トップマネジメントから人事・労務の実務まで安心してお任せください!

人事労務コラム Column

2026.10.01

特集

【裁判例解説】同一労働同一賃金に関する注目の裁判例 ~無期雇用労働者間の待遇の相違が争われた東北映像事件~

ヒューマンテック経営研究所 所長 藤原伸吾(特定社会保険労務士)

パートタイム・有期雇用労働法では、正社員とパートタイム労働者または有期雇用労働者の間に不合理な待遇差を設けてはならないとされています(いわゆる「同一労働同一賃金」)。この同一労働同一賃金に関し、注目すべき判決が確定しました。

「東北映像事件」は、パートタイム・有期雇用労働法が適用されないフルタイム無期雇用の契約社員と正社員の待遇の相違が違法か否か争われた裁判です。2025年9月に高裁の判決が下されたのち最高裁に上告されていましたが、上告不受理となったため2026年4月に高裁判決が確定しました。今回は、本事件の概要について見たうえで、高裁の判断について解説していきます。

 

1.事件の概要

本事件は、放送番組の製作・編集等を業とするY社で契約社員(無期労働契約)として勤務していた原告Xが、基本給、賞与、家族手当、住宅手当について正社員と相違があるのは労働契約法3条2項(均衡考慮の原則※)に違反し、憲法14条(法の下の平等)や民法90条(公序良俗)を根拠とする公序ともいうべき均等待遇の原則に反するなどと主張して損害賠償を求めた事案です。

高裁は、一部の待遇の相違について違法と認め、Y社に約193万円の損害賠償を命じました。この損害賠償額について、第一審の地裁判決では、2012年4月以降(家族手当については2003年4月以降)の期間について不法行為の成立を認め、Y社に対し約586万円の支払いを命じましたが、控訴審の高裁判決では、不法行為の成立を2020年4月1日以降の期間に限定したことなどから、賠償額は第一審の認容額の約3分の1に減額されました。

※ 労働契約法3条2項では、「労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする。」と定められている(均衡考慮の原則)。

 

2.高裁の判断のポイント

高裁は、パートタイム・有期雇用労働法が立法を経て社会に定着してきた経緯を踏まえるとともに、同法が適用されない無期雇用の契約社員等について、正社員との間で労働条件の格差を設けられている点では有期雇用労働者と変わりがないこと、また雇止めの有無によって有期雇用労働者との待遇の相違を強調するのは相当でないことに鑑みると、均等・均衡待遇ルールを定めるパートタイム・有期雇用労働法8条および9条(図表参照)が施行された2020年4月1日以降については、無期雇用の契約社員等と正社員間の労働条件においても同ルールが「公序」として社会内に確立していると認めるのが相当だと判断しました。

したがって、2020年4月1日以降においては、無期労働契約の労働者間の労働条件の相違が不合理であって、その程度が社会通念上許容されない場合は違法となり、不法行為を構成すると判示しました。また、その不合理性の判断において、パートタイム・有期雇用労働法8条および9条の規定の趣旨が重要な指標になるとしました。

 

【図表 パートタイム・有期雇用労働法8条および9条(均等・均衡待遇ルール)】

パートタイム・有期雇用労働法8条
(均衡待遇)
 基本給・賞与その他の待遇ごとに、その性質・目的に照らして、①職務内容、②職務内容・配置の変更範囲(人材活用の仕組みや運用など)、③その他の事情のうち、適切と認められるものを考慮して、パートタイム・有期雇用労働者と正規雇用労働者との間に不合理な相違を設けてはならない
パートタイム・有期雇用労働法9条
(均等待遇)
  ①職務内容、②職務内容・配置の変更範囲(人材活用の仕組みや運用など) が同じ場合は、 パートタイム・有期雇用労働者であることを理由として、基本給・賞与その他の待遇のそれぞれについて差別的取扱いをしてはならない

 

一方で、2020年3月31日以前においては、均等・均衡待遇ルールが無期労働契約の労働者間の労働条件の相違をも規律する公序として社会内で確立していたとまでは認められないと指摘しました。また、原告Xが違法性の根拠として主張した労働契約法3条2項は訓示規定であり、特定の労働契約が同条に違反しても契約を無効とする効果や不法行為としての違法性が生じるものではなく、2020年3月31日以前に原告Xと正社員との間で賃金における待遇差があったとしても違法とはいえないと判断しました。

高裁は、この判断の枠組みに基づき、2020年4月1日以降の期間に限り、原告Xが受けた待遇ごとに不法行為の成否を検討しました。

 

