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人事労務コラム Column

2022.10.15

法改正情報

【法改正】女性活躍推進法 ~ 男女の賃金差異の開示義務化の概要について ~

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

2022年7月8日に女性活躍推進法の省令・告示が改正・施行され、301人以上の企業に対し、男女間の賃金の差異について情報を公表することが義務づけられました。
そこで、今回は男女の賃金差異に関する情報公表の概要について解説していきたいと思います。

▽改正女性活躍推進法の関連コラムをチェックする
-【2022年7月】男女の賃金差異の開示義務化について-
・男女の賃金差異の開示義務化の概要について
・(厚労省Q&Aを基に解説)賃金差異の算出方法について
・(厚労省Q&Aを基に解説)賃金差異の公表方法等について
-【2022年4月】一般事業主行動計画の策定義務等の対象企業の拡大について-
・改正概要および一般事業主行動計画の策定方法等について

 

1.女性活躍推進法に基づく省令・告示の改正の概要

常時雇用する労働者が101人以上の事業主は、女性活躍推進法に基づいて、 (1)一般事業主行動計画(以下、「行動計画」という。)の策定・届出・社内周知・外部公表(法8条1~5項)、(2)女性活躍に関する情報の公表(法20条)が求められています。

このうち、(2)の情報公表とは、自社の女性活躍に関するデータを社外に向けて公表することです。改正前の情報公表項目は、以下の2つの区分に分類された15項目とされていました。

【改正前の情報公表項目】

女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供(8項目)
Ⅱ  職業生活と家庭生活の両立(7項目)

 

常時雇用される労働者が301人以上の企業の場合、従来は、上記ⅠとⅡの区分ごとに任意の項目を1つずつ、合計2項目以上の情報公表が必要とされていましたが、今回の省令の改正により、Ⅰの区分に新たな項目として「男女の賃金の差異」が追加され、これまでの「区分ごとに1項目ずつ」の情報公表に加え、雇用する男女労働者の賃金差異を必ず公表しなければならないこととされたのです。

なお、101人以上300人以下の企業および情報公表が努力義務とされている100人以下の企業は、これまでどおりすべての項目(改正後は16項目)から任意の1項目以上の公表でよいこととされています。改正後の情報公表項目を表でまとめると次のとおりです。

 

【改正後の情報公表義務】

区分 情報公表項目 301人以上 300人以下

女性労働者に対する職業生活に関する機会の提供
採用した労働者に占める女性労働者の割合 ①~⑧から1項目以上選択して公表 ⅠおよびⅡの合計16項目から1項目以上選択して公表(100人以下は努力義務)
男女別の採用における競争倍率
労働者に占める女性労働者の割合
係長級にある者に占める女性労働者の割合
管理職に占める女性労働者の割合
役員に占める女性労働者の割合
男女別の職種または雇用形態の転換実績
男女別の再雇用または中途採用の実績
男女の賃金の差異(新設) 必ず公表

職業生活と家庭生活との両立
男女の平均継続勤務年数の差異 ①~⑦から1項目以上選択して公表
10事業年度前およびその前後の事業年度に採用された労働者の男女別の継続雇用割合
男女別の育児休業取得率
労働者の一月当たりの平均残業時間
雇用管理区分ごとの労働者の一月当たりの平均残業時間
有給休暇取得率
雇用管理区分ごとの有給休暇取得率

 

2.男女の賃金差異の情報公表の具体的取扱い

では、男女の賃金差異を公表する場合の具体的な取扱いについて見ていきましょう。

(1)公表内容

男女の賃金の差異は、「全労働者」、「正規雇用労働者」、「非正規雇用労働者」の3つの区分ごとに公表する必要があります(それぞれの区分の定義は後述します)。また、男女の賃金の差異を算出した対象期間を明示しなければなりません。なお、算出の前提とした重要事項(賃金から除外した手当の名称や「正規雇用労働者」「非正規雇用労働者」の各区分には企業内のどのような労働者が該当するか等)は記載することが望ましいとされています(令和4.7.8雇均発0708第2号)。

(2)男女の賃金差異の算出

男女の賃金差異は、直近の事業年度の総賃金を当該事業年度に雇用した労働者の数(人員数)で除した平均年間賃金について、男女別および3つの雇用管理区分ごとに算出し、それぞれ女性の平均年間賃金を男性の平均年間賃金で除して割合(%)で示すこととされています。
具体的な算出の手順は、厚生労働省解説資料「女性活躍推進法に基づく男女の賃金の差異の情報公表について」(2022年7月29日公表)に示されていますので、その内容に沿って見ていきましょう。

