である
d)2ヵ月を超える雇用の見込みがある
e)学生ではない

 

まずa)企業規模要件の撤廃について見ていきます。現在は、従業員が51人以上の適用事業所である「特定適用事業所」に勤務している場合に限り、上記の短時間労働者は社会保険に加入することとされていますが、この取扱いが施行日(2027年10月1日)から段階的に縮小・廃止されます。具体的には【図表2】のように徐々に特定適用事業所の範囲が拡大され、2035年10月以降は、上記c)~e)の要件を満たせば企業規模にかかわらず社会保険に加入することとなります。

【図表2】対象企業の規模要件の段階的縮小・廃止

現在 2027年10月以降 2029年10月以降 2032年10月以降 2035年10月以降
51人以上の企業
36~50人の企業
21~35人の企業
11~20人の企業
1~10人の企業

 

次にb)賃金要件については、いわゆる「年収106万円の壁」として意識されていることなどを踏まえて廃止されます。施行日は「公布日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日」とされており、全国の最低賃金の引上げ状況を見極めて判断される予定です。

 

② 個人事業所の適用対象の拡大[施行日:2029年10月1日]

現在、常時5人以上の者を使用する個人事業所について、法律で定める17業種は社会保険が強制的に適用される一方、その他の業種(農業、林業、漁業、宿泊業、飲食サービス業等)は適用対象外とされています(※2)。改正後はこの非適用業種が解消され、すべての業種が強制的に適用対象となります。ただし、その他の業種のうち、施行日時点ですでに存在している事業所は当分の間は適用対象とはなりません。

 

※2 現在も労使の合意により任意で適用対象となることは可能。

 

【図表3】新たに社会保険の適用対象となる個人事業所

(資料出所:厚生労働省「改正事項について解説した補足資料」(概要版))

 

③ 社会保険の適用拡大の対象となる短時間労働者への支援[施行日:2026年10月1日]

前述した企業規模要件の見直しなどにより新たに社会保険の加入対象となる短時間労働者に対し、事業主の追加負担により、3年間社会保険料の負担割合を軽減できる特例的な措置が実施されます。なお、事業主が追加負担した保険料については、国などがその全額を支援することとされています。

 

(2)在職老齢年金制度の見直し[施行日:2026年4月1日]

年金を受給しながら働く高齢者については、賃金と老齢厚生年金の合計が一定の基準額を超えると老齢厚生年金が減額される制度(在職老齢年金制度)が適用されています。この制度が高齢者の労働意欲を削ぎ、労働参加の妨げとなっていると考えられることから、高齢者の活躍を後押しする等の観点で見直しが行われることとなりました。具体的には、年金が減額となる基準額が月50万円(2024年度価格)から62万円へと引き上げられます。

(3)厚生年金保険等の標準報酬月額の上限の段階的引上げ[施行日:2027年9月1日]

賃金が月65万円を超える労働者が賃金に応じた保険料を負担するとともに、より現役時代の賃金に見合った年金を受け取れるようにすることなどを目的として、厚生年金保険料や年金額の算定に用いられる標準報酬月額の上限が、月65万円から75万円へと段階的に引き上げられます(【図表4】参照)。

【図表4】標準報酬月額上限の段階的引上げ

現在 2027年9月以降 2028年9月以降 2029年9月以降
65万円
68万円
71万円
75万円

 

またこれとあわせて、標準報酬月額の等級区分において、最高等級の者が被保険者全体に占める割合に基づき、標準報酬月額の上限を改定することを可能とするルールが導入されます。

3.おわりに

今回は、2025年通常国会で成立した年金制度改正法をとり上げて解説しました。社会保険手続きや給与計算等の実務に影響する改正も含まれていますので、自社でどのような対応が必要になるかを早めに確認しておくことが重要です。
次回も引き続き年金制度改正法の概要について見ていきます。

以上


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