3.各待遇の相違についての判断

ここからはそれぞれの待遇の相違について、高裁の判断を見ていきます。

(1)基本給

2020年4月から2024年3月までの原告Xの基本給は、比較対象とされた特定の正社員(以下、「比較対象社員」という。)の79.7~82.4%でした。比較対象社員の職務の内容は原告Xと概ね同一であり、採用時から一貫して職務の内容および配置の変更はありませんでしたが、これはY社における業務上の必要性や人員配置上の都合等から比較対象社員が他の正社員よりも有利な待遇を受けているにすぎず、一般の正社員については原告Xとは業務内容が質的に異なるうえ、業務に伴う責任の程度も大きく異なっていると指摘しました。そして、こうした相違を考慮すれば、正社員と原告Xの基本給の相違は社会通念上許容されない程度に不合理であるとはいえないから、不法行為は成立しないと判断しました。

(2)賞与

2020年4月から2024年3月までのXの賞与は比較対象社員の37.0~43.3%でした。高裁では、Xと正社員との職務内容および異動の範囲の相違を考慮すれば、賞与にある程度の相違を設けるのは、将来に向けての労働意欲の向上や人材育成等の賞与を支給する趣旨の一側面に照らして適切であるとしつつ、他方で、賞与には労務の対価の後払いや功労報償としての性質もあり、その趣旨は無期契約社員にも妥当することに照らすと、賞与の相違は、これらの複合的な性質を踏まえた合理的なものでなければならないとしました。これらのことを踏まえると、同時期の比較対象社員の賞与の7割を下回るのは不合理であって社会通念上許容されず、その限度で原告Xに対する不法行為が成立すると判断しました。

(3)家族手当

Y社は正社員については配偶者1万3,000円(月額)、子1人につき7,000円(月額)の家族手当を支給しているのに対し、原告Xには扶養親族である子が1人いるにもかかわらず、家族手当を支給していませんでした。Y社は長期雇用制度の下、有為な人材の確保・定着のため、社員の金銭的な負担を軽減する目的で家族手当を支給していると主張しましたが、高裁は、Y社の家族手当は扶養親族の有無、属性および人数に着目して金額が定められていることから生活費の補助としての性質を有すると判断したうえで、無期契約社員として採用された原告Xについても長期雇用を前提に人材の確保・定着を期待していたというべきであることから、2020年4月1日以降、正社員と同等の家族手当を支給しないことは不合理であって社会通念上許容されず、原告Xに対する不法行為が成立すると判断しました。

(4)住宅手当

Y社では正社員に対し、扶養親族がある場合には住宅手当2万円(月額)を、扶養親族がない場合には住宅手当1万7,000円(月額)を支給しているのに対し、原告Xには扶養親族があるにもかかわらず住宅手当の支給額は1万円(月額)にとどまっていました。

Y社はこの相違の理由について、正社員については転勤があるため住宅費用の補助の要請が高いことを主張しましたが、2011年から2024年までの間に、転居が想定される本社と各支所との間で実際に転勤があったのは、正社員であった者が定年退職後に再雇用された有期嘱託社員に限られていました。

このように、Y社における住宅手当は扶養親族の有無に着目して金額が定められており、生活費の補助としての性質を有するものと解されること、また、2020年4月1日の時点では正社員と無期契約社員である原告Xとの間で住宅費用の補助を要する程度に差はまったくなかったことから、2020年4月1日以降、原告Xに対して正社員と同等の住宅手当を支給しないことは不合理であって社会通念上許容されないといわざるを得ず、その待遇差の限度で違法であり、不法行為が成立すると判断しました。

 

4.本判決の意義

前述のとおり、パートタイム・有期雇用労働法は原告Xのようなフルタイム無期雇用労働者には適用されませんが、本判決は、フルタイム無期雇用労働者と正社員間の待遇差について、同法の趣旨に基づきその不合理性を判断した点に意義があったといえます。これまでフルタイム無期雇用労働者間の待遇差を違法とした確定判決はなく、こうした労働者間であっても不合理な待遇の相違がある場合には公序違反として不法行為を構成すると認めた本判決は注目を集めました。

 

5.おわりに

2026年10月から適用される改正同一労働同一賃金ガイドラインでは、フルタイム無期雇用労働者に対するガイドラインの趣旨の波及が記載されましたが、本判決でも同様の姿勢が示されたといえます。改正ガイドラインおよび本判決を踏まえ、自社のパートタイム・有期雇用労働者と正社員の待遇差だけではなく、フルタイム無期雇用労働者との待遇差についても確認し、不合理な待遇差をなくす取組みをするほか、不合理でない待遇差については、待遇差の説明を求められた際にその理由を説明できるようにしておくことが肝要です。

以上

 


 《詳しくはこちら(業務案内)》


 

▽関連コラムをチェックする▽
2026.08.01 【2026年10月改正】パートタイム・有期雇用労働法施行規則・雇用管理指針の概要
2026.06.15 【2026年10月施行】改正同一労働同一賃金ガイドラインを分かりやすく解説!(前編)
2026.07.01 【2026年10月施行】改正同一労働同一賃金ガイドラインを分かりやすく解説!(後編)

Contact お問い合わせ

人事・労務のご相談なら
ヒューマンテック経営研究所へ

> お問い合わせはこちら