① 労働者の分類

前述したとおり、「全労働者」、「正規雇用労働者」、「非正規雇用労働者」の3区分で男女の賃金の差異を公表する必要があることから、まず、男性と女性のそれぞれにおいて雇用形態別に労働者を分ける必要があります。各区分の定義は以下のとおりです。

【雇用形態の定義】

  区  分    定   義 
全労働者 「正規雇用労働者」と「非正規雇用労働者」の合計
正規雇用労働者 期間の定めなくフルタイム勤務する労働者
非正規雇用労働者(※)

・パートタイム労働者(1週間の所定労働時間が同一の事業主に雇用される正規雇用労働者に比べて短い労働者)
・有期雇用労働者(事業主と期間の定めのある労働契約を締結している労働者)

※ 派遣労働者は派遣元事業主において算出するため、派遣先の事業主の算出対象である「非正規雇用労働者」からは除外されます。

 

② 総賃金と人員数の算出

労働者を雇用形態ごとに分けた後は、各区分において直近の事業年度における「総賃金」「人員数」を算出することが必要です。

算出する「総賃金」における「賃金」とは、労働基準法11条の定義と同様、賃金、給与、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対象として使用者が労働者に支払うすべてのものとされています。ただし、「退職手当」は年度を超える労務の対価であるという理由から、また、「通勤手当」等は経費の実費弁償という性格を有するという理由から、個々の事業主の判断によりそれぞれ「賃金」から除外しても差し支えないこととされています(前掲通達)。

 

「人員数」の算出方法については細かく指定されていませんが、前掲通達では、人員数の算出方法の一例として、各月の特定の日(給与の支払い日、月末日など)に雇用している労働者の数の合計値を12ヵ月平均で計算する方法が挙げられています。また、パート労働者について、正規雇用労働者の所定労働時間等を基準として1日4時間勤務のパート労働者を「1/2日または1/2人」で計算するという例が示されています。ただし、男女で異なる考え方をしないことや、将来の公表を通じて一貫性のある方法を採用することが必要です。

③ 平均年間賃金の算出と割合の算出

男女別に分かれている①の「正規雇用労働者」、「非正規雇用労働者」、「全労働者」の各区分において、②の「総賃金÷人員数」により平均年間賃金を算出します。また、同様の方法で、「全労働者」の区分における平均年間賃金を算出します。

そのうえで、「全労働者」、「正規雇用労働者」、「非正規雇用労働者」の3区分において、「女性の平均年間賃金÷男性の平均年間賃金」を計算することにより、男女の賃金の差異の割合を算出することとされています。

なお、男女の賃金の差異の背景事情がある場合など、数値だけでは伝えきれない自社の実情を説明するために、より詳細な情報や補足的な情報を追加情報として公表することが可能です。その方法として、「説明欄」を有効に活用することが推奨されています。たとえば、女性活躍推進の観点から女性の新卒採用を強化した結果、相対的に賃金水準の低い女性労働者が増えて男女の賃金格差が拡大した等の事情があれば、そのことを説明欄に記載することが考えられます。

(3)公表方法

他の情報公表項目と同様に、厚生労働省が運営する「女性の活躍推進企業データベース」や自社ホームページへの掲載等によることとされています。

(4)公表の時期

「男女賃金の差異」の情報公表は、各事業年度が終了し、新たな事業年度が開始した後、おおむね3ヵ月以内に公表することとされています。たとえば、事業年度が8月~翌年7月の企業の場合は「おおむね10月末まで」に、事業年度が4月~翌年3月の企業の場合は「おおむね6月末まで」に公表することが求められます。

なお、初回については、本改正の施行日が2022年7月8日であるため、事業年度が4月~翌年3月の企業の場合は「おおむね2023年6月末まで」に、事業年度が8月~翌年7月の企業の場合は「おおむね2022年10月末まで」に公表する必要があります。

3.おわりに

男女の賃金の差異に関する情報公表については、計算方法など個々の企業に決定が委ねられていることが多く、企業内での十分な検討が必要となります。どのようなルールで人数の算出を行うか、「説明欄」にどのような内容を掲載するかなど、早めに公表の準備を行うことが望ましいでしょう。

以上

 

次回コラム: 
(厚労省Q&Aを基に解説)賃金差異の算出方法について

 

関連コラム:
(厚労省Q&Aを基に解説)賃金差異の公表方法等について
 改正概要および一般事業主行動計画の策定方法等について

 

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