2025.09.15
法改正情報
【2025年10月以降改定!】2025年度 地域別最低賃金について
2025年9月5日に厚生労働省より2025年度の地域別最低賃金額の答申状況が公表されました。今年度の改定額の全国加重平均額は1,121円で昨年度からの上昇額は66円となり、1978年度に目安制度が始まって以降、最高の引上げ額となりました。
最低賃金は、ここ数年、大幅な引上げが続いていますが、これは近年の急激な円安による物価高騰や深刻な人手不足などが背景にあります。一方で、今年度は労働者側と使用者側で引上げ額の折り合いがつかない県が多く、例年8月中になされる答申が9月にずれ込んだ県もいくつかありました。
今回は、過去最高の引上げとなった2025年度の地域別最低賃金の改定額について見ていきたいと思います。
1.引上げ目安額と各都道府県の状況
各都道府県の引上げ目安額は、毎年度、中央最低賃金審議会から各都道府県の経済実態に応じて区分されたA~Cのランクごとに示されます。例年、都市部のAランクが高い目安額となる傾向にありましたが、近年は、地域間格差への配慮の観点から、2023年度にはAからDまでの4ランクであったものがAからCの3ランクに変更され、2024年度には引上げの目安額がAランクからCランクまですべて同額とされるなどの動きが見られました。今年度は、引き続き地域間格差に配慮したうえで、Cランクの物価上昇率が最も高くなっていることから労働者の生計費が重視された結果、Aランク、Bランクが63円、Cランクが64円の引き上げとされ、初めて下位ランクの目安額が上位ランクの目安額を上回りました。
この目安額を参考に各地方最低賃金審議会から各都道府県労働局長に対して答申がなされ、今年度はすべての都道府県において最低賃金額が1,000円を超える金額となりました。また、ここ数年続く物価高への対応や地域間の人材獲得競争の観点から、とくに地方のCランクの県において目安額より大幅な上乗せをする傾向が多く見られました。具体的には、引上げ額が最も高かった熊本県では82円の引上げとなり、続いて大分県で81円、秋田県で80円、岩手県で79円、群馬県、福島県、長崎県で78円、山形県、愛媛県で77円、青森県で76円とされました。審議は他県の動向を見極めるため全体に長期化し、中には県知事が最低賃金の引上げ要請をしたり、審議会の使用者側委員がすべて退席した中で答申が決定された県もありました。
答申された改定額は10月1日より順次発効されますが、本年の答申では使用者側の準備期間に配慮して発効日を10月より遅く設定する県も多く、2025年10月1日から2026年3月31日までと幅があるため注意を要します。なお、関係労使からの異議申出があった場合には、異議申出にかかる調査審議を経て発効となります。
2.各都道府県の最低賃金
各都道府県の2025年度地域別最低賃金額および発効年月日は下表のとおりです。
【図表1 各都道府県の2025年度地域別最低賃金】
3.最低額と最高額の差
地域別最低賃金については、政府の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」の2023年改訂版から2025年改訂版に「地域別最低賃金の最高額に対する最低額の比率を引き上げる等、地域間格差の是正を図る。」という方針が盛り込まれており、地域間格差の解消が課題とされてきましたが、この比率は11年連続で縮小しており、都市部と地方における最低賃金の格差は徐々に縮小しています。
今年度の改正後の最高額と最低額の差は203円とまだ小さくはありませんが、今年度は引上げ目安額がAランク、Bランクで63円、Cランクで64円と過去最高の引き上げ目安額であることに加え、地方では目安額より大幅な上乗せがなされたことから、最高額(東京)1,226円と最低額(高知、宮崎、沖縄)1,023円の比率は83.4%となり、昨年の81.8%よりも格差が縮小しているため、来年度以降もさらなる縮小が予想されます。
【図表2 地域別最低賃金の最低額と最高額の推移】
4.おわりに
今年度は最低賃金を目安額より大幅に引き上げる県が多く見られましたが、最低賃金の引上げへの対応については、政府の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2025年改訂版」および「経済財政運営と改革の基本方針2025」に基づき、「中小企業・小規模事業者の賃金向上推進5か年計画」の中で、価格転嫁・取引適正化の徹底、生産性向上、事業承継・M&Aを通じた経営基盤の強化などの施策が実施されることとされています。このため、中小企業の生産性向上を目的として、各府省における以下の助成金および補助金の対象の拡大、要件緩和等の措置が講じられることが公表されています。
【図表3 対象拡大または要件緩和等の措置が講じられる助成金および補助金】
①業務改善助成金(厚生労働省)
②ものづくり補助金(経済産業省)
③IT導入補助金(経済産業省)
④中小企業省力化投資補助金<一般型>(経済産業省)
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政府は2020年代に最低賃金の全国平均を1,500円とすることを目標としており、また、人手不足の状況下で地方での人材獲得競争が激化していることから、来年度以降も最低賃金引上げ目安額より大幅な引上げが予想されます。このような状況の中、最低賃金の上昇に対応する方策として、生産性の向上に取り組むことが、企業に一層強く求められていくと考えられます。
以上
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所